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持続的経済成長を目指す中国の課題 : 西部大開発

研究員 荒井 崇

2000年7月

要旨

インフラ建設と自然環境保護

全国人民代表大会(以下、全人代)における朱鎔基総理の政府活動報告では「西部大開発」が重要テーマのひとつとしてとりあげられた。活動報告における「西部大開発」の骨子は、(1)インフラ建設の加速、(2)自然環境保護の強化、(3)科学技術の発展と人材育成、(4)対外開放の拡大、からなるがインフラ建設と自然環境保護の二つがポイントとなる。

インフラ建設の中でも特に道路建設を中心に交通インフラ建設に重点をおくと政府活動報告では明言されている。これは西部地域(10省・自治区)の大都市を中心に都市圏を育成するために道路建設を進め、大都市をハブに周辺の中小都市をスポークとすることによる都市圏育成を目的とするためである。道路整備を重点に、鉄道、空港、天然ガスのパイプラインの建設を推進し東部地域と西部地域のリンケージを強化するねらいである。

また自然環境保護では、耕地の森林転換や長江、黄河上流の天然林保護プロジェクトを推進する計画である。また北京、上海など東部地域に酸性雨を降らせる原因となっているNOx、SOxの排出を減少させるため、効率の悪い燃焼機関から脱硫効果が高い機関へと交換させることも必要としている。

ところで、西部地域とは中国を東部、中部、西部と分けた場合の呼称であり、東部に比べ経済発展が遅々として進まない地域である。行政区画では新彊ウイグル族自治区、重慶市、青海省、雲南省、四川省、寧夏回族自治区、陜西省、チベット自治区、甘粛省、貴州省の10省市・自治区が属する。ここに広西チワン族自治区が「西部」の枠に入るかどうかという議論がある。「西部地域」に認定されるかどうかには大きな意味がある。認定されれば中央からの財政支援があり、多額の資金が必要とされるインフラ建設・資源開発を進められるためである。このため全人代において各省から積極的な働きかけがあった。

西部大開発の必要性と実現可能性

中国は改革開放から20年間年平均9.6%という成長を遂げてきた。しかし近年の経済成長率は8.8%→7.8%→7.1%と低下傾向にあり、デフレ現象も見られる。また国有企業改革において下崗(レイオフ)されている労働者は1999年末で650万人、失業者をあわせれば1,200万人にのぼり今後も増加傾向にあり、経済の先行きに懸念材料となっている。中国経済運営が必ずしもうまくいっていない今、なぜ西部大開発を行うのであろうか。

この厳しい経済状況の中、敢えて西部大開発を進めるのは「地域経済格差の是正」を目指すためである。改革開放以後の急速な経済成長は東部地域に対する政策的傾斜や各種優遇政策によるものであり、この過程で東部と中西部の経済格差は拡大した。99年の全国GDPを見ると、東部6割、中部3割、西部1割の比重となっている。更に1人あたりの所得水準では、西部を1とすればで東部は10以上という格差がある。この経済格差の拡大が社会不安につながりかねず、持続的な経済成長の妨げとなっている。

鄧小平氏は東部沿海地域の発展戦略をとる際、同時に「先富後来」(先に豊かになったものが後進のものを引っ張りあげること)を将来的に求めた。これは経済格差の 拡大が社会不安を引き起こすことを懸念したためである。21世紀に中国が経済成長を持続させるためには、経済格差を是正し社会不安を縮小させる西部地域の経済底上げが必要不可欠である。

では西部大開発プロジェクトははたして実現できるのであろうか。国家発展計画委員会において制定している「第十次5ヵ年計画」及び「2010年までの長期経済建設計画」において西部大開発プロジェクトには10年間で8兆元(99年のGDP総額に匹敵)という巨額の資金が必要であるという試算になっている。

99年の財政収入は1兆元程度、うち建設投資関連支出は年間2,000億元程度であり、10年間でも2兆元程度(すべてつぎ込んでも計画金額の4分の1)となる。とても財政だけではこれをまかえない。そこで中国の民間資金の活用が必要となると同時に外資への期待が高まっている。

日本に対する期待

諸外国へ西部大開発に対する経済協力が求められるなか、世界銀行は既に10億ドルの拠出を決定した。日本への資金協力(円借款・融資)期待も高まっている。ただし、日本の対中資金協力について一部に批判がある。批判としては、円借款で作られた北京空港が債権者の了承なく株を外国の企業に売却したり、北京に建設した地下鉄にほとんど乗客がいないなど、資金が正しく効率的に使われているのか等の議論である。これについて中国側の責任もあるが、日本側にも反省すべき点がある。これまでは支援のルールとして、「金は出しても口は出さなかった」。

こうした批判を背景に対中援助を中止せよという議論もでている。これは政策判断として得策とは言えない。なぜならば日本にとってこの西部大開発は重要な意味を持つからである。西部地域は酸性雨の原因となるNOx、SOxの排出源地域であり、環境面からも日本にも影響がある。また進出企業にとっては交通・通信インフラの未成熟が沿海地域から内陸地域への市場展開のボトルネックである。これまでこの分野への投資においては各種規制があったが、WTO加盟を契機として外資への開放が進むであろう。西部大開発は中国に対する日本のODA(政府開発援助)の対象としてのみではなく、様々な民間ベースの日中共同事業を促進させる可能性がある。

今後の対中援助には「金も出すが口も出す」とういう姿勢が必要となろう。具体的には、(1)支援プロジェクトの選定に参画する、(2)プロジェクトの実施において資金が正しく使われているかをチェックするなどフォローアップを充実させる、ことが求められる。

西部大開発は息の長いプロジェクトである。今後の課題として人材の育成・教育を考えなくてはならない。開発プロジェクトはとかくハコモノ作りに目が行きがちであるが、ボトムアップを図るためには人材育成・教育の充実も欠かせず、日本の対中援助にもこうした視点が重要となろう。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 持続的経済成長を目指す中国の課題 : 西部大開発 [107 KB]