米国経済 : ニュー・エコノミー、バブル、成長減速
主席研究員 中山 真一
2000年7月
要旨
1990年代米国経済の拡大
米国経済は1993年第1四半期に前期比 - 0.1%の成長になったのを除き、91年第2四半期以降,本年第1四半期までで9年間不況に陥ることなく第2次世界大戦後最長の経済拡大を続けている。この経済成長は期間だけでなく成長率でも目覚しい。92年以降の米国の実質平均成長率は3.6%であり世界平均の3.2%を1割以上上回っている。米国は70年代から80年代にかけての相対的な衰退を逆転させ、米国の世界経済に占める割合は名目で91年から99年の間に約4分の1から約3割まで増加した。高成長を遂げた東アジアは90年から97年の間、中国,香港、台湾,韓国、ASEAN5ヵ国を合せて世界経済の4.4%から7.3%へと約3%シェアを増加させたが、米国はほぼ同期間に東アジアを大幅に上回る経済の拡大を遂げたわけである。
このような長期的好況は、ニュー・エコノミー論のいうような米国経済の変貌と96年ころから顕著になった株式価格上昇に代表される資産バブル形成が個人消費を増加させ、更なる好況という「資産バブルの好循環」によるところが大きい。しかしながら最近この好循環は限界に近づきつつあり、加熱した景気を事前に抑え、これまでより低い成長率にソフト・ランデングする必要性が高まっている。
ニュー・エコノミー論
96年ころから、ニュー・エコノミー論がよく唱えられるようになった。バリエーションはあるが、(1)70年代後半航空業から始まった規制緩和による経済の効率化、(2)東西冷戦の終了による「資本主義」経済の拡大というグローバリゼーションの進展、(3)デジタル化、インターネットに見られる情報技術革命に米国がいち早く取り組んだので、生産性が向上しインフレを伴わないより高い成長が可能となり、更に情報化の進展による需要・生産の直結により在庫が減少し景気循環も少なくなる「ニュー・エコノミー」に移行したという見解である。生産性の上昇は実際のデータに現れていないので「生産性パラドックス」と言われていたが、最近情報革命の成長への貢献がそれまでの成長率0.5%から96年以降約1%に増加したという論文がでて成長への貢献は実際にあると考える。
資産バブル
ニュー・エコノミー論とほぼ時を同じくして資産価格上昇が顕著になった。株価は95年から99年まで年平均25%の上昇を続けた。それ以前の20年間の年平均上昇率は約10%であり、情報革命による新規事業の収益率を考えてもきわめて強気の将来期待に支えられたところが大きい。この背景にはインターネット利用が人口比でも、絶対数でも進んだことがある。北米のインターネット利用者は95年には10人に1人であったが2000年には2人に1人と予測され5年で5倍になり、世界のインターネット利用者(95年には1,000人に8人、2000年は100人に6人)に大きく先行した。したがって情報関連で米国に新規事業が生まれやすく、株価が上昇しやすい状況にあった。株価の上昇は新規事業へのインセンテイブ、資本供給に有利に働き、更に家計の金融資産に株式が占める割合が高いので資産効果を通じ個人消費を刺激した。家計の金融資産は45年から95年の平均は名目GDPの約2.5倍であったのが、95年から99年の間に急増し3.8倍になった。家計の貯蓄率は92年の8.3%から99年には2.4%まで低下し個人消費の拡大、景気を支えた。個人消費の成長への寄与度は成長率の半分を超えている。消費支出拡大のうち貯蓄率の減少による部分は15%程度であり、単純に試算するとバブルの成長寄与度は0.5%である。目の子算では米国経済率は情報革命で0.5%、バブルで0.5%高くなっている。
米国の対外債務と成長減速
米国の経済成長は対外債務の増加により支えられているという側面があり、対外面では少なくとも黄色信号になっている。米国の経常収支は82年から赤字を続け87年にはGDP比3.6%まで悪化した。その後改善に向かったが92年から再度悪化して99年には3.7%までになっている。この経常収支赤字の裏返しが資本収支の黒字である。米国からみるとフローでは経常収支の赤字を上回る資金流入があり、99年でGDPの4.0%である。ストックでは外国が保有する米国の金融資産は、99年末で政府証券が1.7兆ドル、米国企業債が0.8兆ドル、米国企業株式が1.2兆ドルなどであり、それぞれの金融資産残高の22.5%、6.4%、18%である。
その他世界は、97年には全外国金融投資の33%、98年には25%を米国向けに行った。項目毎にみると当該年について対外直接投資の32%、37%、証券投資の42%、32%、その他投資の26%、6%が米国向けで直接投資、証券投資で米国向け比率が高い。米国に対する債権残高をその他世界のGDP比でみると85年から94年までは15%程度で推移したのが95年から99年の間20%から40%と急増している。米国経済の将来への賭け金を倍にしたが不安材料は以前に比べて大きいという状況にある。
懸念材料は、輸入が対GDP比、対世界輸入比でも急増し始めており、一方輸出は停滞傾向に入っているが実質為替レートは切り上がり、失業率の低下からインフレが生じ始めたこと等であり、景気の過熱を抑えるため引締政策が必要と見なされ出した。情報革命分野でも国内市場は今後5年間インターネット利用者の伸びは1.5倍と予測され、情報関連市場の伸びは鈍化する可能性もある。したがって政策のタイミング如何では外国資金流出による市場(為替レート)の調整が先行し混乱が生じる懸念がある。
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