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アジア通貨危機後のビジネス戦略と今日的課題

主任研究員 立木 デニス

2000年7月

要旨

アジア通貨危機の影響

1997年のアジアの通貨危機を契機に、日系企業はアジアでのビジネス戦略の再検討を迫られた。1997年の第2四半期を境に、通貨危機後NIES3ヵ国(台湾、香港、シンガポール)における日系企業の売り上げは徐々に減少し、1999年度には売り上げは最低値にまで落ち込んだ。

ASEAN4ヵ国(タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシア)では、売上高はすべての業種において急速に減少し、特に自動車産業では、 - 50%、金属業では - 40%、非鉄金属業では - 38%であった。しかし、産業機械、食品、窯業などの分野においては、売り上げの落ち込みはそこまで顕著ではなかった。

これら2分野の売り上げの格差が意味するところは、前者の産業では、通貨の引き下げと、現地の売り上げの極端な落ち込みの影響を受けていたことを意味し、後者の分野ではこれらの影響をそれほど受けなかったことがわかる。いくつかの日系企業では、通貨の引き下げと現地の売り上げの極端な落ち込みという二重の問題を克服していたことがわかる。

まず、第1に、アジア通貨危機後、日系企業は、より安価な労働力を獲得することにより、原材料価格の上昇による打撃を抑制することができた。雇用に関する海外の子会社におけるデータを見てみると、1998年の第2四半期まで雇用率は下がらず、売り上げを通貨危機前のレベルにまで迅速に復活させることができた産業においては、より安価な労働力を獲得することにより、雇用を通貨危機以前より、拡大することができた企業もあることがわかる。特に、アセアン4ヵ国では、化学、窯業、産業機械、電気機械、自動車、精密機器、などの分野に、これらの傾向が見られ、NIES3ヵ国では、自動車産業においてこの傾向が著しい。

第2に、歳入及び歳出を円建て、またはドル建てで行っている日系企業においては、現地通貨の切り下げの影響を受けることが少なかった。親会社は、たとえば、資金援助、ローンの保証、商品入荷前の支払いなどの資本注入により、子会社を支援した。いくつかの例では、日本輸出入銀行のローン貸し出し額が増額され、子会社は経営を存続させることができた。

第3に、日系企業は売り上げをアジア国内向けから、日本と第三国向けの輸出重視へとその配分を移行した。実際に、輸出率(輸出売り上げの総売り上げに対する割合)は食品と金属業を除いてすべての業種において上昇した。

これらの対策を通して、通貨危機を切り抜けるために、ほとんどの日系企業では、うまく復興戦略を打ち出せたことがわかる。とはいうものの、短期的な打撃を受けたことは、明らかであるし、競争力の維持という点において、米国や欧州の競合相手と比較すると、弱い立場に陥ったことは否定できない。現地の経営者たちによると、通貨危機を乗り越えた今日、工場の機能をフルに回転させることや、資金繰りの調整、新しい輸出先のマーケットの拡大などが、アジアでの日系企業が現在、直面する最も重要課題である。

通貨危機後、日系企業は何を学んだか

日本の経営者が抱える中期的課題は、アジア通貨危機で明らかとなったビジネス戦略の脆弱さをいかに改善し、アピールするかである。それに関し、多くの経営者は、特に調達及びマーケティングの分野において、大きな改善が必要であると考えている。

1.調達における課題-日系企業の短期的な対応は、すでに提携している業者に対し、効率性を求め、現地調達を増やした。中期的な対応としては、業者とのネットワークを拡大することである。ひとつの方向としては国際的調達事務局を設置し、マーケット市場における競争力如何によって、調達をより敏速に柔軟性のある調達を可能にする。

また、長期的には、第三の国に調達先を移すか、または専門性のある地域に工場を移すことが考えられよう。後者の傾向は、電気、エレクトロニックスの分野で明らかであり、例えば、ICチップスのデザイン、及び、組み立ては台湾において行われるというようである。この戦略はすべての戦略に普及すると生産にかかわるすべての支出を抑制することができる。

2.マーケット獲得 - マーケットおよび営業部門においての危機に対する対策としては生産量の配分を国内及び海外の工場とにおいて再配分することであり、中期的な戦略としては、国際生産ネットワークにおいて弾力性を持たせることである。

マーケットや販売の分野では、従来以上に戦略的提携が行われるであろう。最近では中国の家電メーカーの進出により、日系企業も部品調達を海外で行うか、またはベトナムなどのように、より労働力の安価な地域に生産拠点に移すか、または、利益率の低い製品に関しては、生産をやめざるを得ないなどの選択をせまられるようになってきている。

今後、アジアにおけるビジネス戦略において、中期的には次の3つの事柄が重要となろう。第1に、より開放的な業者間の戦略的提携により、高技術に基づく生産体制作りを行い、いかなるリスクをも回避できるようにしなければならない。第2にインターネットや国際調達事務局の設置などを通じ、融通性が利き、弾力性に富んだ調達を可能にしなければならない。第3に、新しい市場確保のために、分散型の意思決定の体制を作るべきである。通貨危機後、経営者たちにとって、これらの対策を講じることが、競争力を高める上で重要な課題であろう。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF アジア通貨危機後のビジネス戦略と今日的課題 [76.9 KB]