日本版PFIの課題
客員研究員(立命館大学助教授)岸 道雄
2000年4月
要旨
1999年7月23日に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(いわゆるPFI推進法)が成立し、総理府のPFI推進委員会にて基本方針策定に向け検討が行われている。こうした動きの一方で、地方自治体の中には、国としての基本方針が策定される以前からPFIプロジェクトに取り組むところも出てきている。
PFIは資本支出を伴う公共サービス提供において、民間に設計、建設、資金調達、施設の維持管理運営を任せるものであるが、PFI成功のカギは、むしろ官側の実施体制の整備如何にかかっている。これが十分に認識されないままに各所でPFI構想が打ち出されている現状は憂慮すべき面があり、PFIがかえって高コストの公共プロジェクトになりかねない懸念がある。
以下では、日本版PFI成功のために克服されなければならないと思われる課題について考えてみたい。
PSCの算出技術の充実を
PFIが、従来型の公共プロジェクト(維持管理をも含む)と比べてより高いバリュー・フォー・マネー(VFM、費用対効果)を達成しうるか否かは、原則として、官側が公共部門比較値(Public Sector Comparator、PSC)と呼ばれる、リスクを勘案したライフ・サイクル・コストを算出し、PFIによるコストと比較して判断される。しかし、我が国の各政府機関・地方自治体には、このリスク評価と各リスクの価額付けに関するノウハウが不足している。官側が、PSCの算出、リスク評価・配分に関わる十分な知識・技術がないまま早急にPFIを実施しようとすれば、PFIでプロジェクトを行うこと自体が目的とされ、高いVFMを実現するという本来の目的を見失う恐れがある。もちろん、PSC作成には様々な仮定を設定する必要があり、その精緻化の困難性を指摘する意見もあるが、従来型の官主導のプロジェクトよりもPFIで実施するメリット(特にコスト面)を明確にする必要があるため、PSCの重要性を決して軽視してはならない。
費用・便益分析の重要性
PFIプロジェクトは民間資金によって推進され、公的部門は提供されるサービスを購入する義務を負うものである。つまり、公的部門にとって、いわゆる債務負担行為となる。債務負担行為は、政府・自治体の債務残高には計上されないため、国民、住民の目にはわかりにくい。PFIプロジェクトは、公的部門が20年~30年にわたって支払いを約束するものであることから、PFIプロジェクトの数、金額が増してくるにつれて、PFIに伴う債務負担行為に基づく単年度当たりの支出額のレベルをどの程度とするか(例えば予算規模の○%)、後年度負担額の総額をどの程度までとするかといったことの検討が必要である。そうでなければ、国民の目に見えにくいところでの新たな「財政の硬直化」要因となる。また、国・地方の政治家が、PFIを財政制約の中で新規プロジェクトを可能にする「打ち出の小槌」と考える傾向があることも否定できない。「プロジェクトを実施したいが予算がない。それならPFIで」という発想である。こうした政治家にとっての「誘惑」を排除する仕組みも必要である。
つまり、無駄なプロジェクトは実施しないようにする仕組みが求められる。我が国であまり議論されていない点であるが、PFIはプロジェクトそのものの執行費用の効率化に寄与しうるが、そもそもそのプロジェクトを実施すべきかどうか、他のプロジェクトと比較してどちらを優先させるべきかといった予算配分における効率化には直接結びつかない。イギリスでは、PFIであろうと通常の公共プロジェクトであろうと、資本支出を伴うプロジェクト推進の前にまず、費用・便益分析を行うことになっており、ここで精査され、選択されたプロジェクトのみが残る仕組みができている。我が国での現状では、PFIプロジェクトに進む前に、同様の仕組みを設定しておかないと、政治家主導の非効率(住民の便益と比較してコストが高過ぎる)と思われる施設整備をPFIで行うといった事態を招く可能性がある。
公的部門がサービス購入主体に徹しきれる体制を
PFIはニュー・パブリック・マネジメントの一形態である。すなわち、公的部門が供給主体ではなく、サービス購入主体となり、官と民の間、そして民間企業間における競争を通じて、より高いVFMを追求する仕組みである。公的部門がサービス購入主体となることは基本的に行政活動のアウトソーシングなので、政府・自治体内でそれまで設計、建設、あるいは管理運営を担当していた人員をどうするかを予め明確にしておくことも重要となる。つまり、PFIプロジェクトを受注する企業へ公務員が移転することを可能にするといった柔軟な制度的枠組みも必要である。ここを無視し、現状の制度的枠組みにおいてPFIを行えば、定員管理の面からPFIプロジェクト推進に制約がかかることを理解しなければならない。また、現状の公務員数を維持しつつ、PFIでプロジェクトを実施した場合、無駄な支出(人件費の重複)につながりうる。
求められる早急な官側の実施体制確立
PFIは、官側のVFM追求と民間側の利潤最大化の均衡点を探る仕組みであり、官民双方がそれぞれの目的を達成するようにならない限り、プロジェクト自体が途中で頓挫したり、PFIで行うことによってかえって公的負担が増加したりする可能性がある。ただし、この均衡点はただ単に民間に任せれば達成されるわけではない。官側の実施体制確立こそが日本版PFI成功のカギである。リスク評価に基づくPSCの算出手法の確立、費用・便益分析の徹底、競争環境の確保、余剰となる公務員処遇の明確化等、官側によるPFI実施のための早急な「インフラ整備」(制度作り)が求められている。
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