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成功するか東証マザーズ

主任研究員 梶山 恵司

2000年4月

要旨

昨年末、東証がベンチャー企業向けの市場であるマザーズを開設したのに加え、今年6月には、マザーズと競合するナスダック・ジャパンが立ち上がる予定である。更には、ベンチャー企業を呼び込むべく店頭市場も改革を進めており、2000年にはベンチャー企業をめぐって、市場間競争が一気に激化する。

従来、店頭特則市場などのベンチャー市場の試みはことごとく失敗してきたが、今回はどうか。ここでは、米ナスダックや独ノイアー・マルクトと比べ、マザーズの特徴を浮き彫りにし、その成功の可能性を探ってみた。

何でもありのマザーズ

昨年末にマザーズに上場した2銘柄(いずれもネット関連)には買いが殺到する一方で売り手不在の状況が続いていることから、株価は高騰を続けている。この結果、成長企業の株価水準をはかる指標として最近用いられるPSR(時価総額を売上高で割ったもの)は、1,200~1,500倍にも達している。ナスダックでもノイアー・マルクトでもPSRは平均40倍程度であり、人気の高い銘柄でも100倍強程度である。この基準からすれば、マザーズ上場2銘柄の株価は、実態から相当かけ離れた水準といえる。

その理由としては、市場がネット株ブームに沸く中で、上場銘柄が2銘柄しかないという需給環境に加え、公募前の発行済み株数1万3,000に対し、新規公募株数1,000株と、浮動株比率が8%にも達していないことが指摘できる。

更に、ナスダックやノイアー・マルクトで、流動性を確保する手段として義務付けられているマーケットメーク(根付け業者が投資家に対し、売値と買値を提示し、その値段で取引に応じること)を東証が採用しなかったことも、流動性の低さに拍車をかける結果となった。

また、マザーズのもう一つの問題点として、実質的な上場基準が「時価総額5億円(上場時)」しかなく、上場基準が極めて緩いことが指摘できる。ベンチャー株というだけで高値がつくという現在の状況下では、設立間もない、実績のほとんどない企業でさえ、この基準は容易にクリアーしうる。

しかも、実質的な上場審査は、引受証券会社が担うことになっており、東証は企業内容・リスク情報等の開示の適切性を審査するにとどまる。したがって、上場企業の質は、証券会社の引受審査能力とその経営姿勢に大きく左右されることになる。

つまり、マザーズは成長企業とされれば実績のほとんどない企業でも上場が可能となる市場であり、相当にハイリスクのマーケットとなっている。

この点、マザーズが、引受証券会社にマーケットメークを義務付ける制度を採用していれば、引受証券会社の上場審査に一定の歯止めをかけることができただろう。マーケットメーカーは大きなリスクを担うことはもちろん、アナリスト分析などによる株価・リスク判断体制や、高度なトレーディング能力も要求されるからである。

質と流動性をも重視するナスダック、ノイアー・マルクト

米ナスダックや独ノイアー・マルクトのコンセプトは、マザーズとは異なっている。

ナスダックは、インテルやマイクロソフトなどの優良企業向け市場であるナショナルマーケットと、創業間もない企業が公開するスモールキャップの2本建てとなっているが、スモールキャップでさえ、純資産(もしくは経常利益)、事業実績(もしくは時価総額)の基準が設けられており、日本で一般に思われているような、単なる多産多死のマーケットではない。しかも、スモールキャップは、プロの投資家を対象としており、一般投資家向けの市場とはなっていない(そもそも、ハイテク企業の評価には極めて専門的な知識が必要)。

また、ノイアー・マルクトも、その創設に際しては、「質と流動性の確保」が成功のための前提条件とされた。例えば、質の確保という点では、四半期報告、アナリストミーティングの義務付けに加えて、当初は「事業実績3年以上」の基準を設定し、上場対象をある程度実績のある企業に絞った。流動性については、マーケットメークの義務付け、浮動株比率実質25%以上の基準、グリーンシュー(新規公開株の10%まで証券会社が保有し、上場時に株価が過熱する恐れが出たとき、追加的に放出する制度)の採用等で、きめ細かな対応をはかった。

こうした努力により、ノイアー・マルクトは、「優良ベンチャー企業のための市場であり、リスクは高いがリターンも期待できる市場」とのイメージが固まり、内外投資家の信認を得ることができた

マザーズVSナスダック・ジャパン

米独と比較すると、マザーズはベンチャー市場の原則を無邪気に徹底させた市場であることがわかる。ハイテク関係のアナリスト・専門家、情報サービス網、洗練された投資家といったベンチャー市場を支えるインフラが未整備な日本で、こうした市場が根付くだろうか。

もちろん、東証が証券会社に対し、審査基準について慎重さを求めるといった形で、制度の運用によって上場企業の質をある程度確保することも可能だが、現在のところ東証は「多産多死」のコンセプトを徹底させたいようだ。

6月には、米ナスダックに準じた上場基準を持つナスダック・ジャパンがたちあがる。マザーズとナスダック・ジャパン、果たしてどちらが日本の市場に根付くだろうか。その行方は、今後のベンチャー市場のあり方に大きな影響を与えることになるだろう。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 成功するか東証マザーズ [73.6 KB]