不動産の証券化促進に向けて
主任研究員 米山 秀隆
2000年4月
要旨
リストラによる保有不動産の証券化
企業が保有不動産を証券化させる動きが活発となっている。証券化の典型的なスキームは次のようなものである。まず、企業が不動産の受け皿となる特定目的会社(SPC)を設立し、保有する不動産をSPCに売却する。そして、SPCが不動産を担保として有価証券を発行し、それを投資家に販売することで資金を調達する。テナントなどからSPCに支払われる賃借料が、投資家に利子や配当という形で支払われることになる。証券化の手法としては、SPCを使う方法のほか、信託銀行が資産を受益権などの形で小口商品化する信託方式、会社型の投資信託を作ってその株式を販売する方式(不動産投信)などがある。
最近の証券化の事例としては、東急不動産の赤坂東急ビル(1999年9月)、森永製菓本社ビル(2000年2月)、NEC本社ビル(2000年3月)、住友不動産の新宿住友ビル(2000年3月)などがあげられる。また、コスモ石油は、約400件のガソリンスタンドの証券化に踏み切った(2000年3月)。日興證券は、自社ビルの約60支店について、今年の春以降、順次、証券化を図って行く方針である。
企業が保有不動産の証券化を活発化させている背景には、リストラ圧力が高まっていることがある。最近の事例で、本社ビルでさえ証券化の対象となっていることが、このことを端的に示している。企業は、保有不動産の売却によって含み益を吐き出し、これをリストラの原資や有利子負債の圧縮に活用することができる。企業にとっては、証券化して小口化して売却した方が、単純に一括して売却するより、買い手が見つかりやすいというメリットもある。一方、機関投資家などにとっては、ゼロ金利が持続する中で、不動産証券化商品が新たな投資対象となりつつある。
都市開発の新たな資金調達手段
証券化は、国有地の売却方法としても注目されている。大蔵省は、有効に活用されていない国有地の売却を進めるため、2000年度から証券化の手法を活用していく方針である。国有地を、民間の不動産開発業者などが作るSPCに売却し、SPCがその土地を担保として資産担保証券(ABS)を発行して資金を調達する。民間業者は、調達した資金によって取得した土地の再開発を行い、投資家に利子や配当を還元する。大蔵省は、再開発の可能性が大きい都心部の国有地を中心に、2001年度末までに1兆円程度の売却収入を得ることを目指すという。
証券化は、新たに都市開発を行う際の資金調達手段としても活用されはじめている。三井不動産はこの3月に、着工前の分譲マンションを証券化することによって資金を調達した。具体的には、新たに開発する分譲マンションの土地・建物をSPCに売却し、SPCがABSを発行することで、投資家から資金を調達した。証券化のメリットとしては、借入に比べて有利子負債を圧縮できること、実際に資産を保有することなく物件の売却益を得られ資産効率を向上できることなどがある。また、ジャスコは、証券化によって調達した資金で、今後、新規に5店舗出店することを目指している。
リスク分散がなお不十分
証券化の本来の目的は、幅広い投資家から資金を調達し、リスクを分散させるという点にある。都市開発を新たに行うケースでは、市場からそのプロジェクトが収益を生むとの評価が得られなければ資金調達することができない。しかし、逆にいえば、市場からの評価さえ得られれば、開発業者は自らリスクを抱え込むことなく、開発を進めることができるというメリットがある。既に開発された不動産について証券化を行うケースも、収益性が評価されなければ資金調達できないという点については全く同様である。他方、投資家にとっては、不動産証券化商品は、一定のリスクはあるものの、高収益の期待できる投資対象として利用できる。証券化は、うまく行われれば、企業、投資家の双方に大きなメリットをもたらすことになる。
しかし、現状ではまだ、ハイリスクの商品が、投資家に受け入れられているとは言い難い。通常、証券化にあたっては、元利払い優先度の高い社債部分、利回りは高いが元利払い優先度の低い劣後部分など、信用度の異なる複数の債券が発行される。不動産価格が元本割れした場合の損失は、劣後部分に集中することになるが、最近増えている保有不動産の証券化のケースでは、劣後部分については、投資家に販売できずに自社で抱えているケースがほとんどである。証券化が進んでいるとはいえ、日本ではまだ、ハイリスクハイリターンの商品を購入する投資家は少ない。
今後、証券化市場の裾野を拡大していくためには、ハイリスク商品も含めて投資家に受け入れられていくための条件整備が重要となる。不動産開発にあたって収益性をより重視すること、商品情報を積極的に開示することなどが必要となる。その意味で、第一生命がこの3月に、劣後部分も全額外部に売却して、自社保有ビルを証券化したことは注目に値する。対象を優良物件に絞り込んだこと、元利返済の安全性を高める仕組みを整備するなどした結果である。今後は、流通市場の整備、格付けや価格指数など指標の整備なども重要な課題となる。
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