雇用調整を終えた韓国製造業
主席研究員 中山 真一
2000年1月
要旨
はじめに
韓国経済は1999年第3四半期に前年同期比12.3%の実質経済成長率を達成し、GDPという「フローの経済」を見る限り経済は未曾有の不況から回復している。不況を深刻化させた過剰設備、過剰債務という「負のストックの経済」についてみると政府債務・債務保証は99年末には97年末の約3倍190兆ウォン(98年GDPの約43%)と見込まれるが、民間、特に製造業はこの影響を余り受けなかった。製造業の実質付加価値生産額は落ち込んだが名目付加価値生産額は逆に増加傾向を続けている。しかも人件費削減効果は金融費用増加を上回っている。製品価格の低下傾向は98年第2四半期から続いているが人件費、金融費用を除いた「利益」は増加してきたと推定される。しかし、今後は製品価格低下要因がなくなりコスト・インフレが懸念される状況になっている。
製造業回復の需要サイドの要因
製造業の回復要因を需要サイドと供給サイドに分けて考えると、需要面では個人消費支出の回復、輸出数量の増加がある。個人消費支出をGDP比率でみると97年第4四半期から前年同期比でマイナスになり、99年第1四半期にようやくプラスとなった。輸出数量についてみると、輸出数量の前年同月比伸率は97年後半から増加傾向が著しかったが98年後半に入ると伸び率が鈍化してきている。99年7 - 8月には再度伸率が大きくなっているが、これは半導体の世界的な需要増加、円高による影響などの対外要因により増加していると思われ、趨勢としては韓国の輸出数量の伸びは鈍化してきている。
製造業回復 : 供給サイドの要因
輸出の増加は外貨建て輸出価格が趨勢的に減少してきたことが大きいと思われる。ウォンでの輸出価格は大幅な切り下げ後の98年1月には20%程度上がったが、インフレ・スパイラルは発生せず、その後は低下傾向を続けている。さらにウォン建ての輸出価格は98年11月頃から国内の製造業生産者価格指数を下回るようになっている。つまり、輸出価格の低下が国内生産者価格の低下より大きい。輸出品の構成と国内生産品の構成比が違うので、必ずしも低価格で輸出を伸ばしていることを意味しないが価格の低下が輸出数量の増加に寄与していることは事実であろう。
では、生産者価格の低下がどのようにして実現したかをみると、製造業の人件費コストが減少したことの効果が大きかったと思料される。韓国製造業の名目付加価値生産額は図に示すようにほとんど通貨危機の影響を受けておらず、しかも人件費コストが97年第4四半期から減少しているので、製造業全体でみると企業の経常利益は増加した。
金融費用については、社債発行額が不明なので図に示す金融費用より大きくなると思われるが、貸出金利の上昇による金融費用の増加は98年第1四半期でも前期比1.8兆ウォンの増加であり、人件費削減の約半分である。金融費用の低下は借入金を97年末から99年第2四半期までに20%強減らした効果もあり、金利水準の影響はそれほど大きかった訳でない。
韓国製造業の今後 : 生産性と非価格競争力
韓国製造業はこのように製品価格の低下によりいち早く回復したが、既に人件費は増加しつつある。物的労働生産性の推移をみるとこれまで日本の倍程度で上昇していたのが99年3月以降ほぼ一定である。これに反して賃金は上昇傾向にあるので、人件費コスト圧力は増加している。需給関係も国民所得統計では依然在庫の減少が続いているが、製造業在庫率指数をみると98年4月から95年水準となりほぼ一定しており、過剰在庫は解消していると思われる。設備投資は機械類は増えているが建物は依然減少しているので、今後需給はタイトになりコスト・インフレが発生する可能性がある。製造業製品価格の上昇は、為替レートが一定であれば輸出数量の減少を生じ製造業への需要減退、生産減少につながる危険を有している。韓国製造業は生産性の向上、非価格競争力の強化が依然として必要な状況にあり、不況が一段落したことは事実であるが、このままでばら色の将来があるわけではない。
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