物流業で期待される本格的競争促進
主任研究員 木村 達也
2000年1月
要旨
廃止または廃止の方針にある物流各分野の需給調整規制
80年代後半に本格的な取り組みが始まったわが国の規制緩和は、バブル崩壊後に経済環境が大きく変化するなかで、規制緩和推進計画が策定されるなど推進体制がシステム化された。このような取り組みから、規制緩和は、いまだ道半ばながら大きく進展してきている。
典型的な被規制部門の物流業でも、こうしたなか規制緩和が進展している。物流業では、最も強い規制の1つの需給調整規制(各分野での需給が不均衡とならないと判断された場合のみ新規参入など供給量増加が認められる規制)が多くの分野で課されてきた。しかし96年度にすべての物流分野の需給調整規制を、原則としておおむね3ないし5年後を期限に廃止するとの包括的な方針が運輸省から出され、その後各分野で廃止への検討が進められた。この結果各分野の需給調整規制は、現在では少なくとも形式的には既に廃止されたか、または廃止の方針となっている。
先行的に規制緩和が進んだトラック輸送業では生産効率の改善
各物流分野のなかでトラック輸送業は、他分野に先行し90年12月の貨物自動車運送事業法の施行により需給調整規制の廃止など規制緩和が大きく進んだ。またその後も規制緩和は進展し、運輸業のなかで最も競争的な分野となっている。
トラック輸送業では参入が容易になったことなどから、バブル崩壊後の低調な景気情勢による貨物輸送量低迷の下でも、事業者数増加率が高まった(90年度の1.3%増が96年度には4.3%まで高まり、97年度も3.8%と高水準)。この結果競争が促進され、1事業者あたりの貨物輸送量は、91年度をピークに以降、横這いから低下傾向にある。また貨物量の低迷に加え、競争進展による利潤率の縮小、事業効率の改善から、運賃・料金も低下している。全日本トラック協会のアンケート調査による運賃・料金水準判断指標は、調査開始の93年1~3月期以降一貫して低下傾向を示すマイナスである。更に企業の収益性も低下している。トラック輸送業の総資本経常利益率は、90年度に全産業平均の2倍弱であったが、その後大きく低下し97年度には全産業平均の5割強となった。
このように規制緩和により競争は促進されているが、規制緩和の本来の目的は競争促進それ自体ではなく、競争を通じての事業者の創意工夫による生産効率の改善などにある。この生産効率の改善状況は、全要素生産性(Total Factor Productivity : TFP)の変化率にみることができる。TFPとは、その変化が労働、資本などの投入量の増加(減少)によらない生産量の増加(減少)を表すものである。したがってTFPの上昇(低下)は、生産効率の上昇(低下)と考えることができる。付加価値に関するTFP年平均変化率をみると、トラック輸送業では、81~85年度は横這い、86~90年度は0.2%の上昇にとどまっている。しかし規制緩和後の92~94年度は0.9%に高まっており、競争進展から効率化が進んだとみられる。
求められる本格的競争促進への施策
トラック輸送業以外の他の物流分野では、実施済、または実施予定の需給調整規制の廃止には不十分なものが多い。まず内航海運業では、98年5月に需給調整規制であるスクラップ&ビルド方式による船腹調整(S&B調整 : 新船舶建造には、既存船のスクラップが必要とされる規制)が解消された。しかし同時に内航海運暫定措置事業(暫定措置事業)が導入されたことで、今後15年以上にわたって参入障壁に実質的な変化はない。これは暫定措置事業では、S&B調整での船腹のスクラップが建造納付金(S&B調整のもとでスクラップのために必要とされた資金と同等額)に置き換えられたに過ぎず、暫定措置事業は少なくとも2014年9月までは継続すると考えられるためである。
また貨物鉄道事業では、日本貨物鉄道株式会社の完全民営化等の経営改革が図られた段階で需給調整規制は廃止(概ね3年後目標)とされている。しかし、94年3月期以降6期連続の経常赤字が続き、99年度も貨物量が低迷する日本貨物鉄道株式会社の経営状況からみて現実的な廃止時期は未定と考えざるを得ない。
更に港湾運送業では、運輸政策審議会海上交通部会により需給調整規制の廃止が答申されている。ただ廃止は段階的に行うべきとされ、具体的には、外貿コンテナ取扱量の94%(TEUベース : 97年)を占める京浜港、名古屋港、神戸港など9港での2000年内の廃止が予定されている。しかし内貿および内航フェリー貨物量の75%(トン数ベース : 同)を取り扱うその他の港湾については、廃止時期が未定である。
このように各分野の不十分な需給調整規制の廃止からは、トラック輸送業にみられたような競争の進展、そして競争による生産効率の改善は望めない。したがって物流業での規制緩和を実効のあるものとするためには、競争促進の観点から各分野の需給調整規制を実態的に撤廃する必要がある。また需給調整以外の規制についても、規制緩和のすすんでいるトラック輸送業にも運賃や営業区域などの規制が依然残っており、競争促進に向け緩和の必要性が高い。
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