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わが国におけるネット企業の集積
- 日本のシリコンアレーを探せ

研究員 湯川 抗

2000年1月

要旨

最近「ネット企業」と呼ばれる、インターネットなどの情報ネットワーク上を流通するネットワークコンテンツ関連企業が注目を集めている。このような企業の振興策としては、一般に証券市場や法制度の整備などがいわれているが、企業の実態を見ると、ある特定の地域に集積することで発展してきているように思われる。それではわが国にもネット企業の集積地は生まれようとしているのだろうか。

ネット企業の集積と発展

ネット企業の集積による発展という現象を明らかにするためにサンフランシスコのマルチメディアガルチとニューヨークのシリコンアレーと呼ばれるネット企業の集積地において実態調査を行ったところ、以下のようなことがわかった。まず、ネット企業は集積することで加速度的に発展する傾向があることがわかった。ネットワークコンテンツは多彩な才能のフェーストゥフェースの協働によって生まれる。そのため一般に小規模で歴史の浅いネット企業は、互いに近接して立地し、競争よりも協働を繰り返して発展している。一度こうした様々な才能が濃密に接触する「場」、つまり集積が形成されると、それが人材を呼び込み、新しいアイディアが創出される頻度も高まり、成功する企業が生まれ、資金が流れ込んで、産業全体が発展することになる。次に、こうした企業が集積する地域は、若者向けのソーシャルアメニティ、クライアントとなる主要な産業の存在などいくつかの条件の整った大都市だということがわかった。最後に、政策対応の方向性としては、今ある集積を適切に支援するような、後押し型の政策が有効だと思われる。例えばニューヨーク市が行ったように、自然と集まったネット企業の集積を発見し、彼らをうまく集積による発展のメカニズムに乗せてやるようにすること、そして彼らをひきつけるような都市としての機能を更に充実させるようにすること、そして、都市自体をネット企業のブランドとして世界中に宣伝することなどは非常に重要だと思われる。

東京におけるネット企業の集積状況

それでは我が国のどこかにもシリコンアレーは生まれようとしているのだろうか。これまで行った米国での調査結果等から、大都市にこうした企業が集積していると仮定し、まず東京都区部におけるネット企業の集積状況とその実態を把握するための調査を現在行っている。その結果、東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)には現在約600社のネット企業が立地していることがわかった。なかでも特に港区と渋谷区の一部(赤坂、青山、原宿、渋谷、恵比寿の一帯)に都心5区のネット企業のうち4割以上の企業が集まっている。また、千代田区の神田近辺でも集積が生まれている。このように都心5区の中でもごく特定の狭いエリアで集積が進んでいる。

ではこの赤坂から渋谷にいたる地域の集積度は、アメリカの集積地と比較してどの程度の規模なのだろうか。ほぼ同じ面積のマルチメディアガルチと比べると、東京の集積地における企業数は半数程度であり、集積度はまだまだといわざるをえない。しかし、サンフランシスコやニューヨークの調査はかなり集積が進んだ後になされたものなので、東京の集積地は現在発展途上にあると考えることもできる。

また赤坂から渋谷に至る地域には日本のネット企業の代表とされるような企業が生まれている。例えば、赤坂から六本木のエリアには昨年、光通信から額面の60倍にも相当する金額で第三者割当増資を受けた、「オン・ザ・エッヂ」の他、接続業者としては既に確固たる地位を築いている「ピープルワールド」などがある。青山をみると、利用者の閲覧回数で料金を決めるクリック保証広告で躍進中の「サイバーエージェント」や、デジタルアニメーションからアイモード対応のグループウエアまで常に最新のインターネット技術を駆使する「ドリームアーツ」などがある。そして、渋谷には自動車の見積もりサービス「ネット・ディーラーズ」をソフトバンクに売却して一躍有名になった、「ネットエイジ」や、昨年8月に店頭公開を果たして1,000億円企業になった「インターキュー」などがある。また、これらの地域にはインターネットツールの「マクロメディア」を始め、インターネット広告の「ダブルクリック」といったマルチメディアガルチやシリコンアレーで成功を収めた企業も進出してきている。

そして、ネット企業のムーブメントとして最近話題になっている「ビットバレー」も渋谷を中心とした活動である。「ビットバレー」は昨年2月に渋谷に拠点を置くベンチャー企業の代表者が渋谷をシリコンアレーのようなネットビジネスの拠点にしようと呼びかけたことから始まり、現在では2,000人以上がそのメーリングリストに参加している。そして、これをきっかけに知り合った起業家や専門家達は渋谷のバーなどで集まって頻繁に意見交換を始めるようになった。7月には「ビットバレーアソシエーション」という任意団体が組織され、企業家や専門家達に対してインフォーマルな情報交換のための「場」を提供するなど、意見交換やコラボレーションを促そうとしている。また、渋谷区・港区はネット企業の集積地としての条件も日本の中では最も整っている地域であるといえ、赤坂から渋谷にかけてのエリアは日本のシリコンアレーの最有力候補といえよう。

今後の集積による発展に向けて

ビットバレーアソシエーションが催す月に1度のパーティに参加すると、インターネット関連業務に携わる若者達の熱気であふれている。この熱気を一時的なブームとして終わらせないためにも、こうしたパーティやイベントなどといった出会いの場から新しいアイディアや企業が生まれなければならない。集積によるメリットをどのように事業に活かしていくのか、つまり本当に日本版シリコンアレーが生まれるかどうかは個々の起業家達の経営手腕や努力にかかっている。そして、東京都や港区、渋谷区といった自治体も、ニューヨーク市が行ったように、自然発生したネット企業の集積を今後の発展に結びつけるために政策的支援というアクセルを踏むべきであろう。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF わが国におけるネット企業の集積  - 日本のシリコンアレーを探せ [62.5 KB]