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景気回復と経済政策の継続性

客員研究員(立命館大学教授)白川 一郎

2000年1月

要旨

景気動向指数からみた先行き判断

このところ景気の先行きに対する楽観論が急速にふくらんでいる。とりわけ、99年1~3月期のGDPの大幅増加の後、そうした風潮が強くなっているように思われる。筆者の所属する景気循環学会が99年10月九州において開催されたが、そこでの議論も景気の先行きについて楽観論が支配的であったように思われる。もちろん、中立的な立場の学者も所属しているため、少数意見ではあったが悲観的な見方が見受けられたことも事実である。

こうした楽観論の背景を見ると、おおむね4つに大別できる。(1)政策発動をのぞむケインジアンの立場、(2)逆に、政策発動を嫌うマネタリストの立場、(3)在庫循環・設備循環のサイクルを重視する循環論者、そして(4)経済学とは直接関係はないが、ムード形成派とも言うべき立場、である。

これらのどの立場を取るかは別として、既に述べたように基本的には99年に入って景気指標が好転しているという事実があることは確かである。とりわけ、重要なのが景気動向指数の動きである。公式の景気の谷の認定において、景気動向指数の一致指数が用いられているからである。既に、一部マスコミにおいては、この指数を利用して99年の3月あるいは4~6月期が景気の底であるとの議論もなされている。

景気の現状を示す一致指数の動きを見ると、99年の7月以降3か月連続して景気の拡大を示す50%越えを示している。一致指数が3か月連続して50%越えをした場合、景気が基調として拡大傾向に入ったとする見方がある。これを「3か月原則」と呼んでいる。この場合、一致指数が50%ラインを下から上に横切る時期、つまり99年の3~4月あたりが景気の谷ということになる。

今回の景気の局面においても、この3か月原則があてはまるのであろうか。結論から言うと、必ずしもこの原則はあてはまらない。従来の景気の局面においては、この原則は比較的あてはまっていたのであるが、最近の事例を見ると二番底をつけるというケースがある。例えば、81年と93年のケースがそれである。いずれも、当時の一致指数が3か月連続50%越えを示したにもかかわらず、その後再び景気は下降に転じている。これらの時期、いずれも消費需要が弱いなか、円高の影響から外需の減少によって景気の腰折れが生じている。

公式の景気の谷の認定は、2000年6月頃生産指数の改定の時期に経済企画庁に設けられている景気基準日付検討委員会によって、行われることになろう。それまでは、景気の底の時期を巡る議論がかまびすしく行われるものと思われる。しかし、90年代に入っての日本経済は機械的な循環論では割り切れない難しさをもっていると考える。上に述べた過去の2つのケースは、むしろ経済の内在的なメカニズムを考慮していくことが、景気の先行きを読むうえで重要であることを示唆している。

公的セクターの改革と政策の継続性

筆者は、日本経済の場合とりわけ経済政策の持続性が問題であると考えている。90年代に入って取られてきた需要支持政策の継続性の問題である。この問題は、国債の累積額が既に600兆円を越えていることから、長期金利上昇要因として折りにふれて取り上げられることが多い。マクロ経済政策における財政赤字と裁量的政策の持続性の問題として取り上げることも可能であるが、公的セクターの改革の観点からも取り上げることが可能である。

それは、発生主義予算制度である。現在、日本においても中央・地方政府において、発生主義会計制度の導入をめぐる議論が行われている。発生主義会計とは、資産・負債、歳入・歳出の実態を網羅するとともにその変化の状況をも明瞭にするものである。当然、現行の現金主義のもとでの歳入・歳出、更には過去の蓄積であるストックの実態についても把握することが可能になるより広い会計手法である。最近、オーストラリアを訪れる機会があったが、オーストラリアでは、こうした会計手法の導入に止まらず、予算制度においてもこうした考え方を採用している。発生主義予算制度の導入である。今日、オーストラリアのほか、ニュージーランド、アイスランドが発生主義予算制度を導入している。英国も2001年から導入の予定である。

発生主義予算を導入した場合、現金主義との大きな相違点は債権・債務の発生時点での費用を予算として計上するという点である。例えば、教育費などの関係では教員の人件費のみならず退職金・年金などの費用も歳出に計上されることになる。これらの費用は、現実に今必要でなくとも国庫に納められて必要な時期に何時でも支出可能な状況におかれる。予算として議会で既に認められているので、支出の際に議会の承認を得る必要はない。以上の点から分かるように、発生主義予算では行政サービスのフルコストが明らかにされるという特徴がある。更に重要なことは、政策決定におよぼす点である。行政コストの本当の姿が明らかにされるということは、予算面からみて将来的にも賄える政策決定しかできないということになる。

こうした考えは、実は現在の日本においてこそ最も必要とされているものではないだろうか。現金主義に基づく予算制度のもとで景気対策の真のコストは明らかにされることなく、そのツケとして国債の累積だけがいたずらに増加しているからである。90年代の日本の景気対策は、こうした発生主義予算という考えのもとで評価されるべきである、と筆者は考えている。抜本的な構造問題解決に取り組まず、問題解決先送りに終始する現在の政策は、明らかに目に見えないコストの将来負担への付け替えにすぎない。現在、ただちに発生主義予算の導入はむずかしいにしても、そうした考え方に基づく政策運営の方向に切り換えるべき時期にきていることは確かである。ある時期、突然これまで隠されていた多額のコスト負担を国民に強いるという愚挙は避けるべきであろう。

全文はPDFファイルをご参照ください。

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