産業・職業からみたアメリカの所得分配*
富士通総研顧問(日本経済研究センター会長) 香西 泰 / 研究員補 長滝谷 瑞穂
1999年10月
目次
はじめに
I. 貿易
II.コンピュータ化
1. コンピュータ化と賃金の関係
2. センサスにみるコンピュータ化の影響
3. コンピュータ化による所得不平等の評価
III. 社会のWinner-Take-All化
1. Winner-Take-Allとは何か
2. Winner-Take-All的職業の実態
3. 職業間のWinner-Take-All
IV. 公平と効率・リターンとリスクに関するトレードオフ
V. 結論
要旨
1.アメリカでは80年代以降所得分配の不平等が進展し、その原因を巡って様々な説明がなされてきた。本稿では、日本の国勢調査にあたるDecennial Censusの個票データを用いて、フルタイム労働者の労働により稼得された所得を対象に産業・職業ごとに各種不平等尺度を計算、産業・職業という視点から所得不平等化を評価することとした。
2.フルタイム労働者全体の動向をみると、80年代に所得分配が不平等化したことが確認できる。ただ、不平等尺度の計算結果や職業別の中位所得・平均所得の分布からは、不平等化の影響は低所得層よりもむしろ中間層に大きかったと推測され、「不平等化≠貧困の核の形成」との傾向がうかがえる。
3.所得分配に影響を与えている要因として、(1)貿易、(2)コンピュータ化、(3)社会のWinner-Take-All化、(4)公平と効率・リターンとリスクに関するトレードオフ、を取り上げ、最貧困層の動向を中心に評価を加えた。これらの要因は所得不平等に寄与しているとみられるが、そのことは必ずしも最貧困層の拡大や一段の貧困化を意味しておらず、不平等の弊害は比較的深刻ではないといえる。現状については推論の域を出ないが、アメリカが80年代を大きく上回るパフォーマンスを謳歌していることを考えると、なおさら「不平等化≠貧困の核の形成」という傾向が強まっている可能性があろう。
4.翻って日本をみると、年功主義から実績主義への移行などで所得分配の不平等化を予想する見方がある。日本はこれまで平等であることに大きな価値を置いてきたが、アメリカの例に鑑みて「不平等化≠貧困の核の形成」であるとすれば、不平等化を過度に恐れる必要はなかろう。また、アメリカでは寄付や非営利組織といった税金とは異なる所得再配分システムが機能しており、政府もこれを積極的に支援している。日本においても、不平等化への対応としてこうした機能の強化が考慮に値すると思われる。
*本稿は研究プロジェクト「技術発展の方向と競争形態の変化」の一部としてなされたものである。
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