企業における温室効果ガス低減の効率化に関する指針
研究員 濱崎 博
1999年10月
本文
序
1997年、京都で開かれた第3回気候変動枠組条約締約会議(COP3)において先進各国に対して排出基準の数値設定が行われた。これを受けて、各国政府のみならず各企業においても温室効果ガス低減を目的とした取り組みがなされることとなった。日本においても各産業が自主的削減目標の設定を行っており、産業部門における温室効果ガスの削減が推し進められている。しかし、1970年代のオイルショックにより特に産業界において急速な省エネが推進された結果、日本は世界でも類を見ないエネルギー高効率経済を作り上げることとなった。そのため現在の日本、特に産業部門においては省エネの余地は非常少なく、これ以上の省エネ推進は日本の産業の国際競争力を低下させることにもつながるため、企業の効果的な温室効果ガス低減策の推進が望まれている。
こういった状況の中で、自主的温室効果ガスの排出削減目標達成のために社内排出権取引の導入を行っているのが、BP Amoco社の試みである。BP Amoco社では、社内排出権取引によって、排出権割り当てによる各ビジネスユニットでの温室効果ガス低減意識を向上させるのみでなく、温室効果ガス低減費用の各ビジネスユニット間での不均等を是正させることで、効率的な温室効果ガスの低減を図ろうとしている。
社内排出権取引(BP Amocoケース)
1997年9月BP AmocoのCEOであるジョン・ブラウン(Sir John Browne)が地球温暖化の軽減を目的とした温室効果ガス排出削減策の一つとして社内排出権取引システム(internal system for trading greenhouse gas emission)の導入を発表した。このシステムは、共同実施、排出権取引など京都メカニズムに関して豊富な経験を有する米国のEDF(Environmental Defense Fund)との共同で開発が行われたものである。社内排出権取引の役割は大きく分けると3つに分類できる。
BP Amoco社自体の効率的な温室効果ガス排出削減
排出権取引導入によって各ビジネスユニット間における温室効果ガス低減コストの分布を均一にし、排出削減この費用対効果を向上が期待できる。
排出権取引に関するノウハウの蓄積
社内排出権取引の導入により、今後導入が期待されている国際排出権取引に関するノウハウの蓄積が期待できる。
温室効果ガス削減に関する政策対話への寄与
BP Amoco社の活動は世界各国で展開されているなみならず、多様な事業展開が行われており、BP Amoco社の社内排出権取引出の経験は、国際排出権取引のパイロットプロジェクトとしての役割も担う。
BP Amoco社は、2010年までに1990年比で10%の温室効果ガス低減を目標にしており、社内排出権取引は、目標達成のための重要な手段となっている。
社内排出権取引の対象ガスは、京都議定書で規定されている対象ガスのうち、BP Amoco社の活動において大量に発生する二酸化炭素、メタンの2ガスを対象としている。BP Amoco社の社内排出権取引は120以上のビジネスユニットで形成されている。社内排出権取引に参加するビジネスユニットは温室効果ガスの排出が多いビジネスユニットのみを対象としているため、マーケティング部門は対象とならず、(1)採掘・生産、(2)精製及び(3)化学の3部門に関連するビジネスユニットが参加する。参加するビジネスユニットは、アメリカ、ヨーロッパそしてオーストラリアの3地域を対象とした。各ビジネスユニットは、1999年から5年間にわたり、毎年排出権の割り当てを受け、各年の最後の60日間で、各ビジネスユニットは今年の温室効果ガス排出量をカバーするだけの排出権を所有しているかの判断を行い、もし排出権が足らないようならば、不足分の排出権を購入することとなる。その年の最後に排出量をカバーするだけの排出権を所有していない場合には、不足分だけの罰金が社内的に徴収される。罰金はその年購入された最も高い排出権の価格が適用される。一方、その年使われなかった排出権は、米国の硫黄排出権取引と同じくバンキングが可能であり、翌年以降に使用することが出来る。ただし、排出権の将来からの借用は認められていない。
また、各ビジネスユニット間における排出権取引は、社内ブローカー部門に登録される。直接ユニット間での排出権取引も、価格・量の報告が行われる場合には、認められているが、大部分の排出権は、ブローカー取引を行うことが推奨されている。
社内排出権取引の効果を評価するために、各ビジネスユニットに対して分配された排出権内での排出権取引を伴わないと仮定した場合の温室効果ガス低減策ならびにそのコストに関して報告することが義務づけられており、この削減コストの合計がベンチマークとして用いられる。実際のコストがこのベンチマークを下回ると、排出権取引の効果が確認されることとなる。
おわりに
日本の各企業は自主的な削減目標を掲げ、その達成に向けて各種の低減策の導入が考えられているが、一方では目標達成のためのコストが企業の競争力へ影響を与えることもあり、企業内での効率的な削減が必要である。また、今後導入が予想される世界排出権取引市場の活用も、自社内での排出削減コストの高い日本企業にとっては、そのコスト低減を行う上で有効なオプションであることを考慮すると、BP Amoco社の導入している社内排出権取引は、社内での有効な排出低減策であると同時に、排出権取引のノウハウ蓄積においても効果の高いメカニズムである。
競争力維持、温室効果ガス低減の両方の目的を達成する上でも、日本企業も効率的削減、排出権取引など柔軟性処置有効活用のための枠組導入が必要となってきている。
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