パフォーマンスが重視される環境経営
研究員 生田 孝史
1999年10月
本文
最近、「エコファンド」や「環境会計」という言葉が報道されることが多くなった。日本でも、企業の環境配慮度を具体的に評価するという動きが本格化しつつあるようだ。企業による環境問題への対応は、対症療法的なものから、企業経営全体を環境配慮型へ転換し、その効果を定量的に把握して情報開示することが要求されるようになってきている。
ステイクホルダーの環境意識の高まり
環境問題への社会的関心は高まる一方である。1990年代に入って、地球環境問題・リサイクル問題が主要課題となっていたが、最近では、更にダイオキシンや環境ホルモンなどの有害物質による健康被害が深刻な問題となっている。企業にとって、このようなステイクホルダー(利害関係者)による環境意識の高まりは、環境配慮の要請という形で企業活動に及ぼす影響が強まるということを意味する。
例えば、環境行政は企業活動に最も直接的に影響を及ぼす。その手法は、直接規制中心から経済的手法の導入や企業の自主的行動の推進へと変化しているものの、企業に対する要求は厳しくなる一方である。市民サイドからは、地域住民として操業中の工場や新規の開発プロジェクトなどの環境影響をチェックするだけでなく、最終消費者として環境配慮型の製品・サービスを優先的に選択する行動によって、企業活動に影響を与えている。一方、株主や投資家は、企業の環境配慮度と収益・株価との関連性を重視し始めている。欧米では、企業の環境配慮度を評価して投資するエコファンドや企業の環境格付けが進んでいるが、日本でも、日興證券など、エコファンドを発売する機関が出始めた。また、商品や取引先自体の環境配慮度をチェックして取引相手を選択するというグリーン調達を行う企業・自治体も増え始めている。
概念設計から実践へ
ステイクホルダーからの圧力を考慮すれば、環境配慮型の企業経営の実践は、企業競争力の維持・強化のために不可欠である。既に、環境経営の分野は概念設計から実践の段階へと移行しており、試行錯誤ながら、様々な環境経営のツールが導入されている。環境経営の実践は、製造業・大企業から、徐々に中小企業、非製造業に浸透しつつある。環境経営ツールの中でも、現在は、環境マネジメントシステム、環境報告、環境会計が、環境経営の「三種の神器」として特に注目されている。
環境負荷低減を目的とした経営システムである環境マネジメントシステムの導入は、大手企業を中心に常識化した感がある。環境マネジメントシステムの国際規格であるISO14001の取得件数は、99年6月末現在で、昨年同月末比126%増の2,229件である。いまや、2位のドイツの1,400件を大きく引き離し、世界全体の取得件数の2割強を占めるほどである。さりながら、ISO14001は組織内部の環境管理体制が構築されていることを示す規格であって、実際に機能しているかどうかは別問題である。経営システムの中でISO14001をいかに有効に活用することができるかが問われている。
ステイクホルダーとの活発なコミュニケーションは、環境リスクの未然防止だけでなく、信用力形成にも寄与する。ステイクホルダーに対する情報開示を通じた自社の環境配慮度のアピール力が問われており、その根幹を成すのが環境報告である。日本企業においても、環境版の年次報告書である環境報告書を公表する企業は100社を超えると言われているが、現時点では統一規準がないため、その内容や程度は様々である。しかし、今年3月には、グリーン・レポーティング・イニシアチブを中心とした国際標準のガイドライン草案が発表され、環境報告書の標準化が進みつつある。環境報告書の比較可能性が高まり、企業評価のツールとして機能することになろう。
カギとなるパフォーマンス評価
環境パフォーマンスの適切な評価手法の確立は、効率的な経営へのフィードバックにつながるばかりか、環境報告の信頼性を高めるという効果もある。環境会計は、企業の環境パフォーマンスを数量化して費用対効果を比較するものである。先般、富士通が日本企業の先陣を切って環境会計を公表し、いくつかの企業が続いているが、その内容はまだ発展途上である。特に、効果面の評価が確立されていないため、他社との比較が困難なことが問題である。加えて、日本では、環境会計の持つ経済効果比較の面が強調される傾向にあり、環境保全効果比較とのリンクが今後の課題となっている。このほか、WBCSD(持続可能発展のための世界経済人会議)が提唱する環境効率性(製品・サービスの価値 / 環境への影響)の指標の導入も試験的に始まっており、環境パフォーマンスの評価手法の一つとして標準化が進みそうである。
環境経営ツールを最適に活用するための試行錯誤はしばらく続くであろう。しかしながら、環境意識の高まりが不可逆的な潮流であるとすれば、率先して環境経営を実践し、その内容充実を図り、パフォーマンスを適切に評価する努力を行う企業が、国内外市場での評価を高めることは間違いない。我が国における環境配慮型企業の群出が、日本企業の国際競争力を強化し、新たな市場創造につながることが期待される。
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