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産業競争力の強化への近道

富士通総研顧問(松下電工会長)三好 俊夫

1999年10月

産業活力再生特別措置法(産業再生法)が成立した。同法律の内容をみれば、(1)事業再構築のための環境整備、(2)技術革新、(3)新規事業の育成を柱に、政府による助成制度が決められている。

(1)について、優遇措置を受けようとする企業は、事業再構築計画を担当大臣に提出し、認定されなければならない。金融機能早期健全化緊急措置法に基づき、公的資金が追加的資本として投入される場合、各金融機関はリストラ計画を提出しなければならなかった。これと同様に、通産大臣に対して事業再構築計画を提出し、認定を受けた企業は、税制や法的手続の簡素化などの優遇措置を受けられることになっている。金融機関の計画書はインターネットによって克明に見ることができた。今回も、申請企業の計画をインターネットで見ることができるようになるだろう。

日本の経営者は、もともと横並び思想を持っている。その上、バブル崩壊後の金融再生の余波を受けて、一般的に経営者としての"勇気"に欠けている。同法律の(1)の内容は、この勇気のない経営者を反映した後ろ向きのものであり、誰かが第1号となり、それが上手くいけば、第2、第3の企業が出てくるだろう。その意味で、次の2点を補完する必要がありはしまいか。

第1に、法律の中身が必ずしも企業の使いやすい内容になっていない。第8条第1項「現物出資等による分社化の際の『検査役制度』の特例措置」についてみると、主務大臣により事業再構築計画を認定された企業は「裁判所が選任する弁護士の代わりに、企業が選任する弁護士、公認会計士、監査法人による調査が可能」となった。しかし、同条項には証明に要する検査期間を例えば「3ヶ月以内」と制限する内容が盛り込まれていないため、企業は検査にかかる期間を予測できず、結果として通常の検査期間と変わらない場合もある。また、費用についても、多額の費用がかかる場合に、法人税額から控除できることを設けられておらず、問題である。

第2に、企業が認定手続を申請したために、投資家や取引先からの信用力が低下して、その後の業績に悪影響が及んだ場合、株主代表訴訟に発展する可能性もあるのではないだろうか。しかし、現状の法律では訴訟の対象になる代表取締役の身分の保証が何も準備されていない。やはり、同法を利用したことによる一時的な経営悪化は株主代表訴訟の対象外にする条文が必要だと考える。

一方、(2)については、一定の評価ができる。国の委託研究で取得した特許権を開発企業に100%与える可能性が出てきたことで、企業の技術開発意欲が高まる可能性が高い。21世紀は世界中の国々の経済基盤が同質化し、これまでの先進国の競争優位性が全く通用しない時代となる。こういった状況の中で、日本が技術立国として確固たる地位を築き上げるためには、官民が総力を挙げて"クリエイティブ(創造性)"を向上させる十分な研究開発投資が不可欠である。すなわち、民間企業の研究開発費用を増加させる支援策が必要だ。例えば『税額控除』というやり方で、黒字企業への加速奨励金を出し、"強き事業"を更に伸ばす施策が重要である。具体的には、租税特別措置法の42条の4『増加試験研究費の法人税額の特別控除』の拡充である。

同条項は、昨年まで「過去のピークを超える場合」に限り、「超えた額の20%を税額控除する」制度であった。しかし、経済が長期にわたって低迷したために、企業は利益確保が難しくなり、比較的に手のつけやすい研究開発費用を削減してきた。その結果、1990年から91年のバブル期のピークを超えられない企業が大多数を占めることになり、同政策の適用を受けられない企業が年々増加している。そこで、政府は制度の形骸化を防ぎ、個々の企業の技術力を支援する目的で、今年度から「過去5年間の試験研究費を多い順に順位付けし、第1位から第3位の平均値」を比較試験研究費と定め、適用企業の範囲を拡大する修正を行った。この点は評価できるが、その一方で「15%の税率控除」に引き下げられ、税額控除総額が押さえ込まれたことは非常に問題である。

大蔵省主税局の試算によると、今年度の控除額は290億円であり、昨年の440億円を大きく下回っている。また、過去のピークの92年には総額1,140億円が税額控除されており、これと比較すると、現在の控除金額は92年当時の4分の1の規模まで縮小している。競争力強化という中期的目標の達成には現状の制度では非常に物足りなさを感じる。

私は「過去5年間の平均値を超える金額」に対して「税額控除率を30%」に拡大することを提案する。国家として産業競争力の核となる"知的生産性の向上"を支援することが、日本の企業競争力を強化できる近道と認識している。強い企業である黒字企業を増やせば、結果として政府は税収増が期待でき、財政の安定にもつながる。当面の短期的な税収を最優先するあまり、中期的な課題を疎かにしては経済再生などありえない。政策立案者は、クリエイティブな社会を作り出すために、確固たる意志を持って政策立案にあたるべきである。(1999年8月19日 脱稿)

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 産業競争力の強化への近道 [78.3 KB]