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新しい産学研究協力システムの構築に向けて

研究員 西尾 好司

1999年7月

本文

新規産業創造や新たなイノベーションを生み出す源泉として、大学に対する期待が高まっている。大学の研究成果をいかに産業活動に結び付けるか、その枠組みの1つとして、TLO(Technology Licensing Organization)が、今注目されている。TLOとは、大学の成果を発掘、特許などの権利化、企業へのライセンシングを通して、大学の研究成果を産業活動に結び付ける橋渡しをする機関である。

TLO設立の背景

米国では、大学の成果の企業への移転が盛んであり、大学の技術移転収入は4億ドルにものぼる。中心的な役割を担っているのが大学のTLOである。米国では一般的に大学の発明は大学が所有できるので、大学のTLOが責任を持って技術移転活動を推進している。技術移転活動は、スタートアップ企業創出や産業界からの研究資金の獲得に大きく寄与している。例えば1997年には、スタートアップ企業333社を創出し、また、移転先の60%が中小企業である産業界からの研究資金の10%は技術移転をきっかけに発生したものである。米国では技術移転活動が、企業創出・中小企業支援、産学研究協力を通じて、雇用創出など経済に目に見える形で貢献している。

日本では、大学で行われた発明は原則として研究者が権利を所有できる。しかし、研究者の特許意識が低いので特許出願しないケースが多く、例え特許意識があっても手続きの煩わしさや出願費用がないことから、企業へ譲渡するケースが多い。企業が出願しても、防衛特許に利用されるだけで、産業化に結びついた発明は少ない。こうした状況を打破し大学の成果を産業化にむすびつけるために、大学等技術移転促進法を制定し、TLO設立を支援するようになった。現在、大学等技術移転促進法に基づき承認された6機関を含め、全国で約10のTLOが活動している。

TLOの課題

我が国のTLOは、米国と比較して大きな制約を受けている。まずTLOは研究者から発明を収集する必要がある。米国では、バイ・ドール法により連邦資金による発明を大学が取得できるため、TLOに発明を集中できるのに対して、日本では、TLOが発明を扱うには、学内研究者及び企業双方から意義を認知してもらう必要がある。

更に、米国のTLOは学内組織だけでなく、学外組織であっても非営利法人として税金面で優遇される。一方、日本では一部の私立大学を除いて株式会社として学外に設立されていることから、米国では非課税扱いの技術移転収入が、日本では課税対象になる。技術移転は発明の発掘、特許出願等の先行投資とライセンス収入までのタイムラグがあることから、TLOは当座の運転資金の確保が大きな課題となっている。

産学研究力体制の充実を

大学の成果をTLOが特許化し、そのまま企業へ移転して産業化できるケースは非常に少ないと予想される。現在、技術移転が特許移転であるかのような活動・議論が見られるが、技術を活用するに当たり必要ならば特許を考える方が良い。米国でも特許を前面に出した技術移転はバイオや一部ソフトウェアだけであり、その他は研究協力が中心である。むしろ、大学の成果をシーズとして産学研究協力によって技術を作り上げ、産業化へ結びつけることの方が重要であろう。バイ・ドール法自体はリニアモデルを想定しており、同法だけでは米国の技術移転は成功しなかったであろう。産学研究協力ができる仕組みを整備したことも大きな成功要因である。

我が国の産学研究協力は、1件当たり100~200万円という小規模な、覚書+奨学寄附金による不明瞭なシステムであり、研究ごとの資金の管理ができていない。一方米国では、最近カリフォルニア大学がノバティス社との間に約25億円の研究契約を結んだように、多額の資金を受入れて、契約による研究を進めている。経団連の調査によると、日本の企業は日本の大学よりも海外の大学を希望している。この理由は、大学として組織的な対応が取られ、契約に則った研究が行われ、しかも学際的な研究体制を構築できるからと思われる。従って、我が国では、研究者の契約遂行意識の向上、大学の研究契約支援の充実、成果の権利帰属の柔軟な対応を進め、奨学寄附金による研究協力を改め研究契約による、制度化された明瞭な協力体制の構築が必要である。これができないと、大学の成果を産業化へ結び付けることは成功しにくいであろう。

おわりに

米国では、大学の特許取得活動、企業への優先開示のため論文発表が遅らされることに対して、privatizing(またはcapitalizing)knowledgeと呼ばれ批判がある。しかし、技術移転が目に見える形で経済的な効果を生み出しており、大学の研究が活性化していることは事実である。我が国でも、米国内での懸念を念頭におきつつ、大学と産業界という文化・価値観が異なるもの同士が協力できる環境を整備しなければならない。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 新しい産学研究協力システムの構築に向けて [98.9 KB]