富士通総研

  1. ホーム >
  2. 調査・研究成果 >
  3. Economic Review >
  4. Vol.3 No.3 1999年7月 >
  5. 新世紀の最重要テーマは中国との関係

新世紀の最重要テーマは中国との関係

岡本アソシエイツ代表取締役 岡本 行夫

1999年7月

日本にとって一番大事な国はどこか。アメリカである。二番目に大事な国はどこか。中国である。

日本の相対主義的価値観から言えば、このような単純な順位づけは知的でない証拠であり、特に簡単なことをまわりくどく表現することこそがアカデミズムと思っている学者先生方から軽蔑される。

しかし、世の中の事象は思ったよりも単純なステートメントで説明できる場合が多い。アメリカは、世界でただ1ヵ国、日本が他の国から攻撃を受けた場合に自国の兵士の血を流してでも日本を守るという法律的(「政治的」ではない)義務を日米安保条約で負っている国である。日本にとって特殊かつ不可欠の関係を持った国だから、一番重要なのだ。

アメリカを別にすれば、どの国が日本にとって最も大事かということは相対的な価値判断の問題だが、僕は中国だと思う。光の部分も影の部分も含め、この巨大な国とどのように付き合うか、日本の将来の運命を左右する。

昨年11月の江沢民主席訪日の際、文書による謝罪を拒んだ日本側に対し江沢民主席は立腹し、その後双方の事務レベルで日中共同宣言のフォローアップも行えない雰囲気になってしまった。

最近この空気は改善されつつある。今年3月に北京で開かれた第9期全人代では、朱鎔基首相は、従来であれば対日批判を行っていたであろうTMD問題についてのステートメントでも、注意深く日本への言及を避けた。最近は人民日報に日本の経済協力についての記事も載り始めた。

そうした背景に、最近の急速な米中関係の落ち込みの影響があることは否定できない。昨年6月のクリントン訪中の際の米中間の「戦略的パートナーシップ」の盛り上がりは、中国に日本との関係改善の必要性を感じさせないものであった。つまり中国にとって必要な全ての力を保有する米国との関係が良好あれば、我慢してまで日本との関係を求める必要はないわけだ。ところが昨年の後半から、米中間ではレトリックとは裏腹に大きな壁が双方によって認識され、中国の核スパイ事件もあって米中接近のペースが大幅に落込み、中国にとってみれば、日本を無視しても構わないという状況ではなくなった。

もちろん日中間の雰囲気が良くなった理由はそれだけではあるまい。GITICの破綻の後、邦銀が対中資金供給に慎重になってきていることへの危機感もあるかもしれない。しかし、要は昨年の米中関係が実相以上に良好で、日中関係が実相以上に悪かったのであり、それが本来のところへ戻りつつあるということではないか。

その際に、心しなければならないことがある。中国・米国・日本の3者が織り成すそれぞれの2国間関係が上昇期と下降期を経験するのはいずれにしろ起こることではあるが、いずれの国も他の2国間の関係の下降局面を自らの利益と捉えてはならないということだ。日本が、米中の冷え込みを日米又は日中関係の改善に意図的に利用しようとしても、外交の戦略を誤ることになるだろう。

以上のような短期的な局面とは別に、深刻なのは長期・構造的な日中関係の流れである。中国には遠心力が働き始めている。西側の情報の流入によって体制が崩壊していった旧東欧諸国ほどではないが、中国の人々にも様々な情報が伝わり始めた。「中国人が受けている情報量は少なくとも70年代のソ連よりは多い」と中国にいる米国人ジャーナリストが言っていた。自由な情報は、独裁型統治機構の基盤を浸蝕していく。中国人の間の圧倒的な所得格差や農村部の不満、更には少数民族の問題等は、全て国家統合への遠心力として働く。これに対して共産党が求心力として使えるものは何か。3月の全人代の憲法改正によって私有経済部門が社会主義経済の主要部分として完全に認知され、人々は益々市場経済に向おうとしている。共産主義思想は、最早、人々の心を捉えない。

共産主義に代わりうる唯一の国民統合思想は「民族主義」である。ナショナリズムの高揚の中で人々は国家意識を持ち、五星紅旗の下に結集する。しかし中国の民族主義は自動的に反日、抗日になってしまう。かつて共産党が日本統治を打ち破ってきたことが、共産党の中国国民に対する最大の正統性となっている。つまり中国が拡散過程に向おうとすればするほど、体制の側からの反日キャンペーンが強まらざるを得ないことになる。

一方で、これからの中国で民主化運動が強まる可能性は大きい。しかし民主活動家達の運動も、「日本を放置してるのは北京政府がだらしないからだ」といった形での反政府運動の形をとることが多い。結局、中国がどのような道をたどるにせよ、国内ではこれからかなりの長期間に亘って反日的な雰囲気が昂進していく可能性が高い。

日本が「過去」の問題にどう対応しようと、反日気運の醸成は中国自身の国家としての流れであろう。

日本にとって、圧倒的に重要なこの隣国との関係をいかに運営していくかは、21世初頭の最大の外交課題だ。国と国との友好関係の増進といった抽象的な外交目標はしばらく脇に置き、具体的に中国との関係でどのようなことを確保していかなければいけないか、最低限中国との関係で実現すべき目標は何か、をつきつめて考えてそれに集中すべきだろう。冷徹に国益を考えた上での成熟した外交が求められる時代になって行く。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 新世紀の最重要テーマは中国との関係 [101 KB]