富士通総研

雇用問題について

富士通総研顧問(松下電工株式会社 代表取締役会長) 三好 俊夫

1998年7月

本文

失業率高止まりの恐れ

昨年からの大手金融機関の相次ぐ経営破綻などで雇用情勢が一段と悪化し、3月度の完全失業率は3.9%と前月の史上最悪の記録をさらに更新した。有効求人倍数も0.58倍で最低水準を持続しており、日本の雇用を取り巻く環境は深刻化している。また、4月からの金融ビッグバンによる金融業界の競争の激化により、さらに失業者が増加するのは確実で、4%台の失業率も時間の問題である。

現在の日本経済は構造調整の過程にある。一時的に失業率が上昇するのは、構造改革の産みの苦しみとして冷静に受け止めるべきである。構造改革により規制緩和が進んだとしても、新事業やベンチャービジネス、大企業の子会社等が雇用を吸収するまでにはタイムラグがあり、短期的に失業問題を解決することは難しい。一般的には、少子・高齢化時代の到来で労働者が不足し、中期的な雇用需給バランスは緩和されると思われがちである。しかし、実際には失業率低下は極めて難しい。第一に、就職後1年以内に離職する若者が20%にも及び、将来的にも若者の就職観の甘さが改善される可能性が低いことである。第二に、高齢者が自分の適性を発揮する職場をなかなか見つけられないという現実である。このような若年労働者と高齢者の雇用のミスマッチを解消しなければ、中期的に失業問題を解決することはできない。

これからの雇用対策

現在の雇用環境をみてみると、97年4月から有料職業紹介制度が原則自由化となり労働市場が開放された。他方、労働省で現在検討中の派遣業の原則完全自由化により民間主導の自由な労働市場を作り出すことができる。この際、年功序列・終身雇用は徐々に崩れ、雇用の流動化は不可避となる。それに伴い、どこに、どれだけの労働者が不足し、どれだけ余っているのかという雇用の実態を正確に、リアルタイムに把握することがますます重要となる。

関西経営者協会では、雇用の実態を正確に把握するため、傘下の京都、兵庫の経営者協会を含めて合同で京阪神の企業700社を対象に四半期ごとの雇用動向を把握する「雇用短観」を既に三度発表した。これは、経営の実需ベースを把握するもので、経営者側(雇用主)から見た雇用の先行指標であり、雇用の実態を失業者の数から事後的に把握する政府の統計とは大幅に違った内容である。また、企業間のミスマッチの解消を図るため、「人材交流ネットワーク協会」を設立し、インターネットを利用して全国の求人・求職情報が一覧できるシステムを作り、学生および失業者に対しサービスの提供を行っている。全国のハローワークや産業雇用安定センター、学生職業センターと連携し、官民間のネットワークを構築しているので、会員数の増加に伴って情報量の充実が期待される。

企業・個人・国がすべきこと

しかし、このようなインフラを整備するだけでは、雇用問題を解決することは難しい。この問題に対し、企業・個人・国がもっと積極的に取り組むことが必要である。

企業は、第一に、新規事業を創出し、雇用を吸収することに全力を挙げるべきである。「片手でリストラ、片手で新事業」という二刀流経営を徹底し、決して国が新事業を起こすのではないという認識のもと、経営者が自ら行動していく必要がある。例えば、社内ベンチャー制度の整備や介護事業等の高齢者関連事業への取り組み、人材派遣子会社や有料職業紹介会社の設立により新規事業を創出し、雇用の拡大に努めるべきである。第二に、雇用のミスマッチの解消をあらゆる手段を講じて行うことである。例えば、社内に第二人事部をつくり再就職の斡旋をしたり、社内公募制度の積極的な活用、従業員の自己啓発の支援等を行うことが望まれる。第三に、インターンシップ制度(就職前の研修制度)を導入し、若年層の離職率の低下に貢献することである。欧米では、卒業前に単位を取得しながら企業で研修を受けるこの制度を活用し若者に対して職業への理解力を深める機会を与えている。これは、決して新規学卒者の採用を有利に展開することが目的でない。一般の学生に対し入社以前に研修を行うことは、企業の社会的な義務である。

次に、個人は、自己研鑽に努めるべきである。どこの企業でも喜んで雇いたくなるような労働者自身の能力の向上を図ること、つまり「エンプロイヤビリティー(雇われる能力)」を個人が備える必要がある。この能力を磨くことで就職・再就職の場合でも、自己の希望する業務に就くチャンスが膨らんでくる。

最後に、国は、労働市場の自由化を阻害するような各種規制の早期撤廃・緩和に努める反面、労働者への能力開発の支援や新事業を育成する制度の拡充が望まれる。職業訓練学校での研修の増加、雇用維持企業に対して支払われる雇用助成金制度を簡素化し、利用しやすい制度に改め、逆に、新規雇用企業への手当てを厚くすることで、雇用の維持・拡大を支援することも望まれる。

この際、最も重要なことは、「小さな政府、大きな民活」の推進であり、あくまでも民間活力を最大限に生かす対策に特化すべきである。