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「愛知万博」をご存じですか

富士通総研顧問((財)2005年日本国際博覧会協会事務総長) 黒田 眞

1998年4月

本文

21世紀最初の国際博覧会として長い間愛知の人達が誘致活動を行ってきた通称「愛知万博」は、昨年6月の国際博覧会条約(BIE)総会でカナダに大差をつけて、正式に開催が承認された。この博覧会の準備と実行のために10月末に財団法人2005年日本国際博覧会協会が設立されてから、この4月1日で160日経過し残り2,550日となった。この博覧会について紹介しよう。

現時点で決まっていること

1)会期は2005年(平成17年)3月25日から9月25日まで185日間。6ヵ月は条約で定められた最長期間である。

2)主たる会場として、愛知県瀬戸市南東部の海上(かいしょ)の森、およそ540haが予定されている。ここは名古屋市の中心から東北東に約20キロのところにあり、現状、一部杉や檜の人口林もあるが、大部分は雑木林に覆われた丘陵地帯である。このうち中央部の約150haを建物や施設のための区域とし、これを取り巻く周囲のうち約100haは現状の自然をそのまま残し、約290haはふれあいの森として活用する計画がある。この地帯は古くから瀬戸の陶磁器の窯があった地域で、林は薪として利用されてきたために過去に何回かはげ山となり、先人たちが砂防工事や植林に苦労してきたところで、現在も大部分が土砂流出防備保安林に指定されている。

この地区は、愛知県が「あいち学術研究開発ゾーン」と位置づけている尾張北部から西三河にかけての名古屋東部丘陵地帯のほぼ中央部にある。県ではここを「交流未来都市」の中核地区とするべく「新住宅市街地開発事業」の手法による将来の街づくりを推進しており、博覧会はその先行利用となる。

3)入場者の予測は2,500万人、うち外国人は250万人である。この数字に客観的な根拠があるわけではないが、会場アクセスのための道路や鉄道の計画の前提となるし、協会運営費の規模に関わる入場料収入の積算根拠となっている。日本で過去4回行われた国際博覧会の入場者数は、大阪万博(1970)が64百万人、筑波の科学技術博(85)が20百万人、大阪花と緑博(90)が23百万人であり、これらと比べて少な過ぎる。50百万人を想定して準備すべしという人もいる。収容能力はむしろ一日あたりの人数の問題である。

4)博覧会のテーマは「新しい地球創造 : 自然の叡智」。世界に説明してきた英語版はBeyond Development : Rediscovering Nature's Wisdomである。このテーマはBIEでの誘致活動に際し掲げてきたもので、当協会でも継承している。「自然の叡智」については好感を持って受け止められているようだが、英文のBeyond Developmentが「開発の後に来るもの」と読まれて発展途上国の一部に批判する意見がある。説明が必要なテーマは良くないので、再検討すべきではないかとの意見がある。

今後の段取り

2005年3月博覧会開催に漕ぎ着けるためにスケジュールを逆算すると、凡そ次の様になる。開会の3年前の2002年春までには会場建設に着工している必要があり、その前年には会場建設の実施計画を完了していなければならない。条約上の手続きとして博覧会国際事務局への「登録」が必要で、そこで初めて各国への参加招請が可能になる。現在の想定によるとハノーヴァーの国際博覧会が開幕する2000年の6月に登録を受けるとすれば、1999年末までに登録申請をすることが必要という計算になる。

登録に際して、各国が参加を検討するに十分詳細な会場基本計画が提出されなければならない。会場基本計画では博覧会の構想や施設の配置などを具体的に示さなければならない。それまでに会場予定地での樹木の伐採や土地の改変など建設工事が可能になるように、市街化調整区域から市街化区域に指定換えするための都市計画法上の手続き、保安林解除のための森林法上の手続きを進めなければならない。これら行政手続きの完了には最低数ヵ月が見込まれる。

更にこれらの手続きの前提として、新しく付け加わったのが環境影響評価、いわゆる環境アセスメントである。来年の施行が予定されている法律の精神を先取りして、事業者たる当協会は博覧会事業の環境影響を評価すべきものとされている。新しい手法なのでどの位の時間がかかるか予測し難いが、その後のタイム・スケジュールを考えると一刻も早く作業を開始しなければならない。

当面やるべきこと

1)どのような博覧会にするのか具体的な構想をまとめることが第一である。

博覧会のテーマは一応決まっており、更にサブテーマとして「エコ・コミュニティ」「暮らしのわざ」を提示した経緯がある。これら従来の蓄積を考慮に入れながら、新しい視点で構想を練り直し、具体化して行く必要があり、このために各界の意見を広く聞く仕組みを動かし始めたところである。

これまで20世紀の万博が果たしてきた新しい「モノ」を見せるという機能は、情報伝達技術の発展や海外旅行者の増加によって、その意義が薄れつつあり、21世紀最初の大型の国際博覧会になる愛知では新しい博覧会のモデルを示すべしとの期待が高まっている。

そのアプローチの方法として、問題提起、実験、参加がキーワードになる。国際博覧会は公衆の教育の場であるとの原点に立ち戻れば、21世紀に我々人類が直面するであろう共通の問題を提起し、世界中の一人一人に考える機会を提供する場となり得る。また博覧会が来たるべき時代の実験場として活用されることも考えられる。そして、その成果が将来にわたって恒久的に継承されるならば、その意義は一段と深まるであろう。参加型の博覧会とは、観客が展示を見るだけの一方通行ではなく、観客自身が博覧会の一部になるような仕掛けがなくてはならず、そのためには企画の段階から多くの人が参加して博覧会作りに参画するものでなければならない。

2)構想作りのための仕組みや組織を立ち上げることが急がれる。

どうすれば参加意識を共有できるか何等かの仕組みを工夫したい。それは単なるご意見拝聴ではなく、双方向の対話がなくてはなるまい。各種シンポジウムや市民グループとの対話集会の開催、町の人たちの手作りの提案募集、個別企業や業界ベースでのアイディア集めなど、多様な参加形態が考えられる。インターネットのホームページはこの時代必須だが、今や討論会を開く仕組みが工夫されており是非活用したい。国際的な拡がりを持たせるために、各段階で国際コンペを実施すべしとの意見も強い。少なくともホームページを英語で提供し、意見を募ることは必要だ。特に、アジアの視座を重視する見地から東南アジアの各地でシンポジウムを開いて博覧会への関心を高めたい。

今までの博覧会では、テーマやコンセプトは識者の合議体で決めたが、計画作りはチーフ・プロデューサーに任せる方式が取られてきた。今回準備の過程でほぼコンセンサスとなったのは、出来るだけ若い人たちの力を活用すべしということであり、当面一橋大の伊丹敬之教授を座長とする40代を中心とする若手グループに構想作りの取り纒めをお願いしようと考えている。ここで、学識経験の豊かな大御所のご意見を適宜伺って行くことは当然である。

3)当面環境アセスメントの作業に取り組むことが急がれる。

すでに指摘したように環境アセスメントが、その後の必要な行政手続きの前提となることに鑑み、当面の最優先の課題はその適切な実施である。

博覧会誘致を決めた閣議決定において、来年施行される環境アセスメント法があたかも施行されているかのごとく、協会は博覧会事業についての環境評価を行うこととされている。(新法の主眼は、公告、縦覧、意見聴取など詳細な手続きを定めていることと、生物の多様性の保持への影響等を評価対象に加えていることである。)そもそもこの地域での樹木の伐採や土地の改変の大部分は、新住宅市街地開発計画や道路計画に基づいて行われるものであり、博覧会事業は主としてこれらの計画により造成された土地や道路などを活用しようとするものである。したがって、我々の博覧会事業に基づく環境アセスメントでは、博覧会に必要な建物や施設の建設のための工事及び建設される恒久的ないし一時的な建物などの存在による影響と、博覧会期間中の多数の入場者の往来とそれに伴う交通手段の影響が対象となる。ここで新住計画や道路計画の環境アセスメントが我々のアセスと緊密な連携をとって行われるのは当然である。

4)環境アセスメント実施の前提として、会場計画などの提示が求められる。

博覧会事業を対象としてアセスをするためには、建物や施設などを想定した会場計画の策定が求められるとともに、工事に関連するもろもろの事項、会期中に予想される人の動き、エネルギーや水の供給処理に関すること、廃棄物の予測など、専門的に言えば環境影響評価用の諸元が求められることになる。

我々の基本的な考え方は、建物があって博覧会の中身が出てくるのではなくて、中身のあるべき姿が浮かび上がってきて初めてこれを支えるハードが作られる筈だということである。開催までの7年という長丁場を構想の精緻化や具体的な企画立案に当てたいと考えているのに、早い時点でハード先行の会場計画を作らされるところに率直にいって戸惑いがある。

新しい技術が博覧会を変える可能性

現時点で7年先の技術レベルを予測することは困難であるが、情報技術の更なる発展が博覧会の形態すら変える可能性がある。幾つかの例を挙げる。
多チャンネル化するテレビの画像を通して、会場の展示や催事などをあらかじめ家庭で見る機会が増える結果として、観客は増えるか減るか。面白い中身を提供できれば、映像自体が博覧会の新しい収入源となるという人もいる。

遠隔地との大量の画像のやり取りのコストが大幅に低下すれば、世界各地の人々とスクリーンを通じて等身大で向き合いお互いの視線を感じながら会話が出来る。そうなれば、博覧会の会場を世界中に広げることができるだろうし、各国の参加の形態が変わることになるかもしれない。

電子マネーが一般化すれば、入場料の徴収形態が変わることが予想される。

経済効果の試算

国際博覧会のような大型のイベントが大きな経済効果を持つことは当然であり、各種の試算が提示されている。愛知万博についても2兆円とか3兆円という数字があるが所詮腰だめに過ぎない。現時点では会場建設費について、かつて県が作った1,000ないし1,500億円という数字しかないのである。

一つ確かなことは、地域経済に好影響を及ぼすことである。道路、鉄道、新交通システムなどが、集中的に整備される効果は無視できない。特に、愛知万博の開催決定が中部国際空港の着工決定の契機となり、造る以上は2005年に問い合わせようと完成目標が決められたことはこのことを物語っている。