アウトソーシングの経済性
取締役研究主幹 寺田 欣司
1997年10月
アウトソーシングは、経営資源の外部調達と定義するのが妥当であろう。伝統的なビジネスシステムである下請けなどは、見方によればその一つの典型と言えるが、下請け活用や外注にはコスト削減の色彩が強い。しかしアウトソーシングには、「外注」などから連想されるものとは異なる「概念」が含まれていると考えられる。その鍵が経営資源の外部「調達」である。アウトソーシングはビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)インプレメンテーション=実行の道具として活用される。自社の経営スタイルや業務執行プロセスを見直し、経営資源を外部調達した方が、より賢明な選択と判断された場合に使われるもので、戦略的な意味合いが強い。
「賢明な選択」には当然、(1)コストの比較優位も入るが、それ以外に、(2)製品開発などでリードタイムの短縮に活用したり、更に(3)他社資源を活用した方が企業防衛や企業発展につながるという、高度の「戦略的判断」によって活用されることがある。
日本の大企業には、伝統的に「自前主義」思想が強く、社員の調達(まっさらな新卒を採用して、自社流儀に育て上げる)から始まり、完全に自前の研究開発部門、重役の社内調達で通している。定型事務処理、印刷製本、不動産の保守管理、社員の健康管理部門までも社内に設置している例も多い。このような当然専門会社に任せるのが合理的であるにもかかわらず、それをしない企業の論理は「機密保持」ぐらいしか考えつかない。
さすがに今日多くの大企業においては、これらの業務は親会社に従属的な子会社に移管され、給与体系を変えるなどの方法でコスト削減を図るなどは、当然の手段として取られている。しかし、その子会社が専門的業務を担当するにふさわしい「人材の養成」システムや、当該業務に適する親会社と異なる「マネジメントスタイル」を採用している例は少ない。業務の子会社委託の方法は、「機密保持」を確保しつつコスト削減する手段(給与体系の分断、中高年対策など)と考えられていると言うのが一般的解釈であろう。
一方、自前主義を保ちつつも、伝統的に「コントラクトアウト=外部委託」、つまり下請けに仕事をさせる経営手法も取られてきた。この方法における「機密保持」は、継続的契約関係での信頼関係構築や、資本出資、人材派遣などで担保されている。大企業下請群はコンスタントな仕事の発注を餌に大企業に従属する、擬似子会社である。こうした子会社活用、外注、下請けに、「外部経営資源の調達」などと言う戦略性を印象づけるものはない。
警備保証会社への業務委託が流行を始めて、かれこれ20年以上になる。「警備保障業務」は、「企業機密の保持」の面からすれば相当大胆な決断であるが、危機管理は専門家に任せた方が得策との判断は自然で、アウトソーシングの概念からすれば「外部経営資源の優位性」を認識したものと言える。アウトソーシングするか否かの選択が、外部経営資源との「コスト、性能」上の比較でなされるものとすればその後者に当たる。
アウトソーシングの例として引き合いに出されるものに、コダック社がIBMに情報システム部門の構築から運営まで全面的に委託した例、セブンイレブンが同様の方法を野村総合研究所に対して行った例がある。これは観念的には「警備保証会社」への業務委託とあまり変わるところはない。つまり「餅は餅屋」の思想を相当大胆に採用したに過ぎない。
技術革新のスピードが早い、製品のライフサイクルが短い業種では、純コア的業務の一つといえる製品開発部門さえも、外部調達に任せる企業も存在する。こうした先進的なアウトソーシングの取組は、主として情報システム関連産業で積極的に採用されていることは周知の通りである。この分野のアウトソーシングでは、「比較優位の外部資源の取り込み」と共に「リードタイムの短縮」が強く意識されている。
こうしたケースでは、アウトソーシングする側とされる側との間の「外注、下請け的契約関係=コスト削減」は影が薄いし、更には時として「餅は餅屋=性能の比較優位判断」的関係さえもが影をひそめる。アウトソーシングがもっぱら「時間コストの削減」のために活用され、その目的のためには、内製よりもコストが高くとも(時間コストは除くが)、時には若干性能面で劣る場合でも外部に業務委託をする。
業務遂行のスピードアップのための外部経営資源活用とは、「タイムシェアリング」つまり外部経営資源と内部のそれとを並列に並べることで、まさに「外部経営資源を取り込む」と表現するにふさわしい。
ところで先年GEのウェルチ元会長が来日し「日本的経営システムは否定されたとは必ずしも言えない。しかし日本的意思決定システムでは、スピードの経済の時代に勝利を得ることは望めない」と言うような発言をした。日本企業の意思決定の遅さ、時間コスト概念の希薄さを批判したものといえる。
「アウトソーシング」とは何ぞやの議論に、「時間コスト削減」効果を論じるものが少ないような印象を持つことがある。ウェルチ氏に指摘されるまでもなく、日本企業人の時間価値の認識の低さには定評があるが、このアウトソーシング問題にもそれが現れている。意思決定のプロセスにおいてもアウトソーシングの活用が必要かも知れない。
