ベルテルスマン、ナップスター戦略提携の狙いと影響
音楽ファイルの共有サービスとして知られるナップスターと、ナップスターを著作権侵害で訴える大手レコード会社BMGエンターテイメントの親会社にあたるベルテルスマンが、このほど戦略提携を交わし、共同で新しい会員制音楽サービスの開発に取り組むことを発表した。敵対関係から一転して戦略提携へ。この転換が意味するところを解説する。(富士通総研
倉持真理 2000年11月21日)
ナップスターとは:これまでの経緯
ナップスター(http://www.napster.com)
ユーザーは同社サイトで無料配付されている専用ソフトをPCに組み込んで、このサービスを利用する。ダウンロード可能な音楽ファイルはナップスターのサーバーに保管されているのではなく、そのときサイトに接続しているユーザーのPCの中に存在し、曲をダウンロードするユーザーのPCと、曲を持っている別のユーザーのPCを「ピア・トゥ・ピア(略してP2P)*1」といわれる通信形態で接続するところに特徴がある。
同時にサイトに接続している何万人もがそれぞれに所有する音楽ファイルのなかから、好きな曲を選んでダウンロードできるため、重複を除いても曲の種類は膨大になる。これがユーザーにとってのナップスターの一番の魅力である。
しかし、ナップスターには合法的な音楽ファイルと違法コピーを識別する仕組みがないので、一人のユーザーが違法コピーを所有していれば、すぐにそれが他の大勢のユーザーに広がってしまう。
このため、BMGを含む大手レコード会社5社*2を代表する業界団体のRIAA(Record Industry Association of America)は、ナップスターが違法コピーの流通を促し、音楽著作権保有者に損害を与えているとして、昨年12月に訴訟を起こした。今年7月には、米連邦地裁がナップスターにサービス停止の暫定措置を命じたが、控訴により、サービス停止が妥当かどうかを控訴裁が判断する間に限って命令延期を認められ、かろうじて今でもサービスを続けている状況だ。
ところがこの裁判をきっかけに、ナップスターに対する注目はますます高まり、現時点でのサービス利用者数は世界で3800万人*3にものぼっている。
公式発表の内容
ベルテルスマン(http://www.bertelsmann.com)BeCGがナップスターの新規発行転換社債を受け取る*4。
また、新サービスの開発、導入がうまくいけば、BMGのナップスターに対する訴訟は取り下げ、BMGの楽曲をこのサービスを通じて提供する予定であり、他のレコード会社などにも、開発プロセスへの参加やサービス利用をすすめていく方針だ。
新サービスの詳細はまだ不明
公式発表はここまでだが、各種報道が伝えるところによると、ナップスターのCEOハンク・バリーは、メディア向け説明会の席上で、新サービスは従来どおりの無料部分と、月額4.95ドル程度の有料部分に分かれる見込みであると発言している。また、新サービスはベルテルスマンが今年9月に買収し、BeCGの傘下に加えたCDナウ(http://www.cdnow.com)
しかし、一番の注目点である「違法コピーを区別する仕組みをどのようにつくるのか」という部分を示唆する情報は今のところあまりない。
ベルテルスマンとナップスター:それぞれの動機
ナップスターは、インターネットとMP3の登場により、すでに転機を迎えていた音楽流通の変化を、さらに加速する役割を果たした。
大手レコード会社のナップスターに対する訴訟は、音楽著作権に関するルールを定めるという点で意味がある。しかし、音楽業界が考慮する必要があるのは、ナップスターがここまで多くの消費者に支持され、利用されているという事実だ。訴訟が結果としてナップスターの息の根を止めることになれば、音楽業界にとってかえって効果はマイナスとなる。消費者の支持を受けるナップスターを抹殺することは、顧客の声を無視するのに等しいからだ。また、技術革新によるビジネスの変化に背を向けるのも、賢いスタンスとはいえない。
ベルテルスマンは以上のような前提に立ち、ナップスターと敵対するよりも、手を組み、コントロール下に置くほうが得策だと判断したと思われる。英語でよく言われるビジネスの一般法則に、「勝てない敵は抱き込んでしまえ(If you
can't beat them, join them.)」というものがあるが、ベルテルスマンがやろうとしているのはまさにこれである。
一方、ナップスターにとってベルテルスマンとの提携は、自らの生き残りをかけた「背に腹は代えられない」選択の結果といえる。
新サービス成功の鍵はユーザーと他のレコード会社
詳細は不明ながらも、ベルテルスマンとナップスターの新サービスの成功を占う鍵を握るのが、ユーザーと他の大手レコード会社であるのは間違いない。
まずは、これまで無料でサービスを利用してきたユーザーが、有料の新サービスを利用するかどうか。これはひとえに、新サービスの魅力の如何にかかっている。
ユーザーにとってのナップスターの魅力は、無料であることだけでなく、多くのユーザーの集まるコミュニティがつくりだす音楽ファイルの種類の豊富さと、そこに行けばインターネット中を探し回らなくても好きな曲が簡単に手に入るという利便性にある。加えて、誰かと同じ時間にサイトに接続したことから生まれる偶然の曲との出会いや、掘り出し物探しの側面、チャット機能によるユーザー同士のコミュニケーションも無視できない魅力の一部だ。熱心なファンの間では、珍しい曲ほどもてはやされる傾向にある。
ベルテルスマンとの提携により、ナップスターがこれまでのように完全に自由なファイル共有サービスとして存在することは、事実上難しくなる。自由さと無料の価値に重きを置くユーザーのなかには、今回の提携を「身売り同然」と非難する向きもある。こうした一部のユーザーが最近ネット上で増えている、よりマイナーな無料の類似サービスに移って行くのは仕方ない。しかし、それ以外のユーザーを引き止められるかどうかは、曲の豊富さ、利便性、偶然の出会いや掘り出し物探しといった魅力要素を新しいサービスにどれだけ持ち込めるかによるだろう。
もう一つの鍵は、ベルテルスマンとナップスターが開発する新サービスに他の大手レコード会社が曲を提供するかどうかである。他社の参加がなければ、提供する曲の範囲が限られ、ユーザーにとって魅力のあるサービスにならない。しかし、ベルテルスマンが過半数株主としてコントロールするサービスに、そのまま他社が参加するとは考えにくい。ベルテルスマンはサービスの詳細を詰めたうえで、資本参加を含む条件で、他社との交渉にのぞむ必要があるだろう。
訴訟は続く
BMGがナップスターに対する訴訟を取り下げるのは、新サービスがうまく開発、導入された場合に限られる。これが実現したとしても、訴えている5社中1社との和解が成立したにすぎない。ベルテルスマンという味方を得たとはいえ、いつ連邦控訴裁判所がサービス停止の判断を下すかもわからない状態に変わりはなく、ナップスターの不安定な立場はまだ当分続く。

*1 P2Pは「Person To Person」の意味で使われることもある。「Peer To Peer」は通信形態を指す技術用語だが、「Person To Person」は人から人へのコミュニケーションを表す。
*2 BMG、ソニー、EMI、ユニバーサル、ワーナーの5社。5社の所属する業界団体RIAAが訴訟のまとめ役となっている。
*3 ナップスターの公表数値。ソフトウェアのダウンロード数をベースにしていると推測される。
*4 各種報道では、ベルテルスマンはナップスターに5000万ドルを融資し、ナップスターの株式58%を入手する権利を手にすると言われている。
ネットビジネスの最新動向は、「サイバービジネスの法則集お知らせメール(登録無料)」でお届けしています。受託調査、コンサルティング、講演も行っていますのでお問い合わせください。
