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「ウェブハウス・クラブ」撤退でささやかれるプライスラインの限界

消費者が希望価格を指定できるプライスラインのビジネスモデルを食品雑貨とガソリン販売に適用する「ウェブハウス・クラブ」が、スタートから1年たらずで撤退することが明らかになった。直接の原因は資金不足だが、”価格指定購買方式”のビジネスモデルの限界を指摘する声もある。これまでの拡大路線に陰りの見えはじめたプライスライン自身の動向を含め、今回の出来事をレポートする。(富士通総研 倉持真理 2000年10月25日)

ウェブハウス・クラブの概要と経緯

ウェブハウス・クラブは、プライスラインからビジネスモデル・ライセンスを受け、食品雑貨とガソリンの価格指定購買サービスを展開する会社だ。プライスラインの創業者で、ビジネスモデルの考案者であるジェイ・ウォーカーを筆頭株主に、数社のベンチャー投資会社が出資する私企業であり、プライスラインと直接の資本関係はない。

同社は昨年11月にニューヨーク市で食品雑貨の購買サービスを開始して以来、各地の大手スーパーマーケット・チェーンと提携し、全米主要地域に範囲を拡大してきた。ガソリン販売は、今年8月にサービスを開始したばかりだった。提携するスーパーマーケットは7200店、ガソリン・スタンドは6000店。会員数は食品雑貨とガソリンを合わせて200万人にのぼる。

簡単に仕組みを紹介すると、ウェブハウス・クラブはプライスラインのWebサイト(http://www.priceline.com)を通じて会員を募集し、プラスチックの会員カードを発行する。会員はWeb上で事前に価格を指定し、提携スーパーマーケットやガソリン・スタンドで商品を受け取る。一方、ウェブハウス・クラブはディスカウント・コストを負担する食品雑貨メーカーや一般企業スポンサーを探し、それらの企業から収入を得る。ガソリンのディスカウント・コストは主にガソリン・スタンドが負担する。食品雑貨のディスカウントを提供するメーカーは125社あった。

撤退の決定により、ウェブハウス・クラブは10月5日で会員からの注文受付けを停止し、手持ちの現金と資産を各種支払いにあて、以降90日間で事業を清算する。先払いで商品引き換え未消化分を持つ会員に対しては、自動的に全額を返金する方針だ。 同社の説明によると、撤退の理由は、昨今の株式市場の不振により、当初の事業計画を遂行し、利益計上を実現するまでに必要な追加資金を調達する目処が立たなくなったためという。

ビジネスモデルの失敗or資金の問題?

業界アナリストやマスコミは、ウェブハウス・クラブのビジネスモデルに問題があったとして、さまざまに分析している。しかし、創業者であるウォーカーは、単に資金不足で事業を続けられなくなっただけで、ビジネスモデルが間違っていたとは考えていない。

このまま事業を続けていれば、最終的に同社が成功したのかどうかを判断するのは難しい。ただし一つ言えるのは、このビジネスモデルを成立させるには、短期のうちに提携小売店、会員、サプライヤーの三つの要素を十分な規模で確保しなければならず、多額の資金の集中投下を必要としたということだ。

サービス開始にあたってウェブハウス・クラブは、提携先スーパーマーケットやガソリン・スタンドにカード・リーダーを設置し、商品代金を精算するシステムを構築した。航空会社やホテルなど、サプライヤーの事務所とやりとりするだけで済むプライスラインのモデルとは異なり、ウェブハウス・クラブのモデルでは、多くの小売店へのシステム導入という余分なコストがかかる。

これと並行してスポンサーに対し、このサービスを通じた会員へのディスカウント提供が有効なマーケティング手段であることを納得させなくてはならない。そのために必要なのは、一刻も早く全国展開し、会員数を増やすことだった。

実際に、同社はサービス開始から1年未満で1万3000店以上の小売店と提携し、200万人の会員を獲得している。価格リクエストに占めるリピート利用の比率は85%と高く、確実に会員の支持を得ていた。必要な三要素のうち二つは実現しかけており、あとはどれだけ多くのスポンサーを集められるかの問題だった。

無論もっと早い時期に多くのスポンサーを集められていれば、同社は撤退せずに済んだ。この点をもって、ウェブハウス・クラブが事業に失敗したとする見方もある。しかし、従来ない新しいビジネスモデルを評価するのに、1年たらずの期間はあまりに短かい。

同社が開業した昨年11月時点では、インターネット関連株が好調だったため、事業を軌道に乗せるまでの初期コストをカバーする資金は当然集まるものと想定された。ところが、その後インターネット・ビジネスに対する評価は急降下し、これ以上の資金を注ぎ込んで事業を続行するには、リスクが大きくなりすぎた。ウェブハウス・クラブはこれまでに3.63億ドルの資金を調達したが、そのうち半分は、ジェイ・ウォーカーが手持ちのプライスライン株の売却などにより、個人的に出資した資金だった。

同氏の主張どおり、十分な資金ともう少しの時間があれば、成功する可能性もあったかもしれない。しかし結局、ウェブハウス・クラブは成否の結論を出さないまま、幕切れを迎えた。

プライスラインへの影響:実質よりも心理的

ウェブハウス・クラブの撤退と時期を合わせ、同じようにプライスラインからライセンスを受ける「パーフェクト・ヤードセール」も撤退することが明らかになった。消費者間の中古品売買に価格指定購買方式を適用したサービスとして今年1月にスタートしたが、消費者の支持が得られず、利用が少なかったことが撤退の理由と推測される。

ウェブハウス・クラブとパーフェクト・ヤードセールの撤退がプライスラインに与える影響は、実質的にはほとんどない。2社を資本関係のない別会社としたのは、高リスク事業にかかる資金負担をプライスラインの株主に転嫁しないためだった。2社からプライスラインに支払われる定期ライセンス収入はなくなるが、金額的には大きくない。

それでも今回の撤退は、プライスラインに対する世間の評価にかなりの影響を及ぼした。同社の評価は、同社自身が運営する事業と、ビジネスモデル・ライセンスによる収益の可能性という二つの要素から成り立っていた。しかし、今回の出来事により、それまでどんな商品カテゴリーにも適用できるかのように見えた同社の価格指定購買モデルにも、限界があるという印象が広まった。

おりしも、プライスラインはウェブハウス・クラブが撤退を表明した前週、第3四半期(7−9月)の営業収入がアナリストの予想を下回る見込みであることを発表したばかりだった。業績不振の原因は、収入の柱である航空券の販売が伸び悩んだためだ。

二件の出来事を受けて、同社の株価は最盛期と比べ約20分の1の過去最低レベルにまで落ち込んだ。資金に余裕があるため、これまでほかのドットコムEC企業ほど強い風当たりを受けずに事業を拡大してきた同社が、はじめて逆境に置かれたことになる。

今年に入って同社はそれまでブランド確立に費やした多額の宣伝コストを回収し、売上げを拡大しながら大幅に赤字幅を縮小することに成功している。しかし、今回の出来事により、同社にとって早期の利益計上がこれまで以上の急務となったことは間違いない。

ウェブハウス・クラブの利用方法
【食品雑貨】
(1) Webサイトで会員登録し、会員カードを受け取る。
(2) 買い物に出かける前にWebサイトにアクセスし、買いたい商品と希望価格を指定してリクエスト(商品のブランドは指定できない)。
(3) 希望価格で購入できるブランド名、商品名をウェブハウス・クラブがその場で通知(リクエストが通った場合)。
(4) クレジットカードで代金を支払い、購入商品リストをプリントアウトし、ウェブハウス・クラブの提携スーパーマーケットへ。
(5) 該当商品を棚からピックアップ。レジのカード・リーダーに会員カードを通すと、代金は合計金額から除外される。
【ガソリン】
(1) Webサイトで会員登録し、会員カードを受け取る。
(2) 給油前にWebサイトにアクセスし、利用したい最寄りのスタンド数カ所を選び、ガソリンの種類と1ガロンあたりの希望価格、必要な量(1回50ガロンまで)を指定してリクエスト。
(3) 希望価格で購入できるスタンド名をウェブハウス・クラブが通知(リクエストが通った場合)。
(4) クレジットカードで代金を支払い、指定スタンドへ。
(5) スタンドで会員カードを提示し、給油を受ける。先払いした量に達するまで、数回に分けて給油を受けられる。
プライスラインの取扱いサービス拡大の経緯
1998年4月 航空券
7月 新車、トラック
10月 ホテル宿泊
1999年1月 住宅ローン
11月 食品雑貨(ウェブハウス・クラブ)
2000年1月 個人間中古品売買(パーフェクト・ヤードセール)
2月 レンタカー
6月 長距離・国際通話
8月 ガソリン(ウェブハウス・クラブ)
10月 ウェブハウス・クラブ撤退
パーフェクト・ヤードセール撤退
(今後予定) 自動車保険、生命保険
BtoB
プライスラインの業績

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