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アマゾン・コムは生き延びるか トイザらス提携に見る利益確保の試み

8月10日、アマゾン・コムはトイザらス・コムと戦略提携を結び、今年秋に共同ブランドの玩具ECサイトをオープンする計画を発表した。アマゾンにとっては、実店舗とブランド力を備えたマルチチャネル小売業との初めての提携となる。一方、株式市場での同社の評価は過去最低レベルにあり、同社の将来を危ぶむ声も高まっている。今回の提携の意味と同社が現在置かれる状況を解説する。(富士通総研 倉持真理 2000年8月30日)

アマゾン & トイザらス:相互補完的提携

発表によると、アマゾン・コムとトイザらス・コム(http://www.toysrus.com)は、今年秋に玩具とビデオゲームを扱う共同ブランドのECサイトをオープンし、来年前半には、同様にベビー用品のECサイトも立ち上げることを計画している。トイザらス・コムは、大手玩具小売チェーンのトイザらス社を筆頭株主とするEC企業*1である。

今回の提携における両社の役割分担は明解だ。トイザらス・コムが親会社を通じて商品の選択、仕入れ、在庫管理を担当し、アマゾンがサイトの開発、運営、注文処理、顧客サービスを担当する。つまり、双方がそれぞれ得意な分野を受け持つ体制である。共同サイトは両社のサイトとリンクし、注文はアマゾン側で受ける。商品の在庫は、アマゾンの物流センターに保管され、そこから顧客のもとに届けられる。

10年間の契約期間中、アマゾンはトイザらス・コムから一定期間ごとの基本契約金と処理件数、収入のパーセンテージ(10%未満)に基づいて算出される金額の支払いを受けるほか、トイザらス・コムの株式5%分に充当可能な転換社債を受け取る。なお、この契約は米国外での適用も可能とされている。

このような提携が結ばれた背景もまた、明解だ。トイザらス・コムは98年にEC事業をスタートし、実店舗を持つ大手小売業ならではのブランド力で、消費者から高い人気を得ている。しかし、無店舗販売の経験がなかったトイザらスには、注文処理と配送に関わるスキルが不足していた。このため98年、99年のホリデイシーズンには、2年続けて受けた注文の一部をクリスマスまでに配達できない事態となった*2。また、サイトにも2年続けて混雑でアクセスできなくなる状態が発生し、評判と売上げの両方に傷を負ったうえ、ライバルであるeトイズの後塵を拝す結果となった。

こうした経緯からトイザらス・コムには、アマゾンの注文処理スキルを借りることで、今年のクリスマスこそ消費者の期待に応え、名誉を挽回したいという思いがある。

一方、アマゾンにとってトイザらス・コムと組むメリットは、マーチャンダイジング・スキルの獲得にある。発表の会見では、同社CEOのジェフリー・ベゾス自身が、現時点で自社に十分な玩具のマーチャンダイジング・スキルがあるとはいえないことを認めている。実際に、昨年のホリデイシーズンにアマゾンは、ポケモン関連グッズなどの人気玩具を早々と在庫切れにしてしまった。この点、トイザらスは長年の経験から需要を予測し、有利な立場で人気商品を安く大量に仕入れる能力を備えている。

さらに両社にとって、トイザらスとアマゾンという強力なブランドによる集客の相乗効果が期待できることは言うまでもない。実店舗への進出に関心のないアマゾンは、トイザらスのライバルにはなりえないし、書籍や音楽CDといった主力商品以外の商品カテゴリーで、業界リーダーになることにもこだわってはいない。双方の利害はうまく一致したといえる。

アマゾンの動機:利益確保

次に、一歩踏み込んで、アマゾンの戦略における今回の提携の位置づけについて考えてみたい。

提携以降、玩具についてはトイザらス側が仕入れと在庫リスクを負うことになるため、アマゾンは自社で在庫を持つ必要がなくなる。これにより、運営資金の負担は軽減する反面、同社が玩具事業から得る収入は減少する可能性がある。それでも、玩具事業に関するマージンは確実に改善する。

昨年末から今年初頭にかけて同社は、それまでの自社仕入れによる商品カテゴリーの拡大路線を、サイト上に集まる顧客をパートナー企業のもとに誘導して収入を得る「高収益路線」へとシフトさせた。急な戦略シフトの背景には、株式市場のインターネット株ブームが一段落し、株主が赤字続きの消費者向けEC企業の収益性に厳しい評価を下すようになると予想されたことがある。これにより、株価の下降と資金調達環境の悪化が見込まれたため、同社は最優先目標をそれまでの「赤字前提の事業拡大」から「利益確保」へと切り換えたのだ。

提携の効果と現在の状況を合わせて考えれば、アマゾンにとって今回の提携は、利益確保を優先した高収益路線への戦略シフトの一環であると捉えるのが自然だろう。ただし、これまでのパターンにあてはまらない新しい点が一つあるとすれば、それは提携相手がトイザらスのような有力マルチチャネル小売業だったことである。

アマゾンの誤算:ドットコム・パートナーの不調

アマゾンがこれまで提携相手に選んできた戦略パートナーは、ほとんどがオンライン専業(ドットコム)のEC企業だった。同社はさまざまな商品カテゴリーのドットコムEC企業に少数株主として出資し、サイト上にそれらの企業へのリンクを置いている。また、出資企業の一部を「アマゾン・コマース・ネットワーク(ACN)」と位置づけ、ドラッグストア・コムをサイト上に出店させるなど*3、自社の顧客をパートナーに紹介することで収入を得る事業を開始した。実質的にアマゾンの高収益路線は、これらACNパートナーの発展を前提としたものだといえる。

ところが、昨今の消費者向けEC企業に対する投資家の厳しい評価は、ACNパートナーにも影響を及ぼしはじめた。8月15日にはとうとう、アマゾンのサイト上で今年5月から「ホームリビング」の商品カテゴリーを運営していたリビング・コム*4が破産を申請し、営業を停止した。

アマゾンはリビング・コムから、5年間で1.45億ドルを受け取る契約を交わしていた。当然この契約は解除となり、出資金にも損害が出ると推測されるが、これについて同社は「財務上のインパクトはほとんどない」としている。しかしこの先、経営破綻に陥るのがリビング・コム一社で済まなければ、アマゾンにとっても事態は深刻だ。そして、最近ドットコムEC企業の間で蔓延している破産や買収、統合の状況を考えれば、これを杞憂と片づけることはできない。

ドットコムEC企業を中心に据えた高収益路線には、明らかに弱点があった。これに気づいた同社が次に打ち出した方策が、パートナーをトイザらスのような大手企業に変えることだったと考えられる。この見方が正しければ、すでに黒字化したといわれる書籍、音楽CD、ビデオ/DVD*5以外の商品カテゴリーで、同様に有名マルチチャネル小売業と提携する可能性も多いにある。

ビジネスモデルにはこだわらない?

昨年12月を境に下がり続けていたアマゾンの株価は、現在では年間最高額の3分の1以下となり、7月には最低額を割り込んだ。これは、6月下旬に発表された同社の今年第2四半期の売上げの伸びが予想を下回ったことや、その後、有力証券会社のアナリストが、こぞって同社の財務状況や業績について悲観的な分析や予想を示したり、評価を下げたりしたことが重なったためである。さらに、リビング・コムの破産申請で、アマゾンのドットコムEC企業への出資に対する懸念が加わり、同社の将来を危ぶむ声がかなり高まっている。

しかし、昨年末の時点で株価の継続的下降を見越し、すぐに利益確保の路線を打ち出したことや、ドットコムEC企業からトイザらスのような大企業との提携に方針を転換した絶妙のタイミングを見る限り、アマゾンが非常に優れた状況対応能力を備えていることは、誰もが認めざるをえない。

トイザらス・コムとの提携により、自社で玩具の在庫を持たなくなったアマゾンのビジネスモデルは、EC業者というよりも、単なる受注・配送アウトソーサーに近いということもできる。しかし、同社にはそのようなビジネスモデルに対するこだわり自体、ないのかもしれない。一消費者としてアマゾンを見た場合、そこから感じられるのは、ただひたすら顧客にとって「いつでもほしい物が見つかり、楽しく便利に買い物ができる」環境をつくることに努力しているという印象だけだ。

アマゾンの投資対象としての魅力は地に落ちた。しかし、消費者にとっての同社の魅力は増している。しかも同社は、消費者向けECというまだ歴史の浅い業界にあって、優れたサービスのスタンダードを常に示し続ける貴重な存在だ。知恵を絞って利益確保に取り組む同社を、投資家の面々は今少しの忍耐と寛容をもって見守ってほしいものである。

*1 トイザらスのほかに、ソフトバンク・ベンチャー・キャピタルをはじめとする数社のベンチャー投資会社がトイザらス・コムに出資している。

*2 99年のクリスマスの配達遅延に関しては、トイザらス・コムを含む7社が、FTC(米国連邦取引委員会)により通信販売法違反で起訴され、合計150万ドルの罰金を支払うことで和解した。あらかじめ提示した配送期日を守れなくなった場合、注文者にすぐに新しい期日を通知し、注文の遂行か解約かを選ばせることが定められているが、トイザらス・コムはその通知が遅かった。

*3 ドラッグストア・コムはアマゾンのサイト上にある「ヘルス& ビューティ」のカテゴリーの運営をまかされ、そこで自社が仕入れた商品を販売している。同様にリビング・コムは「ホームリビング」のカテゴリーの運営をまかされていた。

*4 昨年7月に開業した家具とインテリア用品を販売する株式非公開のEC企業。アマゾン以外にも数社のベンチャー投資会社などから資金提供を受けていた。アマゾンへの出店による集客力の向上で、今後売上げは大幅に拡大すると予想されたが、その効果を待つまでもなく、運営資金が底をついたと見られる。アマゾンはリビング・コムの破産申請の翌日、「ホームリビング」のカテゴリーをサイトから削除した。

*5 アマゾンの2000年第2四半期業績による。

アマゾンの出資企業
【アマゾン・コマース・ネットワーク参加企業】
企業名 連携状況(出資は全社対象)
Drugstore.com(処方薬、健康美容用品) サイト出店
Greenlight.com(自動車販売) サイト出店準備中
Living.com(家具、インテリア) サイト出店(破産申請で解除)
Audible.com(オーディオブック) 本のカテゴリーで商品を販売
NextCard(クレジットカード) 共同ブランド・クレジットカードの会員募集
Ashford.com(高級腕時計、アクセサリー類) サイト出店予定
【その他出資企業】
企業名 連携状況(出資は全社対象)
Pets.com(ペット用品) 出資のみ(ペットストア・コムを吸収)
Homegrocer.com(食品、雑貨宅配) 出資のみ(ウェブバンとの合併を計画)
Gear.com(スポーツ用品) 出資のみ
eZiva.com(手工芸品) 出資のみ
WineShopper.com(ワイン) 出資のみ(ワイン・コムとの合併を計画)
WeddingChannel.com(結婚ギフト・レジストリー) 出資のみ
Kozmo.com(スピード宅配) 出資のみ
Sothebys.amazon.com(高級オークション) オークション・サイト共同運営
サザビーズと半々の出資

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