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遅れてきた双方向TVサービス「AOLTV」とAOLの思惑

全世界に2300万人の加入者を持つアメリカ・オンライン(AOL)は6月19日、米国のサンフランシスコ、フェニックス、ボルチモアなど一部地域で「AOLTV」という双方向TVサービスを開始した。しかし、構想に2年以上の時間をかけ、紆余曲折を経て開始にいたったサービスのわりに、なぜかAOLTVには機能面で目だった新しさは見られない。AOLTVの戦略的位置づけや同社の思惑を、周辺の事実関係から分析してみる。(富士通総研 倉持真理 2000年7月12日)

AOLTVの概要

AOLTV(http://www.aoltv.com)は、56Kbpsモデムと5ギガバイトのハードディスクを内蔵した専用端末を家庭のTVと電話線に接続し、ワイヤレス・キーボードとリモコンを使って操作する。フィリップス社製専用端末は小売予想価格249ドルで、サービス開始地域の大手家電専門店チェーン、サーキット・シティの店舗か、AOLTVのWebサイトからオンライン注文で入手可能だ。サービス利用料は、AOL既存会員の場合、月額14.95ドル、AOL非会員は月額24.95ドルとなる。AOLTVの主な機能は表にまとめたとおりである。

遅れてきたサービス

そもそも、AOLが最初に双方向TVサービスの開発を発表したのは98年5月だった。当時、マイクロソフトのウェブTVネットワークス(http://www.webtv.net)のライバル格と見られていたネットチャンネル社*1を買収し、これをベースに開発を進める方針だった。しかし、買収したリソースにさほど活かせる部分はなかったようだ。ふたたびAOLが動いたのは、1年後の99年5月だった。

このとき同社は、デジタル衛星放送を展開するディレクTVと、ヒューズ・ネットワーク・システムズの二社と提携し、衛星から下りデータを高速配信し、家庭からの上りデータを電話線で送る構造を前提とした「AOLTV構想」を打ち出した*2。衛星を利用する構想は、今でも計画のなかに含まれてはいるが、実質的にはオプション扱いでしかない。結局、サービスの主流形態は、本体内蔵の52Kbpsモデムと電話回線を通じてデータの受送信を行うものとなった。

しかし、2年以上の紆余曲折を経て、やっとスタートしたAOLTVに対し、マスメディアや業界アナリストの反応はクールだった。主な意見は、「スタートが遅過ぎ、普及のタイミングを逃した」「ウェブTVと比べてなんら新しい機能がない」「サービス料金が高過ぎる」といったものである。

実際に、現時点でAOLTVには、直接競合するマイクロソフトのウェブTVを越える機能はない。そして、ウェブTV自体は、サービス開始から3年半以上が経過する今も、加入者数100−110万人程度で伸び悩んでいるのが実情だ。

AOLの思惑−−まずは既存会員を対象に

しかし、天下のAOLとあろうものが、なんら新しいところのない、大した普及の見込みもない後発サービスをあえて市場に投入するだろうか。そんなことはないはずだ。

その疑問を解く鍵は、あまりに手近なため、かえって死角になってしまうようなところにあった。同社のプレスリリースに載せられたAOLインタラクティブ・サービシズ部門の社長バリー・シューラーのコメントは、おおむね以下のようなものだ。

「AOLメンバーの多くは、TVを見ながらAOLにアクセスしています。AOLTVによって、AOLメンバーはその二つの活動をより便利なかたちで一緒にできるようになるでしょう。」
つまり、現時点で同社が対象としているのは、操作が複雑で、値段も少し高いPCのかわりに、TVでインターネットや双方向サービスをはじめようとする新規ユーザーではない。AOLTVのメイン・ターゲットは、PCとインターネットに慣れ、AOLの楽しさを知っている既存会員なのである。こう考えれば、AOLTVの機能に関し、メール・アドレスや各種設定を既存AOLサービスと共通化できることがさかんに強調されていた理由にも納得がいく。

AOL会員は全世界に2300万人(2000年6月16日現在)いる。そのうち、8割が米国の会員とすると、AOLTVの潜在顧客ベースは1840万人。このうち10人に1人が利用しただけでも184万人となる。シューラー社長のコメント通り、TVを見ながらAOLにアクセスする会員が多いとすれば、この程度の人数はすぐに集まらないとも限らない。ただし、既存サービスに月額21.95ドルを支払っている会員に、さらに14.95ドルを請求するのは高過ぎるというアナリストの指摘にも理があることは否めない。

合併後に真価が試される

AOLTVを既存会員に売り込めば、ウェブTVに匹敵する規模の加入者を集めることは、すぐにも可能かもしれない。しかし、AOLが狙っているのは、本当にそれだけなのだろうか。そんなことはないはずだ。

AOLが現在、タイム・ワーナーとの合併の途上にあるのは、言わずと知れた事実である*3。6月23日には、両社の株主が合併計画を正式に承認した。この後、米国の連邦取引委員会(FTC)と連邦通信委員会(FCC)、EUの承認を問題なくクリアできれば、今年中にも合併が完了する。

これにより成立する新会社AOLタイム・ワーナーは、AOLの消費者向けインターネット市場における圧倒的なシェアと、タイム・ワーナーの米国第二位のCATV網および、CNNをはじめとするCATVチャンネル、出版、映画、音楽といった豊富なコンテンツ素材を併せ持つ強大な企業となる。

このときAOLTVは、ケーブルによる高速データ通信能力とデジタルTV、そして、さまざまなオリジナル・コンテンツを備えたサービスとして、新たな飛躍の機会を得るだろう。既存AOL会員だけでなく、1300万のタイム・ワーナー・ケーブル加入世帯も、当然ながらAOLTVの潜在顧客ベースに加わる。

さらに、AOLTVがある程度まで普及し、双方向TV分野におけるスタンダードに近い存在となれば、ほかのCATV会社のケーブル網を通じたサービス展開の道が開ける可能性もある。無論、これは物事が一番うまく運んだ場合のシナリオであり、双方向TVプラットフォームには、ウェブTVを含むいくつもの競合が出てくるとは予想される。

AOLエニフェア戦略とAOLTV

AOLTVは「AOLエニフェア(どこでもAOLという意味)*4」と呼ばれる戦略の一端をなすものだ。この戦略のねらいは、現在大部分を占めるPCと一般電話線を通じたサービス形態を、高速回線、TV、携帯端末、携帯電話といったさまざまなアクセス経路・端末に移行、分散化し、将来にわたる成長と市場シェアを維持することにある。

一見、なんら新しい機能も持たない平凡なサービスに見えるAOLTVだが、AOLの置かれた状況を考え合わせれば、同社の将来に重要な役割を担い、展開次第では大きな発展の可能性を秘めた戦略商品と見ることもできる。AOLTVの真価は、AOLとタイム・ワーナーとの合併後に試されるだろう。

*1 ネットチャンネル社は97年秋にサービスを開始。96年末にスタートしていたウェブTVネットワークスのライバル格と見なされていたが、インターネットTVの概念がさほど消費者に受け入れられなかったため、すぐに経営難に陥り、AOLに身売りした。このとき、加入者が1万人ほどいたネットチャンネルのインターネットTVサービスは、引き継がれず停止となった。

*2 本紙1999年6月2日号(Vol.5, No.102) 6頁、同7月7日号(Vol.5, No.104) 8頁参照。

*3 本紙2000年2月2日号(Vol.6, No.117) 5頁参照。

*4 ほかにもAOLはこの戦略の一環として、スプリントPCSの携帯電話を通じたサービス「AOLモバイル(6月16日スタート)」や、ゲートウェイとの資本提携によるAOL携帯端末の開発などに取り組んでいる。

AOLTVの概要と主な機能・サービス
端末の
小売予想価格
249ドル
サービス料金 AOL既存会員 月額14.95ドル
AOL非会員 月額24.95ドル
TV番組ガイド TVチャンネルを内容別(ネットワーク、スポーツ、ニュース、映画など)に11種類に分類。カテゴリーから個々のチャンネルを選ぶと、各チャンネルの3日分の番組サマリーが見られる。番組サマリーはハードディスクにダウンロードされるため、オフライン状態でも利用でき、番組サマリー画面から録画予約が可能。見たい番組をあらかじめ選んでおくと、番組開始前にTV画面のメッセージで通知する。
オリジナル
TV番組関連
コンテンツ
番組放送中、ピクチャー・イン・ピクチャー*1で番組に関連した双方向コンテンツを同時表示する。たとえば、スポーツ試合の放送は、これまでの試合結果や選手のプロフィールなどを参照しながら楽しむことができる。
eメール、
インスタント・
メッセージ、
チャット
これらのコミュニケーション機能については、AOL既存会員は、PCで利用しているAOLサービスの登録名や設定を共通利用できる。つまり、AOL既存会員は、PCでもTVでも自分あてのeメールを確認することが可能。AOLTVならではの利用方法として、同じTV番組を見ながら、友人とインスタント・メッセージで感想を送り合ったり、見ているTV番組に関するチャット・ルームにアクセスするといったことができる。なお、1つのアカウントで設定可能なメール・アドレスは7個。
オンライン写真
アルバム
これも既存AOLサービスと共通の機能。デジタル写真を個人用スペースにストックし、家族や友人間で共有したり、プリントをオンラインで注文したりできる。
Web閲覧 TV画面で自由にWebページを閲覧できる。ただし、ストリーミングやデジタル圧縮ファイルのダウンロードには対応していない。
ショッピング 「AOLクイック・チェックアウト」で、あらかじめ配達先やクレジットカード番号を登録しておけば、クリック1回でショッピングできる。登録情報のセキュリティ保証付き。
ペアレンタル・
コントロール
親が子供の利用する機能やコンテンツを制限できる機能。子供の年齢に応じたレベル設定を提供している。
これから加わる予定の機能・サービス
TV番組
デジタル録画
後継端末には、内蔵ハードディスクにTV番組をデジタル録画したり、放送中の番組の一時停止、巻き戻し、早送りなどができるパーソナル・ビデオ・レコーダー機能が付加される。この機能のライセンス元であるTiVo社*2にAOLは出資している。
ディレクTV
共用端末
ディレクTVのデジタル衛星放送チューナーとの共用端末を今年後半に発売予定。共用端末では、下りのデータは衛星から配信される。

*1 画面スペースを分割し、放送中の番組とその周辺を囲む双方向コンテンツを同時に表示する機能。

*2 パーソナル・ビデオ・レコーダーのハード仕様ライセンスと付属サービスを提供する企業。現時点でこの分野では、TiVoとリプレイ・ネットワークスの2社が大部分のシェアを握っている。本紙1999年9月8日号(Vol.5, No.108) 5頁参照。


ウェブTVネットワークスとは

概要

マイクロソフトの展開する双方向TVサービス。サービス開始は96年秋にさかのぼる。当初、TVでのインターネット接続に主眼を置いた”インターネットTV”のサービスとしてスタートしたが、マイクロソフトは1年もたたないうちにこのコンセプトの限界を悟り、TV番組を見ながら双方向機能を楽しむ双方向TVサービスへと転換。以来、番組ガイドや、放送中の番組と双方向コンテンツを同一画面で表示する機能などを売り物に、サービスを続けてきたが、加入者数は100万−110万人程度にとどまっている。

なお、インターネットTVのコンセプトが普及しなかった主な原因は、97年以降、PCの低価格化が進み、低価格インターネット端末としてのインターネットTVの存在意義が薄まったためと考えられる。

最近の展開

デジタル衛星放送のエコースター・コミュニケーションズ社と提携、パーソナル・ビデオ・レコーダー(PVR)機能対応の共用チューナーを昨年後半に発売し、パーソナルTVサービスを開始した。また、今年6月には家電メーカーのトムソンとディレクTVとの提携を発表。ディレクTV共用チューナーを開発し、インターネット接続と双方向TV、デジタル衛星放送、PVR機能をパッケージ化した「アルティメットTV」として売り出すことを決定した。

これから加わる予定の機能・サービス
端末の小売予想価格
99ドル−399ドル
サービス料金
ウェブTVクラシックス(インターネット接続機能のみ) 月額21.95ドル
ウェブTVクラシックス(インターネット接続機能のみ) 月額21.95ドル
ウェブTVプラス(双方向TV+インターネット接続) 月額24.95ドル
ウェブTVパーソナルTVサービス(PVR機能)* 月額9.95ドル
ウェブTVプラス + パーソナルTVサービス* 月額29.95ドル

* このサービスを利用するには、エコースターのデジタル衛星放送サービスのPVR対応共用チューナーが必要。


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