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利益確保に目を向けるアマゾン・コム 消費者向けEC企業、受難の時代へ

アマゾン・コムの99年度業績によると、同社の年間売上げは前年の2.7倍に伸びたが、損失も5.8倍に拡大した。同社は最近、開業以来はじめて従業員2%のレイオフを明らかにし、他のEC企業とのマーケティング契約をたてつづけに結んでいる。成長性の魅力で評価されてきた消費者向けEC企業の株価は12月以降軒並み下げており、利益確保に対するプレッシャーがEC企業を苦境に追いやると予想される。(富士通総研 倉持真理 2000年2月16日)

「書籍黒字」発表の背景

2月2日に発表されたアマゾン・コムの99年度業績のプレスリリースのタイトルは、「米国の書籍販売ビジネスが黒字」という出だしではじまる。内容を見ると、99年第4四半期(10~12月期)の書籍販売が黒字になったと書いてあるが、書籍の売上げ金額が前年同期比66%増の3.17億ドルであることのほか、黒字の数値的根拠にはふれていない。

一方、99年度全体の業績は、売上げが前年の約2.7倍の16.4億ドルに伸びたが、損失はそれ以上に拡大し、前年の約5.8倍の7.2億ドルとなった。

ことさら「書籍は黒字」を強調したのは、同社のビジネスモデルは永遠に黒字化できないのではないか*1、という一部の業界アナリストの見かたを払拭するためだ。つまり、損失が拡大しているのは、取扱い商品の増加など積極的な事業拡大を行っているからであり、元の書籍専門オンラインショップのままでいれば、利益を出せたことをアピールする狙いであった。

このような行動の背景には、最近の株式市場の状況がある。12月の初頭から1月末にかけて、消費者向けECの主要株式公開企業の株価は軒並み低下し、アマゾン株も85.00ドルから61.69ドルと約27%低下した。この時期、クリスマス商戦のECの好調が毎日のように報道されるかたわら、株式市場ではEC企業に対する厳しい評価が進行していた。

ここ数年、米国経済全般の継続的な好調に支えられ、EC企業を含むインターネット関連株は、利益や資産といった通常の評価基準ではなく、成長性と将来への期待から、赤字にもかかわらず高い値をつけてきた。しかし、インターネット株人気も3~4年続くと、さすがに市場の見かたも冷静になる。企業数の増加による競争の激化で、一律の高成長も期待できない。また、最近はECでも、消費者向けより企業向け(BtoB)の分野に注目が移りつつある。そこに米国経済の先行き減速感が加わって、消費者向けECの企業に対しては、より実質的な基準で価値を評価しようとする動きが出はじめた。アマゾンはこのような状況に合わせ、世間がいま一番聞きたがっている言葉、すなわち「黒字(Profitability) 」を使ったわけである。

レイオフと場所貸しビジネス

実質を伴わない方便だけでなく、99年度の業績発表に先立つ1月下旬、アマゾンは明らかに利益確保を目的とした後ろ向き、前向き二タイプの行動を起こしている。

まず、後ろ向きの行動はというと、従業員2%のレイオフだ。7500人中150人を削減する予定で、主にワシントン州シアトルの本部要員が対象になるという。同社は、取扱い商品の拡大や新しい物流センターのオープンなどに合わせ、能力的、地理的条件に合う人材との入れ換えを行うためと説明している。しかし、95年の開業以来、拡大路線をつき進んできた同社の初めてのレイオフに、風向きの変化をくみ取らないほうが不自然だろう。

反対に、前向きの行動とは、1月下旬に4件たてつづけに発表された他のEC企業とのマーケティング契約である。それぞれの相手先と契約内容は別枠内にまとめたとおりだが、いずれもアマゾンのWebサイトで相手の商品を販売するか、プロモーションを行うというもので、自らの集客力を収入に変えるための”場所貸しビジネス”といえる。在庫や目立ったコスト負担の必要ないこのようなビジネスは、利益確保に大きく貢献するとともに、商品種類の拡大により、ショッピング・ポータルを目指す同社の戦略にも合致する。

同様の契約は、昨年11月にネクストカードと交わした共同ブランドのクレジットカードのプロモーションに関する件が初のケースで、今回の4件はそれに続くものだ。そして、今後の業績や株式市場の動向によっては、さらに続くこともありえる。

苦境に陥るEC企業

利益確保に向けた戦略転換を行ったのは、アマゾンだけではない。ソフトウェアを販売するECサイトのビヨンド・コムは、1月中旬、20%のレイオフとCEOの辞任、これまでの消費者向けEC事業から、企業や政府機関を対象としたBtoB事業に主力を移すことを含むリストラ計画を明らかにした。同社の説明によると、集客のための広告費用の大量投入を行わない方針を取ったことで、消費者向けの売上げが伸び悩んだという。結果的に、99年10~12月期の売上げは業界アナリストの予測水準を大きく下回った。

一方で、同社の売上げは、ソフトウェアのデジタル・ダウンロードの仕組みを応用し、各種政府機関で使われるソフトウェアを一括契約で納入したり、大手ソフトウェア・メーカー向けにデジタル・ダウンロードのインフラを提供するといったBtoB事業が半分近くを占めるようになっている。こうした状況から同社は、消費者向けEC事業を切り捨て、利益の見込めるBtoB事業を主力とする決断を下した。

アマゾンやビヨンド・コムの戦略転換は、他のEC企業にも伝播すると見られる。しかし、アマゾンの場所貸しビジネスは、1700万人を越える既存顧客と、1カ月あたりほぼ同数のユーザーをWebサイトに集める力を持つ同社だからこそ成立する。また、ビヨンド・コムにはBtoB事業という切り札があった。

このような切り札を持たない多くのEC企業は、利益を求める市場圧力と、多額の広告費用をかけなければ競争に勝てず、広告費用をかければ赤字が拡大するビジネスモデルの矛盾との板挟みとなって、苦境に陥ると予想される。

昨年半ば以降、消費者向けECの分野では、PC販売のエッグヘッド・コムとオンセール、旅行予約のプレビュー・トラベルとトラベロシティという大手同士二組の合併が計画された。また、音楽CD販売の大手CDナウは、タイム・ワーナーとソニーが所有する音楽CDのダイレクト・マーケティング会社コロンビアハウスとの合併を進めている*2。これらの合併は、各商品分野におけるリーダーの座を確保し、規模の拡大による体質強化を目的としている。

今後、このようなEC企業同士の合併や、一般企業によるEC企業の買収がさらに増えることは間違いないが、その直接の理由は、体質強化というよりも、株価と業績の両方で危機に瀕したオンライン専業のEC企業のリストラということになりそうだ。

*1 多額の広告費をかけなければ売上げが維持できず、広告費の負担が大きく、利益が出せない構造。競争がこの構造をさらに顕著にする。とくにオンライン専業ベンチャーとして最近登場したEC企業の場合、ブランド浸透のために巨額の費用が必要であり、それを株式公開で得た資金でまかなっている事情がある。


*2 本紙99年8月4日号(Vol.5, No.106) 8頁参照。
エッグヘッド・コム/オンセールは合併完了。プレビュー・トラベル/トラベロシティ、CDナウ/コロンビアハウスは合併手続き中。


アマゾンコム業績・売上
主要株式公開EC企業の株価
企業名 1999年12月1日 2000年1月28日
Amazon.com(総合) 85.00 61.69
eToys(玩具) 58.56 16.06
Expedia(旅行) 52.06 29.00
Preview Travel(旅行) 44.94 30.00
Drugstore.com(薬) 43.38 28.88
Webvan(食品雑貨) 23.25 15.94
Barnesandnoble.com(書籍) 19.38 12.88
CDNow(音楽CD) 15.00 12.00
Beyond.com(ソフトウェア) 10.50 6.25
アマゾン・コムとEC企業4社の提携内容
【提携先】Drugstore.com
特徴 市販薬、処方薬、健康美容用品のECサイト
提携内容 アマゾンのWebサイトにドラッグストア・コムのコーナーを設け、今年春頃から商品を販売する。在庫、注文処理、配達はドラッグストア・コムが行う。ショッピング・カートと登録顧客向け簡易支払い手続き(1クリック・ペイメント)の仕組みは、いずれアマゾンと共通化する。
契約条件 ドラッグストア・コムはアマゾンに3年間で1.05億ドル支払う。アマゾンは以前から株式を保有するドラッグストア・コムに追加の3000万ドルを投資し、28%の株主となる。
【提携先】Greenlight.com
特徴 直接オンライン注文の可能な自動車ECサイト。今年1月にオープンし、米国南部の3都市を対象にサービスを開始。春から全国展開を予定。
提携内容 アマゾンのWebサイトでグリーンライト・コムのプロモーションを行う。
契約条件 グリーンライト・コムはアマゾンに対し、5年間で8250万ドルを支払う。アマゾンはグリーンライト・コムの株式5%を購入するほか、5年間で株式保有率を30%まで引き上げる権利を得る。
【提携先】Living.com
特徴 家具とインテリア用品のECサイト
提携内容 アマゾンのWebサイトに家具とインテリア用品を販売する「ホーム・リビング」コーナーを今年夏を目処に新設し、リビング・コムの商品を販売する。在庫、注文処理、配達は、リビング・コムが行う。
契約条件 リビング・コムはアマゾンに対し、5年間で1.45億ドルを支払う。アマゾンはリビング・コムの株式18%と、追加の9%分を取得する権利を得る。
【提携先】Audible, Inc.
特徴 新聞、雑誌、書籍などを音声化したデジタル・コンテンツを無料、有料で提供するWebサイト。コンテンツはオンライン再生、PCへのダウンロード、または専用機能付き携帯デジタル・オーディオ・プレイヤーで聴くことができる。オーディオブック販売も行う。
提携内容 アマゾンのWebサイトでオーディブルの音声コンテンツ提供と、プロモーションを行う。
契約条件 オーディブルはアマゾンに対し、3年間で3000万ドルを支払う。アマゾンはオーディブルの株式5%を購入する。

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