富士通総研

  1. ホーム >
  2. 調査・研究成果 >
  3. サイバービジネスの法則集 >
  4. コラム >
  5. 2000年 >
  6. AOL−タイム・ワーナー合併 ブロードバンドへの道を開く

AOL−タイム・ワーナー合併 ブロードバンドへの道を開く

1月10日、世界で2000万人の加入者を持つアメリカ・オンラインとメディア業界大手のタイム・ワーナーが合併する計画を発表した。新旧メディアを代表する両社の合併は、新旧メディア融合のシナジーと、インターネットのブロードバンド・シフトを加速し、メディアの世界を新たな段階に導く役割を果たすと予想される。(富士通総研 倉持真理 2000年2月2日)

AOL主導の合併

両社の合併により、予定では今年末までにAOL株主が55%、タイム・ワーナー株主が45%を所有する新会社「AOLタイム・ワーナー」が発足する。発表当日の株価で1620億ドルという米国史上最大規模の合併だ。

新会社の傘の下には、AOLのインターネット関連事業に加え、タイム・ワーナーの展開するケーブル網、CATVチャンネル・ネットワーク、出版、映画、音楽などの事業が同居し、年商300億ドルを越える世界最大のメディア企業となる。

既存メディアとインターネット企業の結びつきは、98年以降、ディズニーのインフォシーク買収、NBCのスナップ・コムおよびズーム・コム買収という例があるが、既存メディアがインターネット企業を吸収したこれらの先例に対し、今回の合併ではインターネット側のAOLに主導権があることに明らかな違いがある。

インターネットの普及を牽引し、ここ数年で急成長を遂げたAOLは、インターネットの枠を飛び出し、インターネットが既存メディアと融合する将来のメディアの世界におけるナンバーワン企業の座を狙っている。

目的はケーブル回線確保

前述のような将来ビジョンとは別の実質的な意味で、AOLがタイム・ワーナーとの合併を求める最大の動機は、タイム・ワーナーが所有するケーブル網をAOLの主力サービスへのアクセス経路として確保することにあると推測される。

ダイヤルアップのインターネットの世界では、圧倒的なリードを築き上げたAOLだが、高速サービス(ブロードバンド)へのシフトが現実に近づくにつれ、その将来は不透明になりつつあった。電話線に代わる高速回線として、同社は昨年、衛星と地域電話会社のADSL(Assymetry Digital Subscriber Line) の確保に動いた。しかし、高速回線の大本命が、衛星でもADSLでもなく、CATV会社のケーブル網であることは、ほぼ確実だ。

ケーブル経由でAOLのオンラインサービスを提供するには、CATV会社との回線利用契約が必要になる。しかし、ケーブル経由のISP事業を自ら掌握しようとする大手CATV会社は、AOLなど外部のISPにケーブル回線を利用させることを表向き技術的な問題を理由に拒否している。

これに対し、AOLをはじめとするISPは、CATV会社が高速インターネット接続市場の自由競争を阻害しているとして、この2年あまり、FCC(米連邦通信委員会)にCATV会社にケーブル回線の一般ISPへの開放を義務づける「オープン・アクセス」を求めるロビー活動を続けてきた。しかし、FCCはこの問題には介入しない方針を崩さなかった。

この間、北米のケーブルISP加入世帯は、昨年9月末時点で140万世帯、年末時点では推定190万世帯と、次第に数を増やしている。

このような状況でAOLは、ダイヤルアップの加入者がAOLを脱退し、ケーブルISPに乗り換えはじめる前に、なんとかケーブル経由でAOLにアクセスする手段を確保する必要に迫られた。そして、その解決策が1300万世帯の加入するケーブル網を持つタイム・ワーナーとの合併であった。

一方、タイム・ワーナーは、豊富なコンテンツを持ちながらも、これまでインターネット事業で成功の評価を受けたことは一度もない。95年以来、同社コンテンツへのポータルであった「パスファインダー」は、ヤフーやAOLなどインターネット専業ベンチャーの後塵を拝し、ついに昨年の方針変更で姿を消した。インターネット事業を軌道に乗せる機会をつかめずにいたタイム・ワーナーにとっても、AOLとの合併に異論はなかったと考えられる。

数ある合併のメリット:コンテンツ、双方向TV

両社の合併によるメリットはほかにもある。たとえば、タイム・ワーナーのコンテンツをAOLの展開するオンラインサービスやWebサイトを通じて提供すれば、インターネット上でのAOLの優位はさらに増し、タイム・ワーナーはこれまでより効率よくコンテンツを収入に変えることができる。

また、AOLは昨年前半から、テレビ画面で電子メールやコンテンツ、ショッピング、チャット、テレビ番組ガイドといった双方向機能を提供する「AOLTV*1」と名付けた双方向テレビのサービス開発を進めている。AOLは、これをヒューズ・ネットワーク・システムズの衛星からのデータをテレビと接続したアンテナと専用チューナーで受信し、電話回線で上りのデータを送る構造を前提に開発していたが、今回の合併が実現すれば、タイム・ワーナーのケーブル網を通じての展開も可能になる。デジタルテレビ時代へ向けた準備にもぬかりはない。

オープン・アクセスでブロードバンド・シフトが進む

両社の合併計画のなかには、今後のインターネットの動向に影響を及ぼす一つの方針が明記されている。それは、両社合併のあかつきには、タイム・ワーナーのケーブル網を一般のISPに開放し、消費者にISP選択の自由を約束するというものだ。

これまでケーブル経由のインターネット接続サービスを希望する消費者は、自分が加入しているCATV会社が独占契約を結んだケーブルISPからサービスを受けるしか選択の余地がなかった。このため、現在の北米ケーブルISP市場では、AT&Tを筆頭株主に多くのCATV会社から出資を受ける「エキサイト@ホーム」が6割近くのシェアを握っている。タイム・ワーナー自身も、メディアワンと共同で「ロードランナー」というケーブルISPを運営しており、これら二つのケーブルISPのシェアは合わせてほぼ9割となる。

AOLは、これまでCATV会社に対し、一般ISPにケーブル回線を開放することを求めてきた立場から、タイム・ワーナーのケーブル網を自社のライバルである一般ISPにも公平に開放する方針を打ち出した。

一方で、昨年12月中旬、これまでオープン・アクセスを断固拒否していたAT&Tが、エキサイト@ホームとの独占契約が切れる2002年以降、一般ISPにケーブル網を利用させるという方針転換を表明。大手二社がオープン・アクセスに転じたことで、ほかのCATV会社もこれに追随するのはほぼ間違いない。

このため、AOLとタイム・ワーナーの合併が完了する予定の今年末から2002年にかけては、ケーブルISPの増加と競争に伴う価格の下落などが発生し、ダイヤルアップ・ユーザーのケーブル回線への移行が急速に進むと予想される。

新会社「AOLタイム・ワーナー」が発足すれば、高速インターネット接続とデジタル双方向テレビ、これらに乗せるコンテンツ、そしてロイヤルティの高い既存顧客という四つのリソースを合わせた絶大なパワーを持つ存在となる。そして、かつてAOLがダイヤルアップのインターネット普及を牽引したのと同様の役割を、インターネットのブロードバンド・シフトにおいても担うことになるだろう。

*1 本紙99年6月2日号(Vol.5, No.102) 6頁参照

企業概要
アメリカ・オンライン タイム・ワーナー
[創業] 1985年 1990年
[従業員数] 12,100人 7万人
[年商] 48億ドル(99年度) 268億ドル(98年度)
[時価総額] 1640億ドル 970億ドル
[展開ブランドと主な利用者数]アメリカ・オンライン
アメリカ・オンライン(加入者2000万人)
コンピュサーブ(加入者220万人)
ネットスケープ(サイト登録者2000万人)
ICQ(メッセージ・ソフト/登録者5000万人)
AOLインスタント・メッセンジャー(メッセージ・ソフト/登録者5000万人)
AOLムービーフォン(映画鑑賞券販売サービス)
デジタルシティ(地域ガイド)
スピナー(音楽コンテンツ、音楽プレイヤー)
ウィンアンプ(音楽プレイヤー)
[展開事業と主要ブランド]タイム・ワーナー
CATVチャンネル・ネットワーク
CNN(米視聴世帯数7600万)
HBO、TNT、カートゥーン・ネットワークなど
出版事業(雑誌購読者数合計1億2000万人)
タイム、ピープル、スポーツ・イラストレイテッドなど
映画
ワーナー・ブラザース、ニューライン・シネマ
音楽
ワーナー・ミュージック
放送
WBネットワーク
ケーブル網
タイム・ワーナー・ケーブル(CATV加入世帯1300万)
北米ケーブルISP加入世帯数
CATV会社名(ケーブルISP名) 加入世帯数(99年9月末)
(Time Warner(ロードランナー) 245,000
(MediaOne(ロードランナー) 173,000
(Shaw(エキサイト@ホーム) 147,000
(Cox(エキサイト@ホーム) 140,474
(Rogers(エキサイト@ホーム) 125,400
(AT&T(エキサイト@ホーム) 113,600
(Comcast(エキサイト@ホーム) 112,900
(Cogeco(エキサイト@ホーム) 41,500
(Videotron(その他) 36,000
(Cablevision(エキサイト@ホーム) 31,474
その他 240,000
合計 1403,333

ネットビジネスの最新動向は、「サイバービジネスの法則集お知らせメール(登録無料)」でお届けしています。受託調査、コンサルティング、講演も行っていますのでお問い合わせください。