PVR(パーソナル・ビデオ・レコーダー)でTVが変わる。
TV業界に渦巻く期待と不安
ビデオテープではなく、内蔵ハードディスクにデジタル形式でTV番組を録画する新しい家電製品「パーソナル・ビデオ・レコーダー(PVR)」が今年、米国で売り出された。よくも悪くも、消費者のTV視聴行動を変化させ、TV業界に大きな影響を与えると予想されるPVRは、大手メディアをはじめとする関連企業を、期待と不安の入り交じった行動に駆り立てている。PVRの開発元であるTiVoとリプレイ・ネットワークスの2社を巡る最近の出来事をまとめてみた。(富士通総研
倉持 真理 1999年9月8日)
PVRとはどんなものか?
「パーソナル・ビデオ・レコーダー(PVR)*1」と呼ばれる新家電のコンセプトは昨年末にはじめて登場。TiVo(http://www.tivo.com) とリプレイ・ネットワークス(http://www.replaytv.com) の2社が、機能的にほぼ同様の製品とサービスを発表し、今年に入ってWWWサイトを通じた消費者への直接販売を開始した。
PVRはビデオ挿入口のないVCRのような外観をしており、電話回線とつなぎ、リモコンで操作する。TVをPVRに接続すると、放送中の番組であっても一時停止や巻き戻し、早送り、再生が可能。録画はデジタル形式で本体内蔵のハードディスクに蓄積される。これだけでもかなりの新機軸だが、PVRの一番の真価はTVをパーソナライズできることにある。
深夜の使われていない時間帯に、PVRに電話回線を通じて2週間先までの番組表がダウンロードされ、この番組表と双方向番組ガイド機能を使って簡単に録画を予約できる。しかもユーザーがいちいち番組を指定しなくても、自分の好きな番組の種類やテーマ、タイトル、出演者などを指定しておくと、その情報に従って、ユーザーの好みどおりの番組を自動的に録画してくれるのだ。これで見たい番組を見逃すこともなく、いつでも好きな時間に、好きな番組を楽しめるようになる。
また、TiVoのPVRには、リモコンのボタンで見た番組が自分の好みに合っていたかどうかを評価すると*2、ユーザーの嗜好を次第に学習し、好みに近い番組を推薦してくれる機能もある。
両社とも、番組表と一緒に提携チャンネルの番組紹介や映画の予告編ビデオなどのコンテンツと双方向広告を配信し、広告主から収入を得る。番組表ダウンロードを無料とするリプレイに対し、TiVoは本体とサービスを込みで販売するタイプと、本体価格を下げ、月額または年間のサービス料を別途徴収するタイプを用意している。
TV業界の反応:期待と危惧と
画期的な新製品が、すぐに注目の的となったのはいうまでもない。TiVoとリプレイには、即座に有名ベンチャー投資会社が付き、次いで大手メディア、ネットワークTV、CATV、衛星放送、ケーブル・チャンネル、TVメーカーといったTVに関係するあらゆる企業が出資しはじめた。なかにはディズニーやNBC、ディレクTVなどのように、抜け目なく両方に出資した企業も少なくない。
しかし、TV業界には、PVRに諸手をあげて賛同するわけにもいかない事情がある。一番の懸念は、視聴者がコマーシャルを見なくなってしまうことだ。VCRの場合、コマーシャルは早送りされながらも視聴者の目に入っていたが、デジタル式のPVRは完全にコマーシャルを飛ばすことができる。リプレイのリモコンには、30秒後にジャンプする「30秒送り」のボタンが付いているのだ。
また、PVRで視聴者が好きな時間に好きな番組だけを録画で見る傾向が進むと、ネットワークTVやケーブル・チャンネルのブランドと放送スケジュールがさほど意味を持たなくなる。視聴者は自動録画された番組がいつ、どのチャンネルで放送されたものかを意識する必要がなく、それは放送側にとってロイヤルティの喪失と、視聴率の低下を意味している。
矛盾した行動を取るTV会社
PVRの可能性に期待する一方で、こうした危惧を捨てきれないTV業界の自己矛盾を反映しているのが、先頃決済された新しい業界団体だ。「アドバンスト・テレビジョン・コピーライト・コーリション(ATCC:Advanced Television Copyright
Coalition)」と名付けられたこの団体は、CBS、タイム・ワーナー、ディズニー、ニューズ・コープ*3、ディスカバリーの5社で構成されている。いずれも、TiVoかリプレイのどちらかに出資している企業である。
団体の目的は、ネットワークTVやケーブル・チャンネルが番組をローカル配信する際に、番組の所有権を持つ制作スタジオに対して支払っているのと同様のライセンス料をPVRのメーカーに対しても課すことにある。また、PVRメーカーが将来的に、独自のコマーシャルを番組の合間に挿入する可能性についても懸念を表明している。
ATCCの立場は、コンテンツの利用と所有権の問題について、業界の新規参入者も公正で同等な扱いを受けるように、オープンな議論を求めるというもので、PVRメーカーとのライセンス料交渉がまとまらない場合、訴訟に踏み切る可能性もあることを匂わせている。この場合、訴訟の焦点は、PVRによる番組の録画が所有権の侵害にあたるということではなく、TVネットワークや制作スタジオが所有権を持つ番組を材料に、加入者あるいは広告主から収入を得る事業を行うことを問題とするらしい。
ATCC参加企業は、PVRがTV業界にもたらす枠組みの変化は避けようがないと認め、これに乗り遅れまいとしながらも、自分たちが持つ既存権益を守るための妥協点をなんとか見いだそうとしている。
一方、このような反応に対し、TiVoやリプレイは、PVRは新しいタイプの双方向広告を可能にし、広告収入を減らすどころか、かえってTV業界に新たな収入源をもたらすものだと説いている。たとえばリプレイは、TVコマーシャルにさらに詳しい情報を提供するボタンを表示する双方向広告を計画しており、先進的な広告主のP&Gは、PVR用広告の形態として、番組ガイドと一緒にダウンロードし、視聴者が好きな時間に再生して見られる5分間の製品紹介ビデオなどを考えはじめているという。
PVRにチャンスを見るAOL
PVRに目を付けたのは、ベンチャー・キャピタルとTV関連企業だけではない。PVRの双方向サービスに接点を見いだしたAOLもまた、TiVoへの出資と戦略提携に乗り出した。
AOLは今年5月、衛星からのデータ通信をアンテナとチューナーで受け、TVとリモコンを操作端末として利用する「AOL TV」の構想を打ち出したばかりだ*4。この新サービスでは、TV環境に合わせたかたちでのWWW閲覧や電子メール、インスタント・メッセージ、ショッピングなどに加え、番組ガイド、TV番組と連動したコンテンツ、ビデオ・オン・デマンドなど、いわゆる双方向TV機能の提供が計画されている。
今回の提携により両社は、AOL TVのチューナーとTiVoのPVR本体を共用化し、TiVoの購入者がAOL TVにアクセスできるようにするとともに、AOL TVの双方向TV機能を共同開発することで合意した。AOL TVの開発ですでにAOLと提携済みのディレクTVやフィリップスもTiVoに出資しており、多重的な提携関係が結ばれている。
具体的なサービスのイメージとしては、スポーツ試合のTV放送中に、画面の脇にインスタント・メッセージのウィンドウを開いて、同じチームのファン同士で会話したり、TV番組の書評コーナーの間、紹介された書籍を購入できるアイコンが画面に表示されるといった例が提示されている。
TiVoにとってAOLとの提携メリットが、双方向サービスの開発ノウハウの獲得にあるのは確かだが、AOL TVの普及力自体は今のところ未知数であり、AOL TVがTiVo普及の助けになるのか、逆にTiVoの存在がAOL TVの普及を助けることになるのか、これについてはまだ予想できない。
クリスマス商戦で本格デビュー
各々のPVRに対する思惑はさまざまとはいえ、多くの企業の出資を受けたTiVoとリプレイは、本体を生産する有名ブランド・メーカーと小売店チャネル、マーケティング資金を確保し、今年のクリスマス商戦に間に合うタイミングで本格的デビューを果たす体制を整えた。
この2社に加え、マイクロソフト傘下のウェブTVネットワークス(http://www.webtv.net)*5も、PVRに参入しようとしている。ウェブTVは現在、エコースター・コミュニケーションズ社のデジタル衛星放送チューナーとの共用機種で、衛星放送とウェブTVプラスを両方利用できるサービスを提供しており、今秋に予定されるグレードアップで、この機種に7時間分のデジタル録画を含むPVR機能を付加する計画だ。クリスマス商戦でPVRが消費者に受け入れられれば、ウェブTVの将来機種にPVR機能が搭載されるのは間違いないだろう。
PVRは単にVCRを代替する家電製品というよりも、新世代双方向TVの流れに連なる重要な存在となってきそうだ。
*1 デジタル・ビデオ・レコーダー(DVR)と呼ばれることもあるが、最近はPVRという呼び名が定着しつつある。
*2 自分の好みに合う番組には「サム・アップ」ボタン、合わない番組には「サム・ダウン」ボタンを押して評価する。サム・アップは立てた親指を上に向ける動作、サム・ダウンは同じく下に向ける動作を表す。
*3 ニューズ・コープは、子会社のTVガイド・インタラクティブを通じて間接的にTiVoに出資している。
*4 本紙99年6月2日号(Vol.5,No.102) 6頁、99年7月7日号(Vol.5, No.104) 8頁参照
*5 TVと電話回線に専用端末を接続して使うインターネットTVのサービス。電子メールやWWWなど、基本的なインターネット機能を備えた「ウェブTVクラシック」と、双方向TV機能が強化され、TV電波の隙間を通じて送られるデータ放送を受信し、ビデオなどのコンテンツを本体のハードディスクに蓄積できる「ウェブTVプラス」の2種類のサービスがある。加入者数は約80万人。
| 本体価格 | サービス料込み 14時間録画 698ドル サービス料込み 30時間録画 1198ドル サービス料別 14時間録画 499ドル サービス料別 30時間録画 998ドル |
|---|---|
| サービス料 | 月額9.95ドルまたは年間99ドル |
| 小売店発売 | フィリップス生産、今年秋発売 |
| 共用チューナー | AOL TV、ディレクTVと共用予定 |
| 出資者 | アドバンス/ニューハウス(出版社)、AOL、ディズニー、CBS、コムキャスト(CATV)、コックス(CATV)、ディスカバリー(ケーブル・チャンネル)、ディレクTV(衛星放送)、リバティ・メディア(ケーブル・チャンネル)、NBC、フィリップス(メーカー)、ショータイム・ネットワークス(ケーブル・チャンネル)、TVガイド・インタラクティブ(番組ガイド)、バルカン・ベンチャーズ(投資会社)ほか 投資会社3社、個人1人 |
| 本体価格 | 10時間録画 699ドル 14時間録画 899ドル 18時間録画 1499ドル |
|---|---|
| サービス料 | 無料 |
| 小売店発売 | パナソニック・ブランドで今年秋発売 |
| 共用チューナー | ディレクTVと共用予定 |
| 出資者 | ディレクTV(衛星放送)、ディズニー、KPC&B(投資会社)、リバティ・メディア(ケーブル・チャンネル)、松下寿(メーカー)、NBC、ショータイム・ネットワークス(ケーベル・チャンネル)、タイム・ワーナー、ユナイテッド・テレビジョン(TV放送局)、バルカン・ベンチャーズ(投資会社)、マーク・アンドリーセン(個人:AOL役員)、スカイ・デイトン(個人:アースリンク会長) |
| 前提条件 | エコースター・コミュニケーションズの衛星放送チューナーの特定機種(DISHプレイヤー)のみ対象 PVR機能は99年秋予定のサービス・アップグレード以降に利用可能 |
|---|---|
| 本体価格 | 7時間録画 199ドル |
| サービス料 | ウェブTVプラス 月額24.95ドル PVRサービス 月額 9.95ドル (上記の両方利用の場合、合計金額から月額5ドルの割引) 別途エコースターの衛星放送サービスに加入が必要 |
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