インターネット・マーケティングの新潮流。米国で注目されるオプトインeメール
米国のインターネット業界の話題を追っていて最近よく目にするのが、「オプトインeメール」という言葉だ。頼みもしないのに勝手に送りつけてくる「スパム(迷惑メール)」に対し、オプトインeメールは消費者が自分で希望し、有益な情報を入手するために企業から送ってもらうeメールのことをいう。専門のアウトソーサーも現れ、にわかに注目を集めるオプトインeメールについて、その背景や利点、アウトソーサーのサービス、利用企業のケースなどをレポートする。(富士通総研
倉持真理 1999年8月25日)
オプトインeメールとは
自分にとって有益な情報を得るために、消費者が企業にeメール・アドレスを公開し、企業がこれをマーケティングに利用する。そして、消費者がeメールの受信を打ち切りたいときには、すぐに登録を抹消できる手段を合わせて提供する。これがオプトインeメールである。
オプトインeメールと関連して米国で最近よく使われるのが、「パーミション(・ベースド)・マーケティング」という言葉で、これは消費者の許可を得てマーケティングを行うことをいう。オプトインeメールは、その手段の一つだと見なされている。
単なるeメール・マーケティングと呼ばないのは、スパムとの違いを強調するためだ。知らない相手から突然売り込みのメールが送られてくるスパムは、一攫千金をエサにした詐欺まがいの内容が多いことや、大量発信でネットワークのトラフィックに悪影響を及ぼすことで嫌われているが、たとえ、内容がごく一般的なマーケティング目的の文章であっても、どこから自分のeメール・アドレスを知ったのかというプライバシー上の懸念から、受け取って気持ちのいいものではない。
このため、何の関係もない相手に突然売り込みのeメールを送りつけるのはかえって逆効果なことは、すでにマーケティングの常識である。eメールといっても、スパムではないことを強調するため、オプトイン(自分で選んだ)という言葉を付けているのである。
今なぜオプトインeメールか?
このオプトインeメールが今なぜ米国で注目されているのか。背景と理由を説明しよう。
米国のインターネット・マーケティングは、バナー広告やスポンサーシップなど、マスメディアのモデルをそのままオンラインに移すことから始まった。双方向性があり、追跡して効果測定の可能なインターネットの特徴を生かした新しいモデルをつくるより、何人が広告を見るかを基準とする既存のマスメディアのモデルに従うほうが容易で、当初は受け入れやすかったためだ。
しかし、インターネットの追跡能力を利用して、バナー広告の効果を検証してみると、現実にバナー広告のクリックスルー率は一般に1%にも満たない低い効果しかあげていない。マスメディア・モデルでインターネット広告市場はある程度拡大したが、一歩進んだマーケターは、より効果の高い広告とマーケティングの形態をシビアに追求するようになった。
一方、eメール・アドレスを登録したユーザーにニュースや役立つ情報を送るのは、比較的簡単なため、以前から多くのWWWサイトで個別に行われてきた。そして、あまりに身近な存在であったため、これまで見過ごされてきたeメールにマーケティング上のさまざまな利点があることが再認識されるにつれ、オプトインeメールという言葉が浮上し、にわかに脚光を浴びるようになったのである。
オプトインeメールの基本的な利点は次の三つだ。
(1)低コスト:eメール1通あたりの発信コストは、ターゲットを絞る度合いによって、1~25セント程度*1。一方、バナー広告の平均CPM*2は35ドルで、1人のユーザーにバナーを見せるのに35セントかかっていることになる。
(2)高い効果:バナー広告のクリックスルー率は一般に1%未満であるのに対し、eメール広告*3のクリックスルー率は5~15%にのぼる*4。さらに、オプトインeメールの場合、レスポンス率は14~22%にのぼることもある*5。
(3)顧客との関係構築:オプトインeメールは、顧客獲得よりも顧客との関係を維持するのに役立つ。ワン・トゥ・ワン・マーケティングが広く認識されてきた昨今、顧客維持に力を入れることの有効性はいうまでもない。
このほかにもオプトインeメールには、レスポンスの速さ、精緻なターゲット設定とパーソナライズ、効果追跡など数々の利点がある。
活躍するeメール・アウトソーサー
先ほど述べたとおり、コンテンツ・サイトやオンラインショップ、企業ホームページが、ユーザーにeメール・アドレスを登録してもらい、ニュースやバーゲン情報、新製品情報などを配信することは、以前から行われていた。ユーザー・リストが小規模な当初は、こうした活動は社内で処理できていたが、登録者が増えて管理や配信作業、新技術導入の負担が大きくなるにつれ、外部の専門業者に頼るケースが増えてきた。今では、eメール・アウトソーサーといわれる専門業者がいくつも出現している。
eメール・アウトソーサーは、おおまかにクライアント・リスト型とリスト構築型の2つに分類できる。クライアント企業の保有するリストでeメール・マーケティングを実行する「クライアント・リスト型」の場合、業務内容はリストの管理やHTMLメールのメッセージ作成、配信、効果分析などで、効果を最大化するためのコンサルティング・サービスを提供する場合もある。また、自社リストを保有しないクライアントのために独自リストを保有し、これをレンタルして企業のマーケティング・メッセージを配信するのが「リスト構築型」で、このタイプはダイレクトメールの世界でも行われているように、外部からリストの買い入れを行ったりする。
2つのタイプを含めたeメール・アウトソーサーの代表企業の概要は以下のとおり。
メッセージメディア(http://www.messagemedia.com)
メッセージメディアは、クライアントのリストをベースとした業務を請け負うアウトソーサーだ。約60社のクライアントのなかには、ヤフー、ジオシティーズ、E*トレード、インテュイットなどの大手企業が多い。eメール配信だけでなく、問い合わせ対応など、eメールでの顧客サポート全般を請け負う体制を整えている。
同社は株式の49%をソフトバンクと系列会社が保有する上場企業で、昨年12月にファースト・バーチャル・ホールディングスから現社名に変更。同時にそれまでのオンライン決済サービスから、eメール・アウトソースへと主力事業をシフトした。今年1~6月までの半年間の営業収入はこれによりかなりの伸びを示し、前年同期の50万ドルから206万ドルへと4倍に増えた。ただし、規模拡大のための買収をさかんに行っているため、収支はこの半年間で1316万ドルもの赤字となっている。
デジタル・インパクト(http://www.digital-impact.com)
デジタル・インパクトも、クライアント・リストをベースとした業務を請け負うタイプ。98年3月にサービスを開始し、クライアント数は現在約50社、1カ月あたり2800万通ものeメールを配信している。クライアントには、オンセール、バーチャル・ビンヤーズ、eトイズ、プレビュー・トラベルなど、主に有名オンラインショップや小売業、カタログ販売業者だ。
最近同社は、クライアントが互いのリスト加入者を紹介しあう「eメール・イクスチェンジ」のサービスを新たに開始。タワーレコード、オマハ・ステーキ、ガーデン・コムなど同社の既存クライアント5社が早速参加を表明した。これは、各クライアントが自社リストの加入者へのeメールを通じ、他の企業からの情報を希望するかどうかをたずね、リンクしたWWWページで、希望する企業に印を付けてもらうというものだ。参加クライアントはこれにより、自社リストの加入者を増やすことができる。同社はこの秋までに、eメール・イクスチェンジにクライアント25社の参加を見込んでいる。
ネットクリエーションズ(http://www.netcreations.com)
ネットクリエーションズはリスト構築型のサービスだ。同社はISPやコンテンツ・サイトなど175のパートナー・サイトを通じ、関心のある分野のコマーシャル・メッセージをeメールで受け取ることに同意する消費者を募集している。パートナー・サイトは共通フォームを使って、消費者に3000もの細かいトピックスのなかから関心のあるものを選ばせ、登録させる。こうして蓄積したeメール・アドレスは現在300万件にのぼる。
同社はこのリストを企業にレンタルし、ターゲットを絞ったeメール・キャンペーンを実施。クライアントは専用サイト(http://www.postmasterdirect.com) を通じ、リスト・レンタルの手続きが行うことが可能だ。ほかにもクライアント・リストによるeメール配信など、オプトインeメールにかかわるさまざまな業務を手掛けており、98年度(12月末締め)の収入は345万ドル、利益は61万ドルであった。
イエスメール(http://www.yesmail.com)
イエスメールもリスト構築型のサービスであり、自社のWWWサイトで、消費者に1000トピックスのなかから関心のあるものを選ばせ、メンバーとして登録している。保有するeメール・アドレスは500万件にのぼるが、これは自社サイトでの募集のほかに、eメール・リストを保有する企業をパートナーとし、それらの企業のリスト加入者をイエスメール・メンバーに転換した分が含まれている。パートナー企業は、イエスメールに自社リストを提供し、そこから得られる利益をシェアする。パートナー数は90社、リストをレンタルしたクライアントは、これまでに約3000社という。98年度(12月末締め)の収入は458万ドルで、収支は171万ドルの赤字であった。
24/7メディア(http://www.247media.com)
バナー広告ネットワーク大手の24/7メディアは、オプトインeメールの有望性に着目し、今年3月、専門会社を買収してこの分野に進出した。そして、この8月に再びリストを保有するコンシューマネットを買収したことで、eメール・アドレスを合計1100万件にまで増やし、米国最大のオプトインeメール・アドレス保有業者となった。
新たに買収したコンシューマネットは、125のメンバー・サイトを通じてeメール・アドレスを収集している。24/7メディアは、バナー広告ネットワーク事業の既存クライアントに、オプトインeメールのリスト・レンタルを売り込んでいく計画で、今年はこの分野で500万ドルの収入を見込んでいる。
オプトインeメールのケース・スタディ
最後に、デジタル・インパクトとネットクリエーションズのクライアントによるオプトインeメールのケース・スタディを3件紹介する。
バーチャル・ビンヤーズ(http://www.virtualvinyards.com)
ワインとグルメ食品のオンラインショップの老舗であるバーチャル・ビンヤーズは、デジタル・インパクトと契約し、自社の顧客7万5千人に毎週ニューズレターを送っている。内容はその週の特別商品の紹介と、サイトへのリンク、ワインの一口情報などだ。
デジタル・インパクトの技術では、受け手がHTMLメールの受信が可能かどうか、またeメールが開封されたかどうかを識別できるので、eメールはこの識別結果に従って、HTML形式か一般のテキスト形式で送信される。個々のeメールには識別タグが付いており、eメールで誰がどんな商品を購入したかを追跡し、その顧客の過去の購入履歴などと合わせた分析が可能となる。デジタル・インパクトは日別、週別レポートのほか、3カ月ごとに詳細な分析レポートを発行している。
バーチャル・ビンヤーズでは、高いワインを購入する人には高級ワイン、安いワインを購入する人にはお手頃なワインと、顧客の過去の購入履歴に応じて、紹介する商品を変えている。ときには、上得意客だけにサイトに掲載しない特別なワインをeメールで紹介することもある。ワインの数本セットをeメールでテストしてみたところ、12%以上のレスポンスがあり、最も人気の高かった赤ワインのセットでは、20%ものレスポンスを記録した。
昨年秋以降、バーチャル・ビンヤーズの顧客eメール・リストは倍に増え、eメールを通じて発生した収入は、全体の1割以上を占めるようになった。これはeメールに記載した商品だけでなく、eメールのリンクを通じて来店し、ほかの商品を購入したケースも含む数値だ。
オンセール(http://www.onsale.com)
コンピュータ類のオークションで有名なオンセールは、顧客向けに「スティールズ&ディールズ」と名付けたeメールのニューズレターを送っている。昨年11月までこのニューズレターは、全員に同じ文面のテキストのeメールであった。
オンセールはこのニューズレターの効果を高めるため、デジタル・インパクトと契約。eメールの見た目をグラフィックで華やかにし、顧客のプロフィールや購買履歴に応じて内容も変えることにした。
それから4カ月をかけて、両社はどんなeメールが最も効果的かを徹底的にテストした。たとえば、文面や内容、紹介する商品の種類や点数など、何種類ものテスト版を使って、細かく検証したのだ。また、どんなオファーが不活性な顧客の呼び戻しに最も効果があるのかも、注意深く検証した。こうして完成した新しいHTML形式のニューズレターのレスポンス率は、以前より40%も向上した。
最近オンセールは、コンピュータ機器を仕入れ値を公開し、別に手数料と配達料を加えて販売する新しい販売方式「アットコスト」のキャンペーンのため、陸送の配達料を無料にするオファーをニューズレターで通知。この2週間のeメール・キャンペーンでは、最初の週に22%もの高いレスポンス率を達成できた。
iチャット(http://www.ichat.com)*6
iチャットは、WWWサイトやイントラネット上でチャットルームを開設したり、インスタント・メッセージのやりとりを可能にするソフトウェアを開発、販売している。同社はこのソフトを売り込むために、ネットクリエーションズのオプトインeメール・リストを利用した。
ネットクリエーションズの「ポストマスター・ダイレクト」には、Webマスターやサイト開発者が登録したリストがあり、iチャットはこのなかから3万人にマーケティング・メッセージを発信することにした。当日、午前10時に発信を開始し、午後3時になると、すでに同社のWWWサイトには、何百人もがアクセスが殺到。見込み客たちは、デモ用の無料ソフトをダウンロードするために電話連絡先を登録していたので、同社は電話でコンタクトを試みた。結果として、この日のうちに5万ドルもの商談がまとまった。
iチャットは1カ月間、このeメール・キャンペーンを実施し、売上げをそれまでの4倍に増やした。eメールへのレスポンス率は当初7%、継続実施分は4%であった。また、同社は実施に2カ月もかかる印刷物郵送のDMキャンペーンに対し、eメールのキャンペーンは企画から実施までたった2日間で済んだことについても、高く評価している。
*1 出典:ジュピター・コミュニケーションズ(http://www.jup.com)
*2 CPM = Cost Per Millenium 視聴者千人あたりのコスト
*3 ニュース・サイトなどのコンテンツ・プロバイダーがコンテンツと一緒にHTMLメールに挿入する広告。
*4 出典:ジュピター・コミュニケーションズ
*5 出典:フォレスター・リサーチ(http://www.forrester.com)
*6 iチャットは現在、KOZ.COM社が所有している。
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