「AOL TV」構想に見るAOLの将来戦略。ケーブル迂回路を模索
世界に1700万人の加入者を持つアメリカ・オンラインが*1、「AOL TV」と名付けた次世代サービス構想の一端を明らかにした。衛星からのデータをアンテナとチューナーで受け、テレビを端末として利用する構想からは、ブロードバンド対応を模索するAOLの事情がうかがえる。(富士通総研 倉持真理 1999年6月2日)
「AOL TV」構想
AOL TVは、AOLの主要機能をテレビに移植し、テレビならではの新機能を加えた新サービスになるという。衛星から送られる広帯域データをアンテナとチューナーで受け、テレビ画面を見ながらリモコン操作し、上りのデータをチューナーに接続した電話回線を通じて送る構造だ。チューナーは56Kbpsのモデム内蔵で、DSL(Digital
Subscriber Line) にも対応する。 AOLはこの新サービス実現のため、ディレクTVをはじめとする4社との提携を発表した。提携企業それぞれの役割は以下のとおりだ。
【ディレクTV】 衛星デジタル放送とAOL TVの双方向サービスを組み合わせたパッケージを共同販売。
【ヒューズ・ネットワーク・システムズ】 AOL TV/ディレクTV共用チューナーの開発、生産、販売。
【フィリップス・エレクトロニクス】 AOL TV専用チューナーの生産、販売。
【ネットワーク・コンピュータ(NCI)】NCI*2のインターネットTV技術をAOL TVのソフトウェア・プラットフォームとして採用。
具体的なサービス内容については、まだ明らかにされていないが、電子メール、WWW閲覧、インスタント・メッセージ、オリジナル・コンテンツといった既存のPCベースのAOLのサービスに、テレビ番組と連動したコンテンツや、番組ガイド、ビデオ・オン・デマンドなどの双方向テレビ機能が加わると予想される。サービス開始は来年中と見られている。
ケーブル迂回路を探すAOL
AOLにとって、目下最大の課題がブロードバンド時代の将来戦略にあることは、誰の目にも明らかだ。同社は電話回線経由の既存のインターネットの世界では文句なしの勝者だが、この先、高速インターネット接続へのシフトが本格化すれば、せっかくの優位もたちまち危うくなる。高速インターネット接続のネットワークとして、最有力視されるのはCATV会社のケーブル回線だが、そのことがAOLの将来に暗雲を投げかけているのだ。
昨今のAT&Tによる主要CATV会社買収の動きに伴い、CATV会社にはAOLや他の一般ISPにケーブル回線を利用させる気がないことが明白になった。それよりCATV会社は、自身がプロバイダーとしてAOLに取ってかわる野望を抱いている。TCIとメディアワンの買収により、高速インターネット接続の「@ホーム・ネットワーク」と「ロードランナー」という2大ブランドの株主となるAT&Tが、その急先鋒である*3。
AOLの頼みの綱は、FCC(連邦通信委員会)が競争促進を理由に、AT&TをはじめとするCATV会社に対し、AOLや一般ISPへの回線開放を義務付ける規制を発動してくれることだが、それをただ待つだけでは、対応が後手にまわる。AOLとしては、とりあえずケーブル以外の高速回線を確保し、将来に備えなければならない。
このため、AOLは地域電話会社との提携に乗り出し、すでにベル・アトランティックとSBCコミュニケーションズとの間で、ADSL経由のAOLサービス提供契約を取り付けた。そして、さらなるリスクヘッジのために打ち出したのが、今回の衛星構想だと思われる。
しかし、衛星経由のサービスがどこまでケーブル回線に対抗できるかについては、始まってみるまでわからない。また、AOL TVは、これまでインターネットを利用したことのない新規ユーザーや、リビングルームで双方向テレビを楽しみたい向きにはアピールしても、PCでのインターネット利用に慣れた既存AOLユーザーの高速サービス移行の受け皿にはなりえない。さらに、CATV会社には高速インターネット接続とケーブル経由の双方向テレビ、電話サービスなどをまとめたパッケージで売り込める強みもある。
AOLがAOL TVに自社の将来のどれほどを託しているのか、今の状況からは読み取れないが、各種報道によると、AOLがヒューズ・ネットワーク・システムズ(HSN)に10億ドルの出資を検討しているとの情報もある。とりあえず、この10億ドル出資が実現するかどうかが、AOLの新構想にかける意気込みのバロメータになりそうだ。
*1 99年4月14日に1700万人に到達。
*2 オラクルとネットスケープのジョイント・ベンチャーを前身とする会社。5月19日より、リバレイト・テクノロジーズ(http://www.liberate.com) に社名変更。
*3 AT&Tのメディアワン買収はまだ計画段階。「ロードランナー」の株式はメディアワンが所有。本紙99年5月19日号(Vol.5, No.101) 5頁、本紙99年3月10日号(Vol.5, No.97)7頁参照。
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