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AT&T、メディアワン買収でCATV市場掌握へ。その経緯と影響

米国で2番目に大きいCATV会社TCIを傘下におさめたばかりのAT&Tが、今度は3番目に大きいメディアワンを買収し、さらにマイクロソフトからデジタル双方向TV用セット・トップ・ボックスへのウィンドウズCE採用などを条件に、50億ドルの出資を受けることになった。AT&Tは、米国最大の長距離電話会社から米国最大のCATV会社へ転身、来るブロードバンド時代に家庭への通信、情報、娯楽供給を一手に握る太いパイプになろうとしている。さまざまな企業の思惑が絡んだ一連の出来事の経緯と意味、今後の影響などをまとめてみる。(富士通総研 倉持 真理 1999年5月19日)

魅力的なメディアワン

4月22日に公にされたAT&Tのメディアワン買収の意向は、世間を驚かせるものだった。すでに3月下旬、米国4位のCATV会社コムキャストがメディアワンを買収することで合意に達していたからだ。AT&Tは、コムキャストの買収金額より17%高い時価総額540億ドルの取引を提示。横から割り込み、先方の合意もなしに一方的に宣言する敵対的買収も同然のはじまりかたであった。

ターゲットとなったメディアワンは、以前は地域電話会社USウェストの傘下にあったCATV会社で、コロラド州に本拠を置き、シカゴ、ボストン、ロサンジェルス、マイアミなど主要大都市圏を含む17州の地域に500万の加入世帯を持つ大手だ。ケーブル網は、大部分が双方向のデータ通信と音声通話サービスに対応できる状態にアップグレード済みで、「ロードランナー」ブランドの高速インターネット接続サービスも提供しはじめている。

また、リッチな資産と娯楽コンテンツの優先利用権を意味するタイム・ワーナー・エンターテイメント社の株式25%を所有していることなどから、メディアワンは魅力的な買収ターゲットであった。

新生AT&Tの動機

AT&Tの動機は、基本的にTCIの買収時と同様、ケーブル網を通じた市内通話サービスへの参入と、ブロードバンドのインターネット接続、将来のデジタル双方向TVなどを含む一般世帯の通信関連需要のフルサービス提供にある。

規制緩和を背景に、地域電話会社が長距離通話に乗り出せば、AT&Tがこれまで柱としてきた事業が深刻な打撃を受けることは避けられない。この危機状況が現実のものとなる前に、将来的に大きな発展の見込める分野にシフトするのがAT&Tの課題であった。

それにしても、2回たてつづけの、しかも他社を押しのけての強引な買収には、業界関係者も多くが意表をつかれた。しかし、この一件で、少し前まで堅実、悪くいえば動きの鈍いお役所企業であったAT&Tの面影は完全一掃され、代わって97年11月から現職に就いた同社CEO、C.マイケル・アームストロングのリスクを恐れぬ大胆な経営スタイルと、新生AT&Tの印象が強く植えつけられることになった。

錯綜した買収経緯

メディアワンとコムキャストの当初の取り決めでは、3月末の仮決定から45日後までに、コムキャストより良い条件を提示する相手がなければ、買収を本決定とすることになっていた。それまでに一番良い条件を提示した企業が、メディアワンを獲得できる。

メディアワンにとってAT&Tの提示した条件は、決して悪いものではなかった。コムキャストとの3月末の仮合意をキャンセルした場合、メディアワンは15億ドルの違約金を支払わねばならないが、少しでも良い取引を求めるのは当然だ。4月26日には、メディアワンはAT&Tの買収に応じる方向で交渉を始めたことを表明した。

その後の展開はドタバタだ。まずは同日、コムキャストがAT&Tに対抗し、マイクロソフトかAOLを仲間に引き入れ、メディアワンを獲得すべく奔走中との報道が流れた。マイクロソフトのCATVへの関心は、コムキャストやロードランナーへの出資で明白だし、AOLの最大の懸念がブロードバンド対応とAT&Tの市場独占にあるのも周知なことから、これはさもありそうな話であった。実際、30日にはメディアワンから、マイクロソフトとAOLがそれぞれコムキャストと共同の買収交渉に正式参加したことを認める発表もあった。

そして、5月3日にはさらに新たな企業が登場。長距離通話でAT&Tに対抗するMCIワールドコムまでが、メディアワン獲得に乗り出すことを検討しているというのだ。メディアワンにとっては参加企業が増えるほど、買収条件が上がり都合がよい。しかし一方で、AOLは交渉から降りたという未確認情報もあった。

最後まで何が出てくるか予想のつかないこの状況のなかで、最終的に勝者となったのが、AT&Tであった。

丸くおさまった買収条件

AT&Tはコムキャストをうまく説得し5月4日時点でメディアワンから手を引かせることに成功した。コムキャストへの違約金15億ドルは、メディアワンに変わってAT&Tが負担する。また、コムキャストの意図はCATV事業の拡大にあったため、AT&Tが自社のCATV加入世帯を今後3年間でトータル200万世帯分、コムキャストに売却することを交換条件とした。ついでにAT&Tは、コムキャストにケーブルを通じたAT&Tブランドの通話サービスを提供するライセンス契約までもまとめている。

こうしてAT&Tは、ほぼ希望どおりにメディアワンを獲得し、タイム・ワーナー・ケーブルを抜いて、国内最大のCATV会社にのしあがる見込みとなった。また、メディアワンがタイム・ワーナー・ケーブルとのジョイント・ベンチャーで展開する「ロードランナー」は、AT&T傘下の@ホーム・ネットワークと並ぶ高速インターネット接続の2大ブランドだ。AT&Tはこの買収で、両ブランドを合わせて70万以上の加入世帯を保有し、同市場でも最大シェアとなる。以前から両ブランドの合併説があったが、その可能性もますます高まった。

巨大副産物(?)、AT&T/マイクロソフト連合

AT&Tのメディアワン獲得決定は5月4日であったが、その2日後には、さらに巨大な副産物が明らかになり、世間をまたもや驚かせた。マイクロソフトがAT&Tに50億ドル出資するというのだ。この取引が正確にはいつの時点で持ち出されたのかは不明だが、表面的にはこの一件のどさくさにまぎれて出てきたとしか言いようがない。

もとはといえば、マイクロソフトはAT&Tのメディアワン買収を阻止するために、コムキャストを支援する立場にいた。しかし、それしきの矛盾を気にするマイクロソフトではない。要は最終目的を達すればよいのだ。最終目的とはすなわち、将来有望と見込んだCATV業界の、なかでも最も有望な企業と手を組み、業界に対する影響力を強めることである。

インターネットを含む家庭向け次世代ブロードバンド・サービスの展開加速を目的に結ばれたAT&Tとマイクロソフトの提携内容は、両社がすでに交わしているデジタル双方向TV用セット・トップ・ボックス500万台へのウィンドウズCE搭載のライセンス契約に、さらに250万−500万台分を追加するというものだ。また、マイクロソフトの双方向TV用サーバー技術も採用し、これらをベースに来年の6月までに2カ所の都市で両社共同の市場テストを実施する。

AT&Tはここでささやかな抵抗を示し、このライセンス契約が非独占であること、そして、マイクロソフトの提供技術はハードやアプリケーションを問わないオープン・プラットフォームとすることを明記している。これまでCATV業界は、マイクロソフトがOSを武器に業界への干渉を強めることに、常に警戒感を抱いてきた。新たに業界の仲間入りしたAT&Tもそれを尊重し、オープン性を維持する姿勢を見せたといえる。

とはいえ、リスクを冒して参入した市場からリターンを得るには、市内通話や高速インターネット接続、デジタル双方向TVといった新事業を少しでも早い時期に実現させねばならない。マイクロソフトからの資金は、そのためにぜひとも必要だった。転換社債とワラントによる50億ドルの出資は、株式にするとAT&Tの3.4%相当になる。これもAT&Tの冒す別種のリスクかもしれない。

オープン・ケーブル問題再燃

米国最大の長距離電話会社から、全世帯の6割を掌握する米国最大のCATV会社になろうとするAT&Tの目論見は、周囲に多大な影響を及ぼすが、なかでも最大の影響事項は、この買収が米政府の認可を得る過程で決まるといってよい。

昨年6月に発表され、今年3月に実現したTCIの買収に際しては、FCC(連邦通信委員会)がAT&Tに対し、AOLなどのISPにケーブル回線開放を義務付けるかどうかが焦点となった。これは、高速接続サービスへのシフトに伴い、電話回線経由でサービスを提供してきたISPが、ケーブル回線から締め出されて、競争力を失うことがないように配慮したものだ。オープン・ケーブル(またはオープン・アクセス)と呼ばれるこの条件は、このときには見送られた*1

@ホームとロードランナーの高速インターネット接続サービスで、AOLに取って代わる存在となる野望を持つAT&Tにとってオープン・ケーブルは、多額の投資をして手に入れたネットワークを競争相手にむざむざ提供する不本意な状況を意味する。しかし、国内最大シェアを持つCATV会社兼、高速インターネット接続のプロバイダーとなるからには、独占禁止法観点からも、この問題が再び前回より重要な意味を持って議論されることになるのは間違いない。

AT&Tの台頭に最も打撃を受けるAOLは、FCCや議会にオープン・ケーブル義務化を求めるロビー活動に力を入れる一方、PC以外の端末でケーブル以外のアクセス経路を持つ新たなサービス形態を模索している。AT&Tのメディアワン買収認可のゆくえは、AT&T対AOLの次世代インターネット戦争につながっている。

*1 本紙99年3月10日号(Vol.5, No.97)7頁参照


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