富士通総研

  1. ホーム >
  2. 調査・研究成果 >
  3. サイバービジネスの法則集 >
  4. コラム >
  5. 1999年 >
  6. 続・買われるポータル、買うポータル

続・買われるポータル、買うポータル
(3)ライコス合併。ポータル&EC企業体を目指す

2月9日、USAネットワークス社がライコスの経営権を取得し、自社の展開するテレビショッピングや興行チケット販売事業などを統合した新会社を設立する計画を発表した。USAネットワークスの思惑と新会社USA/ライコス・インタラクティブ・ネットワークスの概要、そして相次ぐ巨大資本の流入で変貌を遂げるポータル市場の新たな競争の構図を前号に続いて解説する。(富士通総研 倉持 真理)

意外な伏兵、USAi

昨年のディズニーのインフォシークへの出資と、1月中旬に発表された@ホーム・ネットワークによるエキサイト買収という通信・メディア系巨大資本の主要ポータル介入の流れを受けて、次なる買収ターゲットがライコスであることはすでに自明の理であった*1。ただし、どの企業がライコスを獲得するかについては、報道陣やアナリストも最後まで予想できなかった。直前まで最有力候補と見なされていたNBCのほか、ベルテルスマン、タイム・ワーナー、マイクロソフト、ヤフーなども交渉のテーブルについていたらしい。そんな状況から最終的にUSAネットワークス(略称USAi)の名前が浮上するとは、誰にとっても意外だった。しかし、少しでも業界の事情を知る者ならば、USAiのライコス買収自体を理屈に合わないものと見ることはない。

USAiは、CATVのテレビショッピング専門チャンネル「ホームショッピング・ネットワーク(HSN)」を含む3つのCATVチャンネルと、テレビ放送局、番組制作スタジオを所有するメディア会社だ。ほかに全米2900箇所に販売拠点を持つチケットマスターを傘下に持ち、そのオンライン部門である「チケットマスター・オンライン・シティサーチ(略称TMCS)」や、ファーストオークションなど、WWW事業も展開している。

そんなUSAiの性格を最もよく表すのは「バリー・ディラーの会社」という表現だ。同社のCEOを務めるバリー・ディラーは、メディア界で知らぬ者のない敏腕経営者である。
フォックス・ブロードキャスティングとQVCを鮮やかな手腕で育て上げた後、自分の会社を興してQVCのライバルだったHSNを買収。ふたたびテレビとテレビショッピング経営に取り組んでいるディラーは、少し前からインターネットとECに強い関心を示していた。97年にチケットマスターを買収したのも、チケットのオンライン販売の持つ可能性に注目したためであり、買収を通じて本格的なインターネット進出を目指す同氏がライコス買収候補となることは、当然予想されてしかるべきだった。

だが、メディアの側面からのポータル買収ばかりに目を向けていた報道陣やアナリストは(筆者を含めて)、EC事業のためにポータルを買収するというUSAiの逆説的アプローチに、意表をつかれてしまったのである。

合併計画の概要:ライコスが大幅パワーアップ

計画では、USAiはライコスとHSN、チケットマスター、およびWWW事業を統合し、新会社USA/ライコス・インタラクティブ・ネットワークス(略称USA/ライコス)を設立する。USAi、TMCS、ライコスという3社の株式上場企業がかかわるこの取引は、発表当日の株価で合計220億ドル相当の価値といわれている。新会社の株式の61.5%はUSAiが所有し、30%をライコス株主、8.5%をUSAi以外のTMCS株主が所有することになる。

新会社の経営陣は、会長にバリー・ディラー、CEOに現ライコスCEOのロバート・デイビスが就任する。取引上はUSAiがライコスを買収し、経営権を握ることになるが、実質的には現ライコスがHSNやチケットマスターを取り込んで、大幅パワーアップするという方に限りなく近い状態だ。ライコスがUSAiの申し出を受け入れた理由の一部は、この辺にあるのかもしれない。合併手続きは、ライコス株主の承認を得たうえで、今年6月までに完了する予定である。

新会社USA/ライコスは、98年の実績ベースで年商15億ドル(うち10億ドルがHSN)規模の企業となり、99年の年商は17億ドルと予想される。米国のテレビ視聴世帯のほぼ9割をカバーする7千万世帯に到達し、1日100万件の電話注文処理能力と、20万件の商品出荷能力を備えるほか、米国のインターネット・ユーザーの約半数にあたる3千万人にも到達。オンラインでの注文処理能力も、リアルタイム・オークションを含め、3カ月で100万件あまりと発表されている。

ポータル&EC企業体構想

最前、ECのためのポータル買収は逆説的アプローチだと述べたが、これは従来ポータル=メディアであり、独立した中立的存在という常識があったためである。WWWのポータルの主な収入源は、これまで広告であった。

オンラインショップにユーザーを運び、売上げのコミッションを得る、いわゆるEC提携によるポータルの収入は、97年後半から伸びはじめたが、それでも現在はまだ全体の3割程度と推測される。しかし、この割合はEC市場の急速な拡大に伴い上昇中で、近い将来には広告と半々になり、いずれは広告の割合を越える可能性もある。

このため、ポータルが有望な契約相手としてEC業者に注意を向けることには何ら不思議はないのだが、ポータル自らがEC事業を手掛けるというのは、ポータル=メディアの常識を越えた型破りな発想なのである。

USA/ライコスが発足すれば、これまでなかったポータル=EC業者の図式が成立する。この新会社の収入源はさしあたり、テレビショッピングと店頭でのチケット販売のほか、ポータルとしての広告および外部のEC業者からのEC提携収入、そして自社のオンライン・チケット販売やオークションからあがる直接のEC事業収入となる。

現ライコス傘下の一群のWWWサイトを通じて集めたユーザーは、そのままそっくり自社のEC事業の潜在顧客となり、新会社のEC事業を発展に導くことになる。いずれ遠からずテレビとインターネットが融合する時代が来れば、ポータルとテレビショッピングの結びつきが、さらに巨大なビジネスチャンスを生み出すことも、計算済みのはずである。

ポータル市場の新たな構図

インフォシーク、エキサイト、ライコスを通じ、ポータル市場はインターネットに自らの将来戦略を見るディズニー、@ホーム(=AT&T)、USAiという大手資本を主要プレイヤーとして迎え入れることになった。トップ・クラスのポータルへの外部勢力の流入はこれで一段落し、今後は、前述3社にAOL、マイクロソフト、ヤフーを加えた6社がさらなる競争にしのぎを削ると予想される。

しかし、その競争の鍵となる要素は、半年ほど前の外部勢力の流入以前とは、まったく違うものに変わった。外部勢力の流入は、すでにAOL、マイクロソフト、ヤフーの3強に絞られていたトップ争いの状況に、別の新しい競争要素を持ち込み、勝負のゆくえを将来に引き伸ばす役割を果たしたといえる。

最後に、ポータル競争の新たな争点を以下にまとめておく。

(1)巨大資本vs.独立企業
ディズニー、@ホーム(AT&T)、USAiをバックとしたライバルに対し、独立経営を続けるヤフーが資金面などでどこまで対抗できるか。

(2)マスメディア・パワー
ディズニー/ABCとの関係により、マスメディアを通じた強力なプロモーションを実施できるインフォシーク(ポータルのブランド名は「ゴー・ネットワーク」)が、こうした利点を持たないほかのポータルに対し、どれほど優位に立てるのか。

(3)ブロードバンド対応
一般電話回線によるインターネット接続が、ケーブルまたはADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)経由のブロードバンド(広帯域)・サービスにシフトしたとき、状況はどう変化するか。ケーブル経由の高速接続サービスを提供する@ホームと、そのポータルとなるエキサイトが、現在のAOL並みのパワーを持つ可能性が出てくる。

(4)メディア・ポータルvs.ECポータル
自らEC事業を手掛けるUSA/ライコスと、従来どおりのメディア・ビジネスを続けるほかのポータルのどちらが将来的に優位に立つのか。

(5)買収による拡大
AOLのネットスケープ買収とヤフーのジオシティーズ買収に見るように、人気WWWサイトを買収し、全体としてユーザー到達率を拡大する戦略は今後も続くと予想される。

*1 本紙99年2月10日号(Vol.5, No.95)5頁参照。

USAネットワークスとライコスの展開事業

USAネットワークス社

  • ホームショッピング・ネットワーク
    (CATVのテレビショッピング専門チャンネル)
  • USAネットワーク(CATVの娯楽番組チャンネル)
  • ザ・Sci-Fiチャンネル(CATVのSF番組専門チャンネル)
  • USAスタジオス(番組制作)
  • USAブロードキャスティング(TV放送局)
  • チケットマスター(興行チケット販売)
  • USAネットワークス・インタラクティブ(WWW事業)
    チケットマスター・オンライン(http://www.ticketmaster.com)
    シティサーチ(http://www.citysearch.com)
    ファーストオークション(http://www.firstauction.com)

(注)チケットマスター・オンラインとシティサーチは、合わせて一つの株式上場企業(チケットマスター・オンライン・シティサーチ)となっている。このほかUSAiは「インターネット・ショッピング・ネットワーク(ISN)」の名でオンラインでのコンピュータ販売も手がけていたが、現在、ISNはWWWサイトだけが残っている状態。

ライコス

  • ライコス(http://www.lycos.com)
  • トライポッド(http://www.tripod.com)
  • フーフェア(http://www.whowhere.com)
  • エンジェルファイア(http://www.angelfire.com)
  • メールシティ(http://www.mailcity.com)
  • ホットボット(http://www.hotbot.com)
  • ホットワイアード(http://www.hotwired.com)
  • ワイヤード・ニュース(http://www.wired.com)
  • ウェブモンキー(http://www.webmonkey.com)
  • サック・コム(http://www.suck.com)

新会社USA/ライコスの展開事業

USA/ライコス・インタラクティブ・ネットワーク

  • ホームショッピング・ネットワーク
  • チケットマスター
  • チケットマスター・オンライン・シティサーチ
  • ファースト・オークション
  • ライコス傘下のWWWサイト

[関連コラム]
チケットマスター・オンライン、パノラマ&3D画像で座席からの眺めを確認できる新サービスを導入


チケットマスター・オンラインは2月2日から、「マイ・チケットマスター*1」と名付けた最先端技術による新サービスを開始した。

インテルなど何社もの技術ベンダーの協力を得て開発された新サービスの目玉は、なんといっても米国75の主要イベント会場を、360度パノラマと3Dバーチャル・リアリティで再現した画像が見られることだ。ユーザーはチケットを予約する前に、座席からの眺めをオンラインで確認し、気に入った場所を選んで指定できる。イベント会場全体をバーチャル・ツアーで見ることも可能だ。イベントの開始時間案内、会場への道順、駐車場案内なども揃っている。

また、WWWサイトから専用ソフトをダウンロードすると、デスクトップに自分の好きなジャンルのイベント情報が継続的に送信されてくる「チケットマスター・イベントティッカー」もスタート。これを使えば、見逃したくないイベントのチケット発売をいち早くチェックできる。

近いうちに、コラボレイティブ・フィルタリング*2の技術を導入し、ユーザーの好みに合ったイベント情報を推薦する機能も加わることになっている。

チケットマスター・オンラインは、常時約3万件のイベント情報を掲載し、月商100万ドルを軽く越えるオンライン・チケット販売の最大手だ。今回の新サービス導入により、この分野での同社のリードはさらに大きく広がった。1998年2月2日(BW)

*1 http://my.ticketmaster.com

*2 大勢のユーザーの登録した嗜好をデータベース化し、似た嗜好を持つ者同士のデータを照合して、リコメンデーションをつくり出す技術。


ネットビジネスの最新動向は、「サイバービジネスの法則集お知らせメール(登録無料)」でお届けしています。受託調査、コンサルティング、講演も行っていますのでお問い合わせください。