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買われるポータル、買うポータル
ポータル淘汰と新たな競争要素「ブロードバンド」の浮上

1月19日、エキサイトがTCI傘下のケーブルモデム・サービス会社@ホーム・ネットワークに買収されることが明らかになった。その9日後には、ヤフーが超人気コミュニティ・サイトのジオシティーズ買収を発表。ディズニーのインフォシーク出資に端を発し、AOLのネットスケープ買収、そして今回の2件と続く淘汰の流れは、ポータル競争の構図を急激なスピードで書き換えていくばかりか、”ブロードバンド”という新たな競争要素までも付け加えようとしている。これらの買収の持つ意味と、書き換えられた新たな構図を解説する。(富士通総研 倉持 真理 1999年2月10日)

(1)ブロードバンド来襲。@ホームがエキサイトを買収

@ホーム・ネットワーク(http://www.home.net) はエキサイトを株式の交換で買収する。取引価値は、発表当日の株価を基準にしておよそ67億ドルである。

この買収により、すぐに表面的な変化が現れることはなく、エキサイトは今までどおり、WWW上のポータルとして存在し続ける。運営体制の変更もとくに予定されておらず、エキサイトの現経営陣は続投。両社の機能に重複部分はほとんどないため、スタッフもそのまま@ホームに迎え入れられる。

買収する側の@ホームは、33万1000(98年末時点)の加入世帯を持つケーブルISPだ。CATVのケーブル回線とPCをケーブルモデムでつなぎ、電話回線の最高100倍もの高スピードでインターネットに接続するサービスを提供している。

@ホームの筆頭株主は米国で2番目に大きいCATV会社のTCIであり、@ホームはTCI加入世帯および、米国とカナダの18のCATV会社の加入世帯を対象に、フランチャイズ方式で@ホーム・ブランドの高速インターネット接続サービスを展開している。フランチャイズのなかにはコムキャストやケーブルビジョンといった大手も含まれる。

しかし、現時点でこれらCATV会社の加入世帯すべてにサービスを提供できるわけではない。ネットワークが双方向通信の可能な光ファイバー/同軸ケーブルにアップグレードされた地域から順次開始となり、昨年末時点でサービス可能な世帯数は合わせて1320万。そのうち2.5%にあたる33万1000世帯が@ホームのサービスを利用している。

加入世帯数はまだ少ないが、電話回線経由のインターネットがここまで普及すれば、いずれ次の段階に高速サービスへのシフトが起きることはまず間違いない。そして、その本格的なシフトが始まる時期こそ、今年か来年ではないかと期待されている。

目指すはブロードバンド・ポータル
ブレイク待ちの状況にある@ホームが、エキサイト買収を通じて抱いた計画とは、エキサイトを来たる高速接続時代に対応した「ブロードバンド(広帯域)・ポータル」にすることだ。
ブロードバンド・ポータルとは、@ホーム加入者およびその他の高速回線利用のインターネット・ユーザーのためのポータルであり、通常のポータル機能に加えて、広帯域通信ならではのサービスを集めた場所である。とりわけ、電話回線経由ではダウンロードに時間のかかりすぎるビデオ系サービスが充実し、オン・デマンドのビデオ・コンテンツやビデオ会議機能などを備えた拠点になると想像される。
とはいえ、市場が全面的にブロードバンドへ移行するまでには、まだしばらく時間がかかる。その間、@ホームはエキサイトを従来どおりのポータルとして運営し、ブロードバンド時代に対応したサービス開発とビジネス基盤の整備を行う一方で、エキサイトをブロードバンド・シフトのプロモーション媒体としても利用していく意向と思われる。
ちなみに、@ホームはエキサイトを既存の電話回線経由のナローバンドにもブロードバンドにも対応させるという意味で、「オールバンド・ポータル」なる言葉を使っている。

背後のAT&Tは打倒AOL狙う
別記した両社の年商やユーザー数を比較すればわかるとおり、この買収は、ディズニーのインフォシーク出資やAOLのネットスケープ買収のように、規模の大きい企業が小さい企業を支援、もしくは吸収するというタイプの取引ではない。実際にはその逆である。にもかかわらず、エキサイトが@ホームの申し出に応じた理由の一つは、前述の「ブロードバンド」というキーワードに将来の競争の重要な鍵があると見たためだ。
そして、それにも増して重要なもう一つの理由は、今回の買収の背後にある巨大企業の存在である。@ホームの筆頭株主のTCIは、昨年6月、米国最大の電話会社AT&Tによる買収に合意している*1。そして、両社の合併に必要な司法省(反トラスト関係)とFCC(連邦通信委員会)の認可のうち、司法省については、すでに昨年末、さほど難しくない条件付きでクリアできることになった。このままうまく進めば、もうまもなく合併手続きは完了するはずだ*2
つまり、@ホームのエキサイト買収には、TCIと、その先にいるAT&Tの意向が大きく反映している。@ホームの後ろにAT&Tを見ればこそ、エキサイトもポータルとしての生き残りをかけた取引に応じたわけである。
そもそもAT&TのTCI買収の最大の狙いは、TCIの持つ一般世帯に直結したケーブル網を手に入れ、市内通話サービスに進出することだといわれている。しかし、AT&Tにとって、TCIに付属する@ホームの価値も、決して小さいものではない。
AT&Tは、これまでインターネット関連事業で完膚なきまでの大敗を喫してきた。同社のインターネット戦略失敗の歴史をここでさかのぼる気はないが、筆者の知るかぎり、同社が94年から96年にかけて数回にわたって試みた双方向サービス絡みの事業で、現在まで生き残っているものは一つもない。また、インターネット接続サービス「AT&Tワールドネット」も、一般ISPから目立ったリードを奪うでもなく、停滞した状況にある。
@ホームは、そんなAT&Tに一発大逆転のチャンスを与える唯一の期待の星である。@ホームを単に接続だけでなく、コンテンツやさまざまな機能を備えた総合オンラインサービスとすれば、ブロードバンド・シフトをきっかけに一気にAOLの立場に取ってかわることも可能かもしれない*3。エキサイトは、その野望実現に必要な存在なのだ。
@ホームのエキサイト買収は、AT&Tのポータル参入とともに、ブロードバンド時代に向けた対応が、新たなポータルの競争要素として大きな意味を持ちはじめたことを意味するものにほかならない。

(2)ヤフーがジオシティーズを買収。マルチブランド・ネットワーク戦略へシフト

ポータル競争でトップに追いすがる立場にあったエキサイトが買収され、@ホームとAT&Tの傘下に組み込まれる一方で、ヤフーはコミュニティ専門サイトながらも、総合ポータル並みの集客力を持つジオシティーズ(http://www.geocities.com)を買収し、さらなる高みを目指している。買収はヤフーの新規発行株との交換で行われ、発表当日の株価を基準として35億6000万ドルの取引価値に相当する。買収後もジオシティーズは、独立したWWWサイトとして運営される。

単独サイトの総合ポータルであるヤフーはこれまで、外部の巨大資本の支援を求めたり、人気サイトを買収してマルチブランド・ネットワーク化するほかのポータルとは対照的に、内部のコンテンツや機能の充実化に力を注ぎ、ひたすらヤフー・ブランドの価値を高めることに力を注いできた。

しかし、ジオシティーズの買収は、ヤフー自体は備えていない個人ホームページ・コミュニティの機能を加えるというより、すでにインターネット・ユーザーに浸透したジオシティーズのブランドを手にすることを意味し、同時にこれはヤフーが従来の単独サイト主義から、マルチブランド・ネットワークへ戦略を転換したことを示すものでもある。

昨年を通じて繰り広げられた競争の結果、トップ・ポータルのポジションを狙えるのは、AOLとマイクロソフト(MSN)、ヤフーの3社にほぼ絞られてきた。この先、強力な2社と互角にわたりあっていくためには、ヤフーは単独サイト主義の従来戦略を再考する必要に迫られたといえる。

世界に1500万人もの加入者を持つAOLと、ブラウザー・メーカーとしての根本的な優位を持つマイクロソフトを相手に、ヤフーが切り札として使えるのはユーザー到達率しかない。実際にヤフーは、両方のサイトを合わせたユーザー到達率は、重複なしで58%以上に達し、WWW上で二番めに最大の規模となると予想している。

CNETのニューズ・コムがヤフー社長のジェフ・マレットのインタビューとして伝えたところによると、ヤフーは一時エキサイトを買収候補として交渉を持ったこともあるという。しかし、最終的にジオシティーズを選んだのは、自身のサイトとの機能の重複がないので、互いに共食いを起こさず、到達率の拡大を図れるためと推測される。

残されたライコスの動静
すでにある程度のブランドを確立したWWWサイトを買収し、ネットワーク化する戦略は、もとはといえばライコスが始めたものである。トライポッド、フーフェア、ホットボットなど、10サイトをネットワーク化するライコスは、合わせて46.5%のユーザー到達率*4を確保し、マルチブランド・ネットワーク戦略の効果をあげている。
少し前まで4大検索サービスと呼ばれていたポータル・プレイヤーのうち、トップ・レベルに食い込んだヤフーを除くと、インフォシークはディズニー傘下、エキサイトは@ホーム/AT&T傘下に入ることになった。唯一残ったライコスが今後どのような方向へ向かうかについてはさまざまな憶測がなされ、少し前には、ドイツの大手メディア会社で、米国の出版界でも大きな力を持つベルテルスマンに援助を求める交渉があったことも伝えられている。
しかし、今回のヤフーの戦略転換が、いみじくもライコスの戦略の正しさを裏付けた面もある。ライコスは、巨大資本の後ろ楯を探すとともに、さらに自ら買収によるマルチブランド・ネットワーク化を進める意向のようだ。

*1 本紙98年7月23日号(Vol.4, No.82)5頁参照

*2 FCCの認可の条件として、「オープン・ケーブル」が含まれるかどうかが注目の的となっている。オープン・ケーブルとは、CATV会社がISPに、インターネット接続サービスのプラットフォームとしてケーブルを無償、あるいは競争上公正な料金で開放することを義務づけるものだ。AOLを筆頭とする既存の電話回線経由のISPは、ブロードバンド・シフトが本格化した際、ケーブルISPが圧倒的に有利な立場になることを予想し、オープン・ケーブルを求める大がかりなロビー活動を展開している。一方、TCI/AT&Tは、合併認可条件にオープン・ケーブルが含まれた場合、合併を白紙にもどす可能性もないわけではない。

*3 AT&Tは昨年6月、AOLに買収の申し出をして断られた。

*4 メディア・メトリクスの98年12月企業別ランキングによる。



[コラム]ブロードバンドをめぐる他社の動向。スナップとロードランナー

@ホームのエキサイト買収をきっかけに、にわかに脚光を浴びたブロードバンド関連の動向として、ほかにも次のようなものがある。

スナップがブロードバンド・ポータルを開発中
CNET傘下で、NBCからの出資を受ける中堅ポータルのスナップ(http://www.snap.com) は、@ホームのエキサイト買収発表の同日、「サイクロン」のコードネームで呼ばれる新たなブロードバンド・ポータルを開発中であることを明らかにした。サイクロンは、NBCとCNBC*1の24時間のテレビ放送をコンテンツとして取り込むことを全面的に打ち出し、最大の目玉としている。電話会社のGTE、SBC、ベル・アトランティックを含む8社の高速ISPが、サイクロンをポータルとして加入者に提供することも同時に明らかにされた。
電話会社のADSL(AsymmetricDigital Subscriber Line)は、CATV会社のケーブルモデムと対抗する高速インターネット接続サービスだが、今のところ、ケーブルモデムほどの普及の兆しは見えていない。

@ホームのライバル、ロードランナー
@ホームと同様のケーブル経由の高速インターネット接続サービスに、タイム・ワーナー・ケーブルが中心となって展開する「ロードランナー(http://www.rdrun.com)」がある
。タイム・ワーナー・ケーブルとメディア・ワンの2社の18万のCATV加入世帯に提供されており(98年末時点)、このほか2社がフランチャイズに加わる契約を結んでいる。
現時点ではまだ、ロードランナーのブロードバンド・ポータルに関する思惑は明らかではないが、基本的には@ホームと同様に、接続だけでなくコンテンツや機能付きのサービスとして展開していく方針のようだ。マイクロソフトもロードランナーに一部出資しており、タイム・ワーナーとともに、ブロードバンド・ポータル開発に取り組むことも考えられる。

*1 NBC傘下のビジネス情報のCATVチャンネル。

企業概要
@ホーム・ネットワーク
事業内容 提携CATV会社(全19社)加入世帯への高速インターネット接続サービス。月額39.95ドル。
年商 4800万ドル(12月末締め98年度)
加入世帯数 33万1000世帯(98年末時点)
株式 TCIが42%を所有。提携CATV会社も出資。
NASDAQに上場。
その他 98年12月に、WWWのリッチメディア広告技術開発会社ナラティブ・コミュニケーションズ社を買収し、ブロードバンド広告への取り組み体制を整えている。
エキサイト
事業内容 WWWのサーチエンジンから出発した準トップランクのポータル。メディア・メトリクスの98年12月ユーザー到達率調査の企業別ランキングで第7位(29.2%)。
年商 1億5410万ドル(12月末締め98年年度)
登録ユーザー数 2000万人(98年12月末時点)
株式 NASDAQに上場。AOL、インテュイットなどが主要株主。
展開ブランド エキサイト(ポータル)、ウェブクローラー(検索サイト)、マッチロジック(インターネットによるデータベース・マーケティング)
ヤフー
事業内容 WWWのディレクトリ・サービスから出発したトップランクのポータル。メディア・メトリクスの98年12月ユーザー到達率調査の企業別ランキングで第3位(48.2%)。
年商 2億327万ドル(12月末締め98年年度)
登録ユーザー数 3500万人(98年12月末時点)
株式 NASDAQに上場。
ジオシティーズ
事業内容 個人ホームページのスペースを無料提供するコミュニティ・サイト。メディア・メトリクスの98年12月ユーザー到達率調査の単独サイト・ランキングで第3位(33.4%)。
年商 1840万ドル(12月末締め98年年度)
登録ユーザー数 320万人(98年12月末時点)
株式 NASDAQに上場。

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