98米ホリデイ・オンラインショッピングの通信簿
予測越える好調とトラブルに見る今後の課題
98年の米国のクリスマス商戦では、オンラインショッピングがとうとうマス・マーケットのレベルに到達し、一大ブームといえる盛り上がりを見せた。期間中の売上が前年比2−3倍の20−30億ドルと予測されたホリデイ・シーズンの結果をさまざまなデータや現象で振り返るとともに、ブームに付随して発生したトラブルに見るオンラインショッピングの課題についてもレポートする。(富士通総研
倉持 真理 1999年1月27日)
結果は予測どおりの好調
冒頭部分の前年比2−3倍の20−30億ドルという数値は、シーズン直前の11月から12月頭にかけて発表された複数の大手調査会社の予測をまとめたものだ*1。まずは、この数値が正しかったかどうかから見ていくことにする。
(1)対前年成長
オンラインショップの業界団体shop.org(http://www.shop.org)は、ボストン・コンサルティング・グループと協力し、ギフト関連の商品を販売する主要オンラインショップの11月23日−12月20日までの状況を調査した。これによると、アパレル、本、音楽、家庭/園芸用品、グルメ食品、家電などを扱うオンラインショップの売上は、平均で前年比230%(3.3倍)となったことが判明。注文1件あたりの平均単価は、前年比6%増の55ドルであった。
また、ゾナ・リサーチによると、期間中のインターネット・ユーザー1人あたりの買上額は、前年の216ドルから629ドルへと191%(2.9倍)の伸びを示したという。これらの数値を見るかぎり、対前年成長は予測を上回る好結果であったようだ。
(2)売上げ総額予測
期間中の売上総額については、対前年成長ほど単純に答え合わせのできるデータはないが、AOLの発表数値が一つの手掛かりとなる。同社がインターネット・リサーチ・グループに依頼して行った調査によると、11月26日−12月27日の間に米国のAOLユーザーが行ったオンラインショッピングの総額は、12億ドルにのぼると推定されている。
AOLユーザーは、米国のインターネット・ユーザー全体の3割程度を占める。また、AOLユーザーは主に家庭から接続する消費者であるため、一般ユーザーよりオンラインショッピングの利用はかなり多いと考えられる。これらの要素を合わせ、AOL以外のインターネット・ユーザーはAOLユーザーの半分しか買い物をしなかったと仮定しても、今シーズンのオンラインショッピング総額は、おおざっぱな計算で26億ドルということになる。
シーズン後に公表された主な分析データは、対前年成長、売上総額ともにシーズン前の予測を裏付ける結果となった。このほかにも、各種機関がさまざまな分析を発表しているが、予測だけでなく、事後分析がこのように充実したのは今シーズンがはじめてのことであり、これもオンラインショッピングの発展を示す現象の一つといえそうだ。
二大トラブルは混雑、在庫切れ
それでは好調だった今シーズン、売る側・買う側の誰もが大満足だったのかというと、必ずしもそうとは言い切れない。需要が集中するだけに、ほかの時期よりトラブルは目立った。シーズン中の二大トラブルは、混雑と在庫切れだ。
(1)混雑/技術トラブル
”予測を上回る好調”の現実的な意味として、ショップ側の予測を越えたトラフィックが集中し、アクセス不可能になったり、ページのダウンロードや注文処理に時間がかかる現象が多発した。トイザらスやバーンズ&ノーブル・オンラインといった有名店をはじめ、多くのショップで混雑によるサーバーのダウンがレポートされ、なかにはテレビ・コマーシャルやディスカウント・プロモーションが思わぬ効果を生み、トラフィックが対応不可能なレベルに達した例もあった*2。
また、まさかの技術トラブルで書き入れ時の一部を棒にふったところもある。個人間オークションで大人気のeベイ(http://www.ebay.com)は、12月中3回にわたってアクセス不可に陥った。原因は、データベース・ソフトの定期メンテナンスに伴う障害とハード機器の障害で、ダウン時間は3回合わせて18時間あまりとなった。同社はダウン当日が終了日にあたったオークションのすべてを24時間延長する措置を取った*3。
こうしたトラブルは、混み合う地上のショッピングモールを避け、都合のよい時間にオンラインで快適に買い物できるメリットを求めたユーザーの期待を大きく裏切ることになる。ショップ側にとっては、この時期、とくにプロモーションを実施するなら、慎重なトラフィック予測が必要という次回への教訓となった。
(2)在庫切れ
混雑よりも複雑な要素をはらんでいるのが、注文後に在庫切れが判明し、クリスマスまでに品物が届かないというトラブルだ。最高水準のオペレーション体制を持つアマゾン・コムやCDナウでも、クリスマス直前の週の注文については、この問題が一部あったらしい。
シーズン中、最も多くの苦情を集めたのがショッピング・コム(http://www.shopping.com)*4である。家電・コンピュータ類から書籍、グルメ食品まで200万種に及ぶ商品をディスカウント販売する同社に対しては、この12月以降270件あまりの苦情が調停機関のベター・ビジネス・ビューロー(略称BBB、http://www.bbb.com)に寄せられ、そのうち約200件が解決、70件が未解決のまま残っているという。苦情内容は主に、注文した商品が届かない、または未到着やキャンセルした商品の代金をクレジットカード会社から請求されたなどである。
幅広い商品を扱う同社は、自社で在庫を持たず、受けた注文を1000社あまりのサプライヤーに転送し、サプライヤーから顧客に配達する仕組みをとっている。つまり、同社はサプライヤーの在庫状況を把握しておらず、注文を受けて、サプライヤーの在庫がないと判明してから、配達遅延を顧客に通知することになる。在庫コントロールに自社の融通がきかない仕組みの弱点に、繁忙期とずさんなオペレーション体制が重なり、今回のトラブルを招いたものと見られる。
この問題には、企業自身の未熟さは論外として、さまざまな側面がある。なかには、オンライン固有の面もあれば、そうでない面もある。
たとえば、人気アイテムがどれほど売れるかをできるだけ正確に予測し仕入れるのは、オンラインショップに限らず、小売業の共通課題だ。売上機会損失を意味する在庫切れを防ぎ、適正な在庫水準を維持するため、大手小売チェーンは何年も前から高度な情報システムに投資し、解決を図っている。それでも在庫切れを完全になくすことはできない。
エディー・バウアーやJクルーのように、カタログ販売でこの問題に取り組んできた企業は、需要予測の精度を高めるとともに、在庫切れで顧客に迷惑をかけないため、オンラインでリアルタイムの在庫表示を行っている。また、オンライン専業でも、eトイズのようにリアルタイム対応可能なシステムを整えているところもある。
ショッピング・コムのように在庫を持たず、サプライヤーに注文を転送したり、在庫管理や出荷などの物流機能を一括してアウトソーシングするオンラインショップも多いが、そのような仕組みで、ショップフロントでの状況把握が難しい場合、いずれリアルタイムの在庫表示能力を持つショップとの競争で不利になるのは避けられないだろう。
さらに、在庫切れに関しては、店頭に品物がなかったり、印刷カタログに掲載された品物がない場合よりも、オンラインショップでの注文後にないと通知されるほうが、顧客の印象に与えるダメージが大きいというのも事実だ。混雑によるアクセス不可状態とも共通するが、便利で快適という潜在的な好イメージがある分、顧客の求める期待値が高く、不手際があると、その落差が目立ってしまうのだ。
転換期を迎えるオンラインショップ−−境界線のない競争へ
混雑と在庫切れのほかにも、クリスマス前に届けられる注文のデッドラインをどこに引くかという出荷処理能力の問題や、気に入らなかったり、間違って注文した商品の返品対応、ブランド品のニセ物問題*5など、トラブルの種は数多く見られた。
これらのトラブルの原因や解決方法を探っていくと、オンラインショッピングのマス・マーケット化が現実のものとなった今シーズンを境に、オンラインショップは転換期を迎えるという結論にたどりつく。
これまで、オンラインショッピングの競争は、主にオンライン専業のベンチャー企業間か、オンライン進出した一部の先進的な小売業やカタログ販売会社の間で行われていた。しかし、市場の拡大につれ、それまで時期を見計らっていた一般小売業が新たに参入したり、実験的に行っていたオンライン事業に本腰を入れるなどして、オンライン専業ショップに対抗しはじめた。この傾向は、今後さらに進むと予想される。
そして、これらの地上勢力は、オンラインでの経験は浅くても、オフラインで培ったブランド知名度だけでなく、返品受付などの顧客サービス拠点として利用できる店舗網、在庫力、価格競争力などの強力な武器を備えている。
これまでのオンラインショップは、いかに多くの顧客をつかまえるかという点にもっぱら集中してきた。しかし、顧客がオンラインショッピングの回を重ねると、混雑や在庫状況、配達期限などを考慮し、サービスの充実したショップを選ぶようになる。すると、先発の利しか持たないオンライン専業ショップは、小売業としての本質的な能力に優れる地上系オンラインショップに簡単に追いつかれてしまう。
一度トラブルに巻き込まれた顧客が、再び同じショップを利用するようになるまでには時間がかかるし、結局、次回はオンラインより地上のショッピングモールで買うほうを選ぶかもしれない。競争は一般小売業のオンライン進出によってだけ起きるとは限らない。オンラインであれオフラインであれ、顧客によりよい価値を提供できる能力を備えた企業が競争に勝利する。
米国のオンラインショップは、オンラインの世界だけでなく、より広い視野で小売業としての能力を高め、一般小売業との競争を視野に入れた体制をつくりあげるべき時期に来ている。99年もさらなるオンラインショッピングの躍進が期待されるが、もしかしたら次のホリデイ・シーズンには、オンライン専業ショップより地上系オンラインショップのほうが幅を効かせるようになっているのかもしれない。
*1 本紙98年11月18日号(Vol.4, No.90)10頁、12月16日号(Vol.4, No.92)12頁参照。
*2 家電を販売する800.comは、商品カテゴリー拡大にともなうキャンペーンで、映画ビデオと音楽ソフトを1ドルで販売すると宣伝したところ、トラフィックが集中してダウンした。バーンズ&ノーブル・オンラインは、テレビ・コマーシャルの効果でダウン。
*3 実際には、eベイのトラフィックがピークに達するのは、ホリデイ・シーズン期間中よりも、気に入らないギフトをオークションで処分しようとする人が増えるクリスマス後らしい。
*4 本紙10頁参照。
*5 画像検索技術を応用してブランド品のニセ物探しを請け負うサイベイランス社の調査によると、今シーズン、高級ブランド品を扱うオンラインショップはインターネット上で2万−2万5000サイトにのぼり、そのうち10−20%がニセ物を販売しているという。
| 予測期間 | 対象地域 | 対象期間 | 予測金額 |
|---|---|---|---|
| ジュピター・コミュニケーションズ | 米国 | 11/23−年末 | 23億ドル |
| フォレスター・リサーチ | 米国 | 10/1−年末 | 35億ドル |
| ヤンキー・グループ | 米国 | (ホリデイ・シーズン) | 25.5億ドル |
| データクエスト | 世界 | (ホリデイ・シーズン) | 23.5億ドル |
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