2012年の中国経済の行方
発行日 2011年12月22日
主席研究員 柯 隆
中国経済は減速している。なぜ中国経済は減速するようになったのだろうか。その一つの背景は先進国を中心に債務危機に見舞われ、中国にとっての外需が軟調になっていることがある。しかし、中国経済の減速はすべて外需が弱くなったからではない。中国経済自身の問題も大きい。
とくに、2012年の中国経済を占ううえで、忘れてはならないのは当年秋ごろに本格化する政権交替である。では、2012年の中国経済はどうなりそうなのだろうか。ここで、中国経済の内実を考察しながら、内需と外需の両面からアプローチし、その実像を明らかにしていくことにする。
1.8年間に亘る胡・温政権の総括
- 2003年、胡錦濤は江沢民から政権を受け継いだ。首相人事は胡錦濤の意中人物というよりも、鄧小平自らが指名し長老の間で最大公約数を得ている温家宝が選ばれた。二人の相性はいうまでもないことだが、江沢民・朱鎔基のコンビほどよくなかったはずである。表向きは大きな対立がないが、二人の相性の悪さはやはり改革を推し進めるうえで邪魔だったようだ。
- 2013年の春に引退する胡・温政権を評価するのはやや難しい作業である。というのは天安門事件ほどの汚点こそないが、江沢民・朱鎔基時代が行った財政金融や国有企業改革のような大胆な改革も見当たらない。それは二人のカリスマ性の弱さに起因するものかもしれない。
- どこの国でもみられる現象だが、平和な時代が長く続くと、指導者のカリスマ性が次第に低下し、功績をあげるよりも、過ちを犯さないように慎重に行動するようになる。しかも、胡錦濤・温家宝政権にとり、不運なことに前任者(江沢民)は依然健在であり、自分らしい政治を展開することができなかった。
- 結局のところ、これまでの8年間あまり、政治と経済の両面について改革らしい改革が行われず、唯一評価されるのは高度経済成長が維持されていることであろう。しかし、経済成長を維持するだけでは、社会は安定化しない。国民によって監督されない共産党幹部の腐敗はますます深刻化している。貧困層は政府を動かす一票の力を付与されていないため、ますます不利な立場に立たされている。2011年7月、中国南部で起きた高速鉄道事故をきっかけに、国民による鉄道省に対する批判が激化しているが、そのうちのかなりの部分は鉄道省に対する批判だけではなくて、政府全般に対する批判である。言い換えれば、政治改革は待ったなしの状況にあるが、胡錦濤・温家宝政権がそれを成し遂げることができなかった。このままいけば、中国社会はますます不安定化する恐れがある。
2.2012年の経済政策目標
- さる2011年12月12日から14日まで共産党中央経済工作会議が開かれ、2012年の経済政策の方向性が決定された。それによると、2012年は第12次5か年計画の2年目に当たる。2012年の経済政策の方向性について大きくいえば、一つは高成長路線の維持であり、もう一つは内需振興への構造転換である。
図 経済成長率の推移(1990-2012年)
注:2011年と2012年は推計値
資料:中国国家統計局
- なぜ中国政府は高成長にこだわるのだろうか。図に示したのは経済成長率(実質GDP伸び率)の推移である。
- 研究者の間で従来の解釈は経済成長による雇用機会の創出が不可欠ということだった。しかし、輸出と設備投資に依存する既存の成長モデルでは、経済発展と設備投資は労働生産性の向上を少しずつ高める一方で、雇用の創出効果はすでに低下している。したがって、政策当局は依然経済成長による雇用創出増大に期待しているかもしれないが、実質的にはその効果がなくなりつつある。
- 実は、中国政府が経済の高成長にこだわるのは次の諸点が考えられる。まず、中国経済のトータルの規模はすでに世界2番目になっているが、一人当たりのGDPで計算すると、依然4000ドル程度であり、名実ともに発展途上国である。しかし、中国の総人口は2015年ごろピークアウトし、2020年ごろになると、労働力が減少に転ずるとみられる。換言すれば、中国にとっての人口ボーナスは残りが少なく、潜在成長力は近い将来大きく落ち込む可能性が高い。したがって、経済の高成長が続けられる間はとにかく成長を維持していくというのは政策当局の基本的な考え方のようだ。
- そして、政権与党としての共産党の正当性を誇示するためにも経済の高成長が必要である。共産党が政権を握ってから60年余り経過した。長い間、共産党は国民に対して幸せな生活を約束することで社会主義と共産党の正当性を誇示していた。しかし、「改革・開放」前の30年間、共産党による統治は経済発展に失敗したことでその正当性が説明できなかった。「改革・開放」政策以降の30年、経済発展こそ共産党の正当性を説明するための好材料だった。しかし、その成長の過程で社会主義そのものは実質的に壊れてしまった。社会主義の看板しか残っていない中国では、共産党は何をもって自らの正当性を誇示するかが大きな課題となっている。イデオロギーの理論武装は実質的に効果を失った現在、唯一、共産党の正当性の誇示に寄与する材料は経済発展である。共産党中央にとって経済構造の転換も重要だが、それよりも経済発展の維持はプライオリティとして高い。
3.2012年の中国経済の行方
- 北京の指導部では、2012年の経済成長が大きく落ち込むのを恐れているようだ。景気減速を心配する理由は明らかであり、それは胡錦濤政権が退任するための花道として一定の成長率が必要と思われているからである。2012年の中国経済はこのまま何も政策面の手当を行わなければ、大きく落ち込む恐れがあるが、経済工作会議で経済成長の維持が「閣議決定」された以上、成長率の下振れリスクはかなり回避されていると予想される。
- まず、12年3月初旬の全人代までに景気刺激の政策パッケージが実施される可能性が高まる。ただし、09年に実施された4兆元の財政出動に対する批判が根強いため、大規模のインフラ投資のための財政出動は考えにくい。それに代わって、中小企業の資金難を緩和するための財政出動が可能性として高い。問題は、いかにして資金難に陥っている中小企業に流動性を注入していくかにある。
- そして、金融政策について利下げよりも預金準備率を引き下げ、公開市場操作により市中に流動性を放出していくことになる。この政策は一つのリスクを伴うことになる。すなわち、ようやくコントロールできつつある住宅バブルは再び膨張する恐れがある。
- さらに、種々の減税措置などが実施される可能性が高い。一つは輸出を促進するための「増値税」(付加価値税)の減税措置の実施である。もう一つは自動車や家電などの販売促進策として補助金の支給が実施される可能性がある。
- それに加え、経済成長を支えるための新産業戦略が前倒して実施されると考えられる。省や市などの地方レベルでは、重厚長大産業と労働集約・低付加価値産業の温存に加え、省エネと環境配慮型のスマートシティの建設が進められている。温家宝首相の故郷である天津市でのスマートシティの建設を皮切りに、現在、中国全土で500か所あまりのスマートシティが建設されようとしている。これらのクラウドコンピューティングを軸とするスマートシティの建設は中国経済を支える新たな柱として期待されている。
- こうしたことを背景に考えれば、2012年の中国経済は大きく下振れするリスクが低く、8%を割ることはほとんど心配する必要はない。それよりも、胡錦濤政権の花道として作られた12年の高成長が仮に実現することができた場合、それ以降、すなわち、13年に新しい政権が誕生したあと、中国経済の成長をいかに維持し、それまでの高成長の負の遺産、不良債権などをどのように処理するかがむしろ問題となる。一つは13年以降の経済成長の落ち込みをいかに防ぐかである。もう一つは無理に高成長を維持した結果、銀行システムの不良債権や地方債務の問題をどのように処理するかである。