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求められるBOPビジネスの戦略展開

発行日 2010年12月17日

主席研究員 金 堅敏


【要旨】

  • 業界ではBOPビジネス(途上国の低所得層向けのビジネス)が脚光を浴びているが、収益性や持続性に不確実性が高く、リスクの高いビジネスとして大部分の日系企業は敬遠している。しかし、BOPビジネスは当期の収益を重視する考えよりも市場育成の視点から将来のミドル層への早期投資、ブランディング戦略の先行活動として国際的なレピュテーションの向上、世界的な優秀人材の発掘、独自な知識・技能に基づく世界的なイノベーションの展開を重視する考えが必要である。
  • 先行事例からは、1)ハイエンド市場、ミドル市場、ローエンド市場を一体化した戦略、2)公的支援機関やNGO・NPOなどのリソースの活用やアライアンスの戦略、3)消費者向けのB2Cビジネスよりも、先行するインフラや社会基盤整備などのB2Bビジネスで成功する戦略、などがある。

注目されるBOP市場戦略

  • 世界金融危機以降、日本企業の間では、いち早くV字型回復を見せた新興国の中間層ビジネスが成長戦略の重要なファクターとなってきた。そして、メディアの報道や産業担当官庁の活動において途上国の低所得層、つまり、BOP(Base of the Economic Pyramid)をターゲットにしたビジネスの話題が多く取り上げられるようになった。
  • しかし、先進国を中心とするハイエンド市場に親しみなれてきた日本企業は、新興国や途上国のミドル市場開拓でさえ試行錯誤の段階にあり、ローエンド市場であるBOPビジネスに対してはより大きな戸惑いを見せている。なぜなら、世界最高の「品質」と「技術力」を有する日本企業は、価格競争力に弱く、BOPビジネスの収益性や持続性に不確実性を感じているからである。

ハイエンド市場、ミドル市場、ローエンド市場を一体化した戦略が必要

  • そもそも一部の先進的な多国籍企業は2000年ごろから、これまでビジネスの対象としていなかったBOP層をターゲットにしたビジネスを積極的に展開するようになったが、人口増加率が高く、経済成長も先進国より高いことや資源が豊富であることがBOPビジネスを展開させる理由であった。
  • 具体的には、市場育成の視点から将来のミドル層への早期投資、ブランディング戦略の先行活動として国際的なレピュテーションの向上、世界的な優秀人材の発掘、世界的な独自な知識・技能に基づくイノベーションの展開、などの視点からBOPビジネスを積極的に展開するようになっている。
  • 以上のような発想は、大部分の日本企業が求めている収益の上がる市場の考え方から一線を画している。むしろ、BOP市場を独立市場とは見なさず、ハイエンド市場、ミドル市場、BOP市場を統合させたグローバル市場戦略が展開されているように思われる。
  • 例えば、味の素は、アジア途上国で市場のハイエンド市場に絞った戦略からローエンド、ミドルエンド、ハイエンドを一気貫通した統合戦略に改め、ローエンドからミドル、そしてハイエンドへと消費者を誘導していく「台車戦略」を採用し、トータルで収益の上がる市場開拓に成功した。
  • インド最大手の携帯サービスキャリアであるBharti Airtel社も、ユーザー1人当たりの月平均収入(ARPU)が300~400円であるという低付加価値市場においてもスケールメリットを生かして売上高純利益率20%以上の好業績を収めている。

公的支援機関やNGO・NPOなどのリソースの活用やアライアンスが重要

  • これまでの先進的事例から、短期的に収益性を見込めないBOPビジネス活動においては、世界銀行、UNDP等の国際機関や各国の政府開発援助機構、NGO・NPOなどの民間組織との連携を通じて現地社会における高い信頼性を獲得するとともに、強いネットワーク、現地市場や社会に対する豊富な知見を活用し、ビジネスの効率やコストパフォーマンスを高めている戦略的アライアンスも数多くみられる。なぜなら、収益性よりも後発地域の社会問題解決や生活向上という公益性を実現させようとするこれらの公的機関や非営利組織にも、民間企業の技術、人材、事業遂行能力を活かしてより効率的に社会課題解決を図るインセンティブが働くからである。
  • 途上国に対する公的支援機関の援助はあくまで呼び水としての効果しか期待できず、現地住民と民間企業による市場取引を通じた地域経済の発展が望ましい。したがって、現地住民の購買力増強と企業にとっての収益の上がる市場の出現は公的支援機関の望む結果である。日本企業も公的支援機関やNGO・NPOなどのリソースを最大限に活用すべきである。
  • 例えば、BOPビジネスの成功事例としてよく語らえらるP&GのPUR(水を浄化する粉末)事業、ユニリーバのインド農村での女性起業家支援と自社製品の普及事業、住友化学のオリセットネット(蚊帳)によるマラリア防止事業などは、いずれもUNDPなどの国際機関やインド政府との官民連携があってはじめて成功を収めたものである。

BOPビジネスの戦略は法人向け市場(B2B)にも当てはまる

  • さらに、日本では、BOPビジネスと言えば途上国の低所得者向けのB2Cビジネスであるという理解が多いが、BOPビジネスは、広義的に低開発国向けのB2Bビジネスも含まれると理解すべきであろう。途上国のインフラや社会基盤整備などのB2BビジネスはB2Cより先行して市場性があると考えられる。
  • GEヘルスケアは、中国で中級や末端の中小病院向けのCT機やデジタルX線レントゲン機の市場で成功している。末端医療施設のニーズをいち早く把握したことや現地におけるリバースイノベーションで低価格機種を開発したことが成功の要因となっている。GEは中国での成功体験を他の途上国や欧米先進国の低付加価値市場の開拓に移植し成功している。
  • また、中国やインドの通信インフラ市場は、一人当たりGDPが300~500ドル前後となる段階ですでに形成され、世界中の通信機器メーカーは潤った。したがって、日系B2B企業も後発地域や低開発国においてビジネスの準備を開始すべきである。