「両岸経済協力枠組協定(ECFA)」締結推進から見る台湾の狙い
発行日 2009年11月6日
主席研究員 金 堅敏
「両岸経済協力枠組協定」締結に向けて
- 中台WTO同時加盟に続き、中台両地域だけに適用される経済緊密化協定に相当する「経済協力協定」(ECFA: Economic Cooperation Framework Agreement)の締結作業が加速されている。協定締結のインパクトに関する双方単独の研究評価を終え、双方の共同研究、そして事務レベルでの調整段階に入っており、09年末での正式交渉を経て、2010年早々にも締結される運びとなっている。
- 台湾側の政府担当機関である経済部は、09年7月29日にGTAPモデルを用いて行われた両岸ECFA締結の影響評価を公表した。これまでの中国大陸製品(工業製品と農業製品を含む)に対する輸入制限を解除せず、既存の輸入品関税撤廃だけで、台湾に1.65%のGDP成長率アップが得られるが、工業製品すべての輸入制限を解除しかつ関税撤退を行った場合、1.72%のGDP成長率アップが可能である。他方、台湾側に約25.7~26.3万人の雇用増をもたらすという。
- 中国商務部が委託した研究チームは、CGEモデルを用いて協定締結の中国大陸側への影響評価を行った。09年10月13日に公表された研究結果によると、両岸ECFA締結による中国側のGDP成長率アップは0.36~0.4%である。また、アセアン+1(アセアン+中国、アセアン+韓国、アセアン+日本の三つである)による貿易自由化を前提にすれば、両岸ECFA締結による中国側のGDP成長率向上は0.63~0.67%と試算される。
両岸ECFA締結を加速させている台湾側の狙い
- 両岸ECFA締結の加速は、一環して対台交流の積極的な政策を展開してきた中国よりも対中経済関係の「正常化」を基本方針としている台湾現政権によって推進されている。独立志向が強く中台間のイデオロギー対立に拘った陳水扁前政権は経済成長を犠牲にしても対中交流拡大を拒み続けた。陳氏在任期間(2期8年、2000年5月~08年5月)中のGDP年平均成長率は4.1%(00年~07年)に止まり、他のアジアNIES(韓国:同5.2%、香港:同5.3%、シンガポール:同5.9%)に及ばなかった。また、同期間中台湾の一人当たりGDPは21.9%増に止まり、韓国の56.8%増、シンガポールの38.2%増にも及ばなかった。実際、台湾では陳政権の8年と前任者で対中交流を抑制してきた李登輝政権後半の2年を含めた10年間を「失われた十年」と称する論者も出た。2016年までに633(経済成長率6%維持、一人当たりGDP3万米ドル達成、失業率3%以下抑制)という経済目標をコミットして08年に当選した馬英九政権は経済振興に全力を挙げて取り組んだ。
- グローバル化の進展により、内需よりも外需依存度を高めてきた台湾経済の振興政策は、対外経済関係の活性化なしに論じられなくなった。そして経済大国化した中国大陸との関係を変えない限り台湾の対外経済関係の活性化を図ることは不可能であると認識した馬政権は、両岸経済関係の「正常化」(WTOメンバー間の規制水準に収斂していくことを意味する)を経済政策の最優先課題と掲げた。「三通」(直接航空便、直接船便、直接郵便の開通)の実現、大陸観光客の開放、大陸資本の開放などが矢継ぎ早に実現された。
- しかし、馬政権にとってより差し迫った対中経済政策には、両岸ECFAの締結という制度的な取組みが必要となってきた。アセアン中国自由貿易協定(ACFTA)により2010年1月1日からアセアン中国間の大部分の関税がゼロになり、台湾の対中輸出が転換され、内外企業による台湾域内投資が回避されるリスクが大きくなったからである。特に、石油化学産業、機械部品産業、自動車および同部品産業はACFTA によって大きな不利益を蒙るとされた。09年2月に台湾の経済六団体は両岸ECFAを迅速に締結するよう共同声明を出して政府の背中を押した。台湾の官民共同で両岸ECFA提携を強力に推進しているのはこのような転換効果を解消させようとする消極的な目的があった。
- しかし、台湾側による両岸ECFA締結推進に対中経済関係の安定化と優先的な市場アクセスの確保というより積極的な狙いもあった。中国経済の台頭で台湾輸出の対中依存率は89年の10.6%から98年の23.2%、そして08年の39.0%までになっており、台湾の対外直接投資における対中国大陸のシェアは01年の38.8%から08年の70.5%までに高められた。台湾による両岸ECFA締結の推進はこのような対中輸出と対中投資の安定化に制度的な保障を与えるとともに、ECFA締結における台湾企業の優先的アクセス権の設定によって急拡大する中国内需市場からより多くの果実を享受しようとしている。優先的アクセス権確保は、中国市場における競争優位を獲得するだけでなく、台湾を日米欧企業や域内企業による中国市場開拓のベース基地にすることも狙っているようである。
- 両岸ECFA締結を踏み台にして、日米やアセアンなどの主要経済と自由貿易協定締結に繋げていくという台湾側のより中長期的な戦略が込められている。政治的な理由(中台対立)によって取り残された地域統合プロセスへの参加を手に、台湾を自由貿易のハブにすることを最適な目標としている。
- しかし、野党の民進党を中心に両岸ECFA締結のネガティブキャンペーンが強まっており、経済から政治へと両岸統一を加速させていく中国の政策や両岸関係における米国のかかわりもあり、今後の動きに目を離せない。
