中国の「台湾海峡西岸経済区」開発の戦略的推進
発行日 2009年10月16日
主席研究員 金 堅敏
一石二鳥を狙う「台湾海峡西岸経済区」(「海西経済区」と略称)開発
- 中国では、上海浦東新区、天津海浜新区、重慶市・成都市の都市農村総合改革試験区、武漢都市圏・長(長沙市)株(株州市)潭(湘潭市)都市群「資源節約型及び環境友好型」社会建設総合改革試験区と言った新たな地域経済社会発展政策が適用される地域開発政策を推進している。1980年代の経済開発を主たる目的とする「深せん特別区」の政策と違って、経済、社会、自然と調和の取れた「新特別区」の政策を掲げている。また、このような地域開発戦略は金融危機の対策にもなっている。09年5月には新たに「台湾海峡西岸経済区」(「海西経済区」と略称)の設置が中国政府に採用された。
- 「海西経済区」は04年1月に福建省政府によって提起されたが、5年の歳月を経て09年5月にやっと国家レベルの事業として戦略的に推進することが決定された。
- 「海西経済区」(カバーする人口は約6,500万人)開発の戦略的推進は、福建省、浙江省西南地域、広東省東北地域、江西省東部を含む、発展度合いが相対的に低めとなっている当該地域の開発を加速させる目的を持つとともに、中台融合を加速させ、中台統一を成し遂げる経済的、政治的な条件を整備するという「一石二鳥」を狙ったものである。
- 2012年までに「海西経済区」の一人当たりGDPを東部沿岸地域の平均水準まで引き上げ、台湾との直接「三通」(通商、通航、通信)のためのメーンルートの整備をほぼ完成し、2020年には「小康社会」(「いくらかゆとりのある社会」)の実現と、福建省と台湾との経済融合を一段と強くするという目標を掲げている。
- 戦略を推進するために、中央の資金によるインフラ整備や財政移転の増額、対台政策の先行実施や優先実施などの政策を与えている。
太平洋西岸の経済成長センターの建設
- 福建省を中心とする当該地域はほとんど丘陵地帯に属し、両岸対立時代の前線地域にもなっていたので国の開発計画から取り残された。80年代以降開発は加速されたが、経済開発の先頭に立った珠江デルタと長江デルタの谷間に立たされてしまった。例えば、隣の浙江省(総人口5,120万人)と広東省(総人口9,544万人)の一人当たりGDP(08年)はそれぞれ6,074米ドルと5,409米ドルとなっているのに対して、福建省(総人口3,604万人)は4,335米ドルに止まっている。「海西経済区」開発の戦略的推進によって発展の遅れを取り戻し、珠江デルタと長江デルタとの間の溝を埋め尽くすことによって、太平洋西岸の最大の成長地帯を形成させようという中国政府の長期発展戦略がある。
- 中央政府の各部門や関係地域の地方政府、民間企業は「海西経済区」開発推進に積極的に関わってきている。例えば、鉄道部は1,000億元以上(約1.4兆円)の資金を投じて海西経済域内の鉄道整備を進めており、交通部は域内の高速道路整備に多額を投じている。経済成長の先行都市である温州市の企業は福建省の寧徳市に30億ドル以上の投資を行っているという。「海西経済区」開発の政策推進は、目に見えた成果を表している。例えば、昨年から福建省のGDP成長率や住民の所得はいずれも浙江省と広東省を超えて伸びている。
中台一体化の推進
- 他方、台湾の馬英九政権樹立を契機に押し進められてきた中台交流の流れは、金融危機でさらに加速されるようになってきている。早期統一を狙う中国は、中台交流の流れを逆戻りさせないように中台間の融合を深めていく戦略である。双方の交流加速に前向きな国民党当局に対して、独立志向の強い民進党や台湾南部を中心とする一部の住民は根強い抵抗感を見せている。そこで、台湾と「五縁」(地縁、血縁、文縁、商縁、法縁)を有する福建省に台湾住民の心を引き付ける中心的な役割を期待し、中台交流の表玄関の役割を果たさせている。
- 実際、「海西経済区」開発戦略には台湾側に手厚い経済優遇政策を用意しているだけでなく、対台PRに必要な文化事業、人的交流促進事業、台湾側支配離島地域への給水、電力供給、通信ケーブルの敷設などの政策も含まれている。
- 中台統一の条件整備という政治目的とともに、台湾の資金、技術、人材、マネジメントノウハウを取り入れて「海西経済区」開発戦略に生かすことは中国の経済的な狙いである。これまで、台湾企業による対中投資(ストック)の約20%は福建省向けであったが、投資の大部分は登録資本で1,000万米ドル以下の中小企業で台湾大手企業の投資先にはなっていなかった。その要因は、「海西」地域の購買力が高くなく経済中心地域である長江デルタや珠江デルタと繋がりが弱いことと、「前線基地」での産業育成が遅れ、産業のサプライチェーンが形成されていないことが挙げられる。
- 上述した理由でこれまで「海西経済区」開発戦略に対して台湾側の反応は冷淡であった。しかし、中央政府による戦略推進の決定や金融危機により中国での新たなビジネスチャンス探しを急ぐ台湾側(政府と企業)も積極的な対応に転じつつある。中国の中間層市場開拓を急ぐ日系企業も台湾企業とともに「海西経済区」開発計画にビジネスチャンスを探ることは意味がある。
