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中国における重慶市開発の戦略的推進

発行日 2009年10月16日

主席研究員 金 堅敏


動き出した重慶大開発戦略

  • 重慶市は1997年に四川省から独立し、北京、上海、天津と並ぶ内陸部唯一の中央直轄市として設立された。直轄市設立の目的は、「4つの課題」(三峡ダム建設による百余万人の住民移転、貧困層の貧困脱却、国有企業改革、環境汚染の改善)の解決であったため、重慶市は人口密集の市中心部、中小町と広範な農村地方からなっている。総人口(戸籍ベース)3,257万人のうち、都市人口は907万人(総人口の28%)で農村人口は2,350万人(72%)となっており、「大都市」と「大農村」が並存したいびつなマンモス大都市となっている。
  • 直轄都市になってから10年あまり経って、設立当初に意図された目的はほぼ達成されたと評価することができる。しかし、進んだ沿岸部と比べ開発の度合いは遅れており、行政域内の都市部と農村部の格差(所得格差、福祉格差、公共サービス格差など)も開いたままであり、中国でいう社会の「二重構造」となっている。例えば、重慶市の一人当たりGDPは全国平均の73.7%(97年)から75.1%(07年)までにしか上昇していなかった。一方、市内の都市部と農村部の市民所得格差(都市住民一人当たり可処分所得/農村住民一人当たり純収入)は、97年の3.15倍から07年の3.91倍に拡大した。
  • 「科学的発展」を掲げ、均衡の取れた発展を目指す胡錦濤政権は、西部大開発の牽引役、都市農村の「二重構造」解消の先行ケース、内陸型対外開放のモデル地域として重慶市の開発を加速させ、西部地域の開発目標達成の優先地域として指定した。08年9月米国に端を発した金融危機後は、重慶市の開発政策は内需主導の経済戦略に組み込まれ、国家戦略として位置づけられた。
  • 2009年1月26日に出された『国務院の重慶市都市農村統一総合改革と発展に関する意見』などによると、次の10年間にわたる重慶市開発の目標として、中期的には2012年までに一人当たりGDPや公共サービス能力を全国平均レベルに引き上げ、都市部住民と農村部住民の所得格差を3.15倍(97年の水準)に低下させることなどを掲げた。また、長期目標としては2020年に一人当たりGDPを全国平均以上にすること、都市住民と農村住民の所得格差を2.5倍までに縮小させること、都市化率(都市住民/農村住民)を現在の50%から70%までに引き上げることなどを掲げた。08年の常住人口2,839万人で計算すると、都市部常住人口は08年の1,420万人から20年の1,987万人になり、世界最大級の都市規模となろう。農村住民、出稼ぎ労働者、都市住民の間の権利、公共サービス、生活条件を同等にするのが開発戦略の究極の目標とされている。

「12+10」の特別支援政策

  • 重慶市開発の戦略的推進に当たって重慶市が求めた12個の優遇政策に加え、中央政府から別項の10個の政策を与えられた。
  • 重慶市が求めた政策は、(1)特定産業を奨励するための企業所得税率優遇、(2)重慶市への中央交付金の拡大、(3)三峡ダム地域への投資増額、(4)都市農村を一体化させた社会保障システム整備への支援、(5)柔軟な土地利用政策の許可、(6)「重慶農村土地取引所」の設立、(7)長江上流地域の金融ハブの指定、(8)内陸型経済開放区の設立、(9)保税区の設立、(10)教育事業への支援強化、(11)インフラ整備への特別支援、(12)「退耕還林」(耕地を林地に戻す)プロジェクトの継続実施(中国では2007年に耕地を確保するためこれまで実施してきた「退耕還林」を停止した)の12項目である。
  • 別項として中央政府から特別与えられた政策は、(1)三峡ダム発電用の水資源税の導入、(2)都市中心部の緑化用地への「只徴不転」(用地規制の不適用)政策、(3)農村金融革新への支援強化、(4)近代牧畜業モデル地域設立への支援、(5)重慶の二輪車への「家電下郷」(農村への家電普及プロジェクト)政策の対象品目化、(6)サービスアウトソーシングモデル都市の指定、(7)産業投資ファンドの設立許可、(8)低収入人口に対する長期の貧困対策、(9)「生産型増値税から消費型増値税への移行」などの東北地方旧工業地域政策の適用、(10)鉄道、高速道路、港湾施設、空港などのインフラ整備の前倒し実施の10項目である。

戦略の実行

  • 09年6月に開発戦略の実施プランが中央政府に承認された。都市化・産業化の推進、公共サービスシステムの整備、新たな都市管理制度の確立が重点となり、中国初の「農村土地取引所」が開設されるなど、一部はすでに実施されている。これから5年間の都市化関連だけで1.3兆元(約18兆円)の投資が計画されている。
  • 最後に注目されているプロジェクトを三つ紹介する。
  1. 三峡ダム地域の開発:100万人を超えた三峡ダム移民の生活基盤の整備、産業の振興、生態環境の整備のプロジェクトを実施。そのため中央政府から1,000億元(約1.4兆円)の投資資金が用意されているという。
  2. 長江上流の総合物流交通センターの整備:1,000キロの鉄道建設、高速道路1,000キロの建設に着手、空港の拡張や万トン級船舶接岸可能な港湾の整備を開始。特に運営中・建設中を含む「1環9線」の10線路の513キロに及ぶ都市交通網の整備が計画されている。完成すれば、北京、上海に次ぐ大規模な都市交通網が出来上がる。
  3. 内陸型経済開放区と保税区の設立:年内に内陸部初、上海洋山保税港区と同等の政策が適用される保税区の運営を開始。また、上海浦東新区、天津浜海新区と同等の政策がなされる「両江新区」(1,000平方キロ)が間もなく設立される。