富士通総研

  1. ホーム >
  2. 調査・研究成果 >
  3. 中国通 >
  4. トピックス >
  5. 2009年 >
  6. 中国で再燃する「民工荒」(ワーカー不足)現象

中国で再燃する「民工荒」(ワーカー不足)現象

発行日 2009年10月9日

主席研究員 金 堅敏


景気の波に浮き沈む出稼ぎ労働者

  • 中国国家統計局によると、2008年12月末時点で中国の農村部から都市部に出かける労働者たる「民工」は、22,542万人に達した。うち、遠地に出かける出稼ぎ労働者たる「外出民工」は全体の62.3%で14,041万人である。「外出民工」の流出地別では、中部(湖北省、安徽省、江西省など)、西部(四川省、重慶市など)、東部(山東省などの沿岸部)がそれぞれ37.6%、32.7%、29.7%を占める。受け入れ地域別では、東部、中部、西部はそれぞれ71.0%、13.2%、15.4%となる。東部沿岸地域が中部、西部の余剰労働力を吸収した構図である。
  • 海外企業の中国への大規模な産業移転や中国経済の高度成長に伴い、2003年ごろから労働力不足問題が生じ、2004年ごろには全国的な「民工荒」(労働者不足)が顕在化し、労働争議が多発し、賃金上昇も急ピッチとなった。労働不足の度を増した状況に関して、中国社会科学院などのシンクタンクの多くは中国の労働力の供給量は限界に達し、労働力の絶対量の供給不足時代、いわゆるルイス転換点に差し掛かった可能性が高いと結論づけた。
  • ところが、2008年9月米国に端を発した金融危機は、世界中の経済危機を引き起こし、中国の輸出産業に大きな打撃を与えた。2009年1月の「春節」ごろには、「外出民工」1.4億人のうち約2,500万人がリストラされ、再就職できない失業者となってしまい、「民工慌」(就職難)が吹き荒れた。金融危機による深刻な影響を受けた地域は輸出産業の多い沿岸部で、産業では製造業と建築業でリストラが多く見られた。
  • しかし、中国経済のV字型回復に伴い「外出民工」はむしろ増え続けた。国家統計局によると、09年6月末現在、「外出民工」数は、15,097万人で08年末より1,056万人増えたが、うち97%は就職ができ、3%の約420万人はまだ職探し状態にある。実際、労働力の需給関係は「民工慌」から「民工荒」へ変わりつつある。
  • 中国の報道によると、09年4月ごろから沿岸部で顕在化した「民工」不足問題は内陸部地域まで波及し、全国的な「民工荒」現象が再び見られるようになった。たとえば、09年8月深せん市の募集者数59万人に対して求職者は47万人に止まり、12万人の労働者不足となり、求人倍率は1.25倍に達している。昨年からの不況で約200~300万人の出稼ぎ労働者をリストラした広東省東莞市では、09年第一4半期の平均求人倍率は0.75であったが、8~9月では1.5倍に急増した。このような「民工荒」現象は沿岸部に止まらず、四川省や重慶市などの内陸部でも「民工」を奪い合う状況にあるという。

「民工荒」は本物か

  • 09年半ばからの「民工荒」現象について中国では様々な解釈がなされており、以下のようにまとめられる。
  1. 昨年の金融危機後に大規模な人員削減を実施したが、年初からの増員計画が慎重になっており、海外の在庫補充、クリスマス特需などに対応するための生産に必要な労働力が足りなくなった。つまり、一時的な労働力の需給関係が崩れているかもしれない。つまり、部分的には季節要因が挙げられる。
  2. 中国政府の内需振興政策が労働力の需要を引き起こし、特に農村振興や西部開発・中部開発の加速などは労働力の逆戻りを生じさせている。実際、09年6月末の地域別「外出民工」の受け入れ地域別割合では、東部は66.7%で08年末より4.3%減っており、中部と西部はそれぞれ1.5%と2.8%増となっている。
  3. 求職者たる「民工」の世代交代によるものである。現在、「民工」の7割以上は「80後」(80年代以降出生者)、「90後」であり、これらの「民工」世代は、給与や福利厚生に満足せず、作業環境やキャリアアップなどをも求め始めているが、採用側はこのような変化に対応しきれていないのである。つまり、多少の給料を上げても環境が良くなければ応募者が集まらなくなる。一部の企業は寮にインターネットの利用可能な環境を提供するなどの対策を取り始めているのもこのような変化を読み取ったためである。
  4. 「民工」の創業ブームも「民工荒」をもたらす一因である。金融危機後、中国政府は「民工」の職業訓練、創業融資、規制緩和、企業登録の簡素化などの諸政策を取り、「民工」の自主創業を奨励した。その政策が功を奏し、その身分は「民工」から自営業者や事業者に変身した。また、一部のベテラン「民工」も出稼ぎ先で身につけた技能を地元の事業に生かして成功する事例は多く見られた。
  5. 情報の不足やコミュニケーションが不十分で「民工」側と募集企業側のミスマッチ問題があった。

  • 「民工荒」現象について中国政府は、国内外の経済回復に伴う労働力需要の増加をあらわしたもので局地的な現象にすぎないというスタンスを取っている。確かに、09年8月現在都市部の失業者数は約910万人に達しており、大学卒業生の未就職者数も300万人を抱えており、中国の労働力不足問題は、若くて賃金の低く作業環境の悪い「民工」に限って言える現象であり、全国的な厳しい雇用状況は変わらないと言えよう。