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ぶれる中国のネット規制の背景―消費者保護か情報統制か

発行日 2009年7月24日

主席研究員 柯 隆


インターネットは情報を伝えるには便利な道具だが、同時に、その情報の信憑性が検証されないため、無責任な書き込みも多い。とくに、インターネットを悪用し、わいせつな画像を流すなど犯罪の温床になっていることも事実である。要するに、インターネットの利便性を追求するあまり、そのルール化が遅れている。

そこで中国政府が考え付いたのは新規発売されるすべてのパソコンにGreen Dam Youth Escortという検閲ソフトの導入を義務付ける。その大義名分として青少年を有害サイドから守ることといわれるが、7月1日に導入を義務付ける直前に、同措置が延期された。

ネット時代の政府の役割

  • インターネット利用のルール化が必要であることは間違いないのだが、それがすべて政府の役割かどうかについて大いに疑問として残る。日本でもインターネットで犯罪や自殺を呼びかけたりする書き込みに対する摘発が強化されている。しかし、犯罪やわいせつの取締りといったネットの浄化が必要であるとはいえ、政府が一律にネットを検閲するとなると、明らかに行き過ぎ行為といえる。
  • インターネットはすべての利用者にとって利用しやすい便利なものでなければならない。そのなかで、どうしても有害な情報を流すサイトがあれば、そのプロバイダーが自らのサイトの浄化に責任を持つべきである。今回の規制の間違ったところは、有害情報源を摘発する代わりに、情報を利用する消費者が逆に規制を受けることにある。
  • 消費者が規制を受けることから今回導入されるソフトが「検閲ソフト」と呼ばれるゆえんである。政府は何を規制すべきか、どこまで規制すべきかを再検討しなければならない。何よりも、有害の情報の定義を明らかにしなければならない。
  • ちなみに、現在の中国では、ポルノ規制関連の専門法は存在しない。こういった有害とされる情報はインターネットを通じて広がっているほか、新聞や雑誌などの小説の連載でも性的描写が増えている。なぜそれは規制の対象とならないのか。結論的に、わいせつな画像や文字は有害であることは明らかだが、その定義を明らかにし、摘発と取締りを行うべきである。

不透明な政府の買付け

  • これまでの中国なら、導入と決めた以上は政府の威信を示す必要性からどんな批判があっても導入しただろう。今回は検閲ソフト導入の前日に突如として延期が伝えられた。これは中国では異例のことである。現在の中国では、言論の自由が不完全ではあるが、政府が世論に配慮せざるを得なくなったのは大きな進歩といえる。
  • 一方、市場経済では、政府はすべての買付けは公開しなければならない。今回、工業信息部(工業情報省)はなぜGreen Damのソフトの導入を決めたのかについて一切の説明をしていない。4,000万元(約5億円)もの買付けが秘密裏に行われたのは批判を集める背景の一つである。
  • さらに、当該ソフトの有効性に関する疑問も残る。すなわち、工業情報省の知らせによれば、すべてのパソコンに当該ソフトを導入する義務があるが、アンインストールすることも簡単にできると書かれている。もしそれが事実であるとすれば、当該ソフトの搭載を義務化する意味はほとんどなくなる。

ポルノ規制と言論の自由の両立

  • 今回の検閲ソフト導入の事例は中国社会に重要な疑問を投げかけた。すなわち、わいせつな画像や文字が氾濫している現状においてどのように取り締まればいいかということである。恐らくポルノ規制は工業情報省の仕事ではなく、全国人民代表大会(国会)で立法を急ぐべきである。
  • 他方、言論の自由は憲法上保障されている国民の権利としていかなる理由でもそれを妨げるべきではない。インターネットで犯罪を扇動することは許されないが、国民(納税者)が政府を批判することはあってしかるべきことである。こうした批判は必ずしも正しいとは限らないが、国民の監督を拒む政府なら、市場経済を導入すべきではない。
  • 最後に、今回の検閲ソフトの導入を通じてみえたのは、政府が市場参加者との条件交渉にすこし悩んでいることだ。工業情報省はネットの情報を安易に規制できると勘違いし、Green Damソフトの導入を決断したのだろう。しかし、胡錦濤政権は「和諧」社会(調和の取れた社会)作りを宣言している。「和諧」というのは政府と国民の相互信頼関係の醸成である。工業情報省は「和諧」社会の構築を妨げようとは思えないが、結果的に、それを妨げている。