グローバルシンクタンクサミットから見た中国の戦略
発行日 2009年7月10日
主席研究員 金 堅敏
世界初のグローバルシンクタンクサミット
- 世界初のグローバルシンクタンクサミット(Global Think-Tank Summit:GTTS)が中国北京で09年7月2日~4日にわたって開催された。「人類の知恵を共有し、世界の発展を求める」をテーマに、各国から100を超える有名シンクタンクやIMF/世界銀行などの国際機関、グローバル企業の経営者などの代表らをはじめ、中国の内外から900名以上の参加者が集まった。
- 海外からは、ブローディ・前EU委員会委員長/前イタリア首相、キッシンジャー・元アメリカ国務長官、1999年ノーベル経済学賞受賞者で「ユーロの父」と呼ばれるマンデルコロンビア大学教授、グラミン銀行の創設者で2006年ノーベル平和賞受賞者であるムハメド・ユヌスサントン氏、IMFの加藤隆俊副総裁、アメリカ・ブルスキン財団ジョン・ソーントン会長(Chair of the Brookings Board of Trustees、元ゴールドマン・サックス社長)、国連貿易開発会議(UNCTAD)のスパチャイ事務局長、石油輸出国機構(OPEC)のバスコンセロス議長(アンゴラ石油相)などの重量級オピニオンリーダーが会議に出席し、演説した。また、米国、EU委員会、日本(経済産業省岡田通商政策局長ら)、ロシア、フランス、インドなどの政策当局やシンクタンクの代表らも出席した。
- 中国国内からは、李克強副首相をはじめ、人民銀行総裁をはじめ中央政府主要官庁の大臣や次官、有力シンクタンクの責任者、大企業の経営者、国内の有力なオピニオンリーダーが揃って参加し演説を行った。
- 本サミットのプログラムには、メインフォーラムと、5つに分かれるサブフォーラムが設けられた。メインフォーラムの議題は、グローバルレベルの金融危機と世界経済の展望であり、主として金融危機の対応策と今後の展開の分析および、金融危機が経済のグローバル化と地域化に及ぼす影響への予測である。サブフォーラムの議題は、貿易の自由化および投資手続きの簡素化、持続可能な発展とマクロ経済政策、金融危機下の多国籍企業の協力と責任、グローバルレベルの貯蓄と消費および金融の安全、重大な経済問題とシンクタンク間の協力であった。金融危機の対応や持続的な経済成長に関するグローバルイシューのほとんどがカバーされていた。
- 今回のグローバルシンクタンクサミットの開催に関して日本を含む海外メディアではあまり報道されていないが、中国のメディア(ネットによる実況中継を含む)は総力を挙げて詳細に報道されている。また、中国のメディアは国内向けに止まらず、英語、日本語、フランス語、スペイン語、ドイツ語などで海外に積極的に発信している。
- 議題の設定や会議の運営から当該サミットを主催にした中国側の狙いは、1)金融危機後の世界経済秩序形成への積極的参加、2)自国の経済政策のアナウンスメント、3)自国の経済政策形成や運営に対する海外の知恵の拝借、などである。特に、1)金融危機後の世界経済秩序形成への積極的参加を決心したことは、自国の経済開発に専念する「韜光養晦戦略」(才能を隠して外に現さない)の終焉に近づいていると理解されよう。GTTSに関する中国の決定は、グローバルな地位を向上させるという狙いがあるとは言え、国際社会における責任を承知した上でグローバルな舞台に上がる意志の表れと言えよう。実際、今回サミットの中国側の主催者である「中国国際経済交流中心」(China Center for International Economic Exchanges :CCIEE)は主にグローバル経済政策の研究を主たる目的として設立されたシンクタンクであり、上述した目的を達成するための拠点になろうとしている。
アジアないしグローバルの政策発信地を目指す「中国国際経済交流中心」
- 中国の政策研究機関である所謂シンクタンクは2,000余りあるが、基本的には経済理論の研究や国内経済の研究に偏っている。09年3月に設立されたCCIEEは主に国際経済政策の研究に重点を置き、どこの所管官庁にも属さない統合的なシンクタンクである。
- 曾培炎前副首相を理事長として、現職大臣・次官や経験者、大企業経営者、著名なエコノミストなどからなるCCIEE理事会は中国ではもっとも格の高いシンクタンクである。CCIEEの研究テーマ設定は独自で行い、研究予算は財政からではなく民間からの寄付や受託研究に徹して、独立シンクタンクを目指すという。ちなみに、寄付によって設立されるファンドの目標は5億元(約70億円)を目指している。
- CCIEE設立の目的の一つは、グローバル経済と関わる国内政策の研究である。米国などの先進国のようにシンクタンクによる政策提言からメディアによる社会的議論へ、そして国会証言を経て、政府の政策形成になると言った客観的事実に基づく政策決定とプロセスの民主化を目指すことである。
- 他方、CCIEEのより重要な役割は、知的分野の対外PR拠点にあり、中国のソフトパワー形成に寄与することにある。中国のメディアでは、シンクタンクという特別な立場を生かして国際社会や他国の政策形成に影響力を発揮するという期待論さえ聞かれる。このように内外からCCIEEの活動は大いに注目されよう。
