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BRICsサミットの意味と課題

発行日 2009年6月26日

主席研究員 柯 隆


ポスト金融危機の新たな世界秩序の形成

  • 1980年代末以降の経済のグローバル化は言ってみればアメリカ化というものだった。WTOにおけるウルグアイラウンドに代表されるように、そのルール作りのほとんどは米国の価値観に基づくものであり、米国の利益を優先するような枠組みになっている。
  • 10年前のアジア通貨危機で、すでに教訓として明らかになっていることだが、世界経済が過度に対米依存することはリスクが大き過ぎるということである。それにもかかわらず、以来世界経済の対米依存はそれほど是正されていない。今回の金融危機をきっかけに再び同じ構造問題が露呈してしまった。
  • こうしたなかで、世界で最大の潜在的な市場を誇るBRICsがロシアで独自サミットを開催するというのはある意味では米国を中心とする現在の世界秩序に対して挑戦状を叩き付けたようなものである。すなわち、BRICsは今後、新たな世界秩序を形成するにあたり、積極的に関与していくという意思表示が今回のサミットでなされた。
  • 現在、世界が直面するほとんどの問題はBRICsの協力なくしては解決されないものばかりである。第1に、金融危機を乗り越えるために、萎縮している米国市場を補完するBRICsのさらなる市場開放が不可欠である。第2に、地球温暖化を食い止めるために、BRICsの努力が不可欠である。第3に、ポスト金融危機の国際貿易・投資・通貨体制の再構築も潤沢な外貨資金を保有するBRICsの協力が必要である。

BRICsサミットの狙い

  • しかし、BRICsがどのような姿勢でポスト金融危機の世界秩序の形成に臨むかは必ずしも定まっていない。何よりもBRICsの4カ国がばらばらになった場合、その力を十分に発揮できなくなる。そこで今回のサミットの最重要な意味はBRICsが互いに協調して世界の平和と繁栄を担保するもう一つの軸になることにある。
  • 米国の研究者の間で今後の世界秩序は米中を「G2」とする体制になるとの指摘がある。5月に欧州を訪問した温家宝首相は中国が米国と協力してG2になることはないと明言している。そもそも中国脅威論が盛んにいわれているなかで、G2構想に賛同することは中国にとって得策ではない。それよりも、上海協力機構やBRICsといった枠組みのなかで中国はリーダーシップを発揮しやすい。
  • ただ、BRICsサミットは今回はじめて開かれた会合であり、最終的にどのような形で協力していくかについて明らかになっていない。何よりも、BRICsがどのような目的で協力するかについては定まっていない。今回の会合では、持続可能な経済成長を目指すために、グローバルレベルでBRICsの発言権を強化していくことで意見が一致したようだ。
  • 第1に、地球温暖化を食い止めるための種々の規制について先進国により多くの負担を求めていく。BRICsは途上国として努力するが、義務としての目標によって制約を受けないとしている。
  • 第2に、資源のプライシング(価格付け)を合理化するために、BRICsとしては積極的に関与していく。
  • 第3に、グローバルの金融システムを安定させるために、ドルの基軸通貨体制に代わり、新たな通貨体制を模索していく。そのために、BRICsがIMFへの出資を増やしていく。

残された課題と今後の展望

  • BRICsが積極的に世界経済に貢献しようとしているのは望ましいことだが、現段階では、その役割がやや過大評価されているのではないかと思われる。まず、BRICsのいずれも構造的には対外依存型であり、国内の産業構造は必ずしも安定していない。そして、BRICsの潜在需要は大きいが、国内の市場機構は十分に整備されておらず、その潜在需要が実需に転換できるかどうかは明らかではない。さらに、資源や製品の輸出によって潤沢な外貨資金を保有するようになった一方、輸出市況の影響を受けやすいという弱点を抱えている。それに加えて、BRICsの国内政治体制はいずれも弱点を抱えており、これから思い切った政治改革が求められている。
  • こうしたなかで、BRICsがダイナミックなグローバル経済にコミットし、一丸となって重要な役割を発揮するためには、BRICsのなかで中国が強いリーダーシップを発揮することが求められている。現段階では、経済面において中国は重要な役割を果すことになると予想される。問題は中国がBRICsを率いてどこに行こうとしているのかである。米国を中心とするグローバル社会とBRICsとの調和こそ世界の平和と繁栄を担保するキーポイントである。