信頼回復を目指す中国の「食品安全法」
発行日 2009年6月26日
主席研究員 金 堅敏
中国の食品安全性問題
- 中国産ペットフードの有毒物質汚染(米国)、殺虫剤の残量基準値を超えたキノコ(米国)、中国産冷凍ギョウザ中毒(日本)、抗生物質含有の中国産水産物などが報道されたように、近年、海外における中国の食品安全性問題が大きくクローズアップされ、中国産食品に対する海外消費者の不信感が募っている。実際、米中、EU・中国、日中の政府間対話にも中国の食品安全性問題が議題の一つになっている。
- ミルクのメラミン混入など、中国国内で食品をめぐる品質や安全性問題が多発し、自国食品への不信感は日増しに高まってきている。日本産粉ミルクなど、品質のよい海外製品を求める中国の消費者も増加する一方である。
- 中国の食品安全性問題を生じさせた原因としては、産業の集中度が低いこと(中小企業が約40万社ある)、官業癒着を含む地方保護主義が蔓延していること、競争激化で生産者のモラルが低下したこと、消費者の安全意識が低いこと、などが考えられる。
- このように中国の食品安全性問題はもはや国民の健康被害や国際的なイメージ悪化にとどまらず、社会不安をもたらし政権基盤をも揺るがしかねない水準に達したと言える。中国当局は、このような食品安全性の深刻さを認識し、様々な対策を取っているが、その集大成として1995年に実施された「食品衛生法」の改修正とともに数多くの新規制度を加えた「食品安全法」(2003年5月に制定された日本の「食品安全基本法」に相当する)を制定し、2009年6月1日に施行させた。
「食品安全法」の構成と特徴
- 中国の「食品安全法」は、食品安全にかかわる各主体の責任、食品安全上のリスク監視と評価、食品安全基準、食品生産・流通・販売の責任、食品検査、食品の輸出入、食品安全上の予防や事故処理、処罰規定などの10章、104条からなる。立法政策や実体規定からは以下のような幾つかの特徴が読み取れる。
- 食品安全委員会の新設と所管官庁責任の明確化
食品安全に関する行政機関の連携不足や所管官庁の責任範囲の曖昧さを解消するため、国務院(内閣)に直属の食品安全委員会を新設し、省庁への指揮監督や連携を強めようとしている。 - 食品に関する国の食品安全基準の統一
これまで中国で農薬残留基準など内容の異なる各省庁独自の基準が少なくない。食品関連企業に規制順守のコスト増をもたらすだけでなく消費者にも混乱を生じさせている。「食品安全法」では強制規格に関する内容はすべて国家基準(GB)に統一される。 - 食品安全リスク評価制度の確立
中国では、食品安全性と関係ない風評被害も数多く見られる。各分野の専門家による食品安全リスクの評価を行わせ、科学的・客観的な情報を発信することによって食品企業を風評被害から守り、消費者に安心感を与えようとしている。 - 食品の「検査免除」制度の廃止
中国では、メラミン混入事件の震源地である「三鹿集団」のように一部の大企業や有名企業も「問題食品」を作り出している。これらの大企業や有名企業は、品質監督官庁から品質検査免除の特別待遇を受けていた。メラミン混入事件のように消費者はこのようなお墨付きの「安全製品」に裏切られたのである。このような苦い経験から「食品安全法」では食品の「検査免除」制度自体を廃止したのである。 - 「問題食品」のリコール制度の確立
「問題食品」のリコールは、2007年に国家品質監督局の公布した「食品リコール管理規定」によって実施されているが、「食品安全法」は、食品安全の第一責任者であるという義務を生産者に初めて法律レベルで規定したのである。同法は、「問題食品」の自主的なリコールを喚起し、行政に企業にリコールを命令する権限を与えている。 - 損害賠償金の引上げ(10倍)
消費者は、「問題食品」による権利侵害があった場合にこれまでの同等額の損害賠償請求(「消費者保護法」による)から損害額の10倍の請求権が設定された。損害賠償金の引上げによる食品生産者や販売業者への抑制効果が期待されている。
実効性の確保が問題
- 以上見てきたように中国の食品安全確保の法制度整備はかなり進んでおり、他国と比べても遜色ないが、問題は、これらの制度や規制がいかに実効的に運営されるのかである。特に、地方政府の保護主義をいかに打破していくのか、低コストで消費者の権益保護をいかに実現させるのか、食品メーカーや販売業者の品質管理能力向上や消費者の安全意識向上をいかに実現させていくかなどの課題が残る。
- また、中国の「食品安全法」では食品の輸出入についても数多く規定されている。基準規格のハーモナイゼーション、国境を超えた輸送段階での安全性確保、食品安全にかかわる紛争解決メカニズムの確立などの課題も残る。
