日中ハイレベル経済対話を読む
発行日 2009年6月19日
主席研究員 金 堅敏
日中関係の位置づけと「日中ハイレベル経済対話」
- 日本の小泉元首相の在任中(2001年1月~2006年9月)に日中関係は国交回復後最悪の状態にあったが、2006年10月の安倍首相訪中で首脳会談が実現し、日中関係は雪溶けに向かった。その後、2007年4月に中国の温家宝首相が訪日するなど首脳会談や各レベルの交流を通じて日中関係は徐々に正常な状態に戻ってきた。
- 2006年10月の安倍首相の訪中で日中両国は、これまで曖昧になっていた二国関係を「戦略的互恵関係」(Mutually Beneficial Relationship Based on Common Strategic Interests)と位置づけた。2009年4月に米中首脳会談で確認された米中関係の位置づけである「積極的、協力的、全面的な米中関係」(Positive, Cooperative and Comprehensive U.S.-China relationship)や2003年10月にEU-中国サミットで確認された両者の位置づけである「全面的戦略パートナーシップ関係」(Comprehensive Strategic Partnership)と比較すると、日中両国の位置づけは二国間関係や相互間の利益追求に置かれているように思われる。両首脳は、「戦略的互恵関係」を経済面で具体的に展開させるため、大臣級対話の推進に合意した。
- 2007年4月の温家宝首相の訪日で先に合意された経済分野での大臣級対話を制度化する「日中ハイレベル経済対話」(Japan-China High-Level Economic Dialogue、以下HLEDと略)を立上げた。2007年12月に第一回目の日中HLEDが行われた。HLEDの立上げは、2006年12月にスタートした「米中戦略経済対話」(大臣級)より遅れたが、2008年4月にスタートした「EU‐中国ハイレベル経済貿易対話」(副首相級)よりは早かった。「米中戦略経済対話」と「EU‐中国ハイレベル経済貿易対話」の立上げの契機はともに貿易不均衡問題や為替問題などの構造的な問題にあったが、日中間に大きな貿易不均衡が生じていないので、HLEDは知的財産権保護や対中ODA終了(2008年)後の日中経済協力などにあった。また、米中、EU‐中国の対話は年一回の定期的対話を明確にしているが、日中HLEDは定期的な制度になっておらず、継続的な実施しか合意されていない。
- 2008年5月の胡錦濤主席の訪日で日中両首脳は、「『戦略的互恵関係』の包括的推進に関する日中共同声明」を出した。声明では、日中HLEDについては、「日中ハイレベル経済対話を戦略的かつ実効的に活用していく」ことが訴えられた。
「日中ハイレベル経済対話」の実態
- 日中HLEDの対話内容について明確な合意文章はなかったが、2007年4月の立上げ会合で両首脳や双方の関係閣僚の発言から、1)両国経済の発展戦略とマクロ経済政策、2) 省庁間を跨る経済協力や諸課題、3)地域或いは国際的な経済政策や経済問題が対象になると整理されるが、総じて中国側は戦略的で中長期的なテーマに重点を置き、日本側はより具体的、目に見えるような短期的なテーマにより大きな関心を持ったように読み取れた。
- 2007年12月に北京で行われた第一回目の日中HLEDに関するプレス・コミュニケによると、日中双方のマクロ経済、貿易・投資上の問題、気候変動を含む環境とエネルギーの問題、地域及び国際社会の経済問題について対話が行われた。意見交換に止まった対話内容は多かったが、日本側は、エネルギー・環境分野における日中協力(中国の温暖化対策枠組みへの参加、中国の省エネ・環境市場への参入等)、中国における知的財産権保護(模造品対策、植物品種保護など)、日本産米などの農産物の対中輸出の拡大に、中国側は日本側による中国の完全な市場経済地位(China's full market economy status in WTO)の承認、ハイテク製品や技術分野の対中輸出規制緩和、中国の農産物の対日輸出の拡大にそれぞれ強い関心を持った。
- 理由は定かではないが、2008年末に行われる予定だった第2回HLEDは2009年6月7日に延期され東京で開催された。金融危機の最中なので、対話の議題は、1)世界経済金融情勢と対応、2)貿易・投資分野の課題、3)環境・エネルギー分野での協力、4)地域・国際経済問題などで進展が見られた。対話を通じて知財保護の強化など11の合意・協力文書が交わされたが、対話の中心は、中国の個別政策のレビューのようなものであった。例えば、中国のITセキュリティー製品の強制認証問題、中国の知財侵害問題、中国製冷凍ギョウザ問題、中国の次期気候変動枠組みにおける参加のあり方、などであった。中国側の姿勢は消極的とも言える非常に控え目なものであった。例えば、2009年5月に行われたEU‐中国のハイレベル経済貿易対話でも中国側が強く主張した市場経済地位の認定やハイテク技術の対中輸出規制緩和について中国側は持ち出さなかった。結局、共同の記者会見だけで、第一回目のようなプレス・コミュニケは発表されなかった。
- このように、日中HLEDは、「戦略的互恵関係」を経済面で支える重要な枠組みとして位置づけられており、かつ戦略的及び実効的に活用していくことが訴えられているが、実際の対話においては、戦略的な意味合いが薄く、短期的でホットなイシューに集中し、地域ないしグローバル問題への取組みも手薄になっているように思われる。短期と長期、二国間と地域・グローバル間の対話イシューのバランスが求められる。
