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EU‐中国ハイレベル経済貿易対話を読む

発行日 2009年6月19日

主席研究員 金 堅敏


EU-中国サミットの定期開催とEU-中国関係の位置づけ

  • EUと中国との間では様々な対話チャンネルが確立されているが、もっとも重要なのはEU-中国サミットである。中国のWTO加盟に備えて、1998年1月にEUは中国に対して定期的なEU-中国サミットの開催を提案し、提案に応じた中国と同年4月にロンドンで初めてのEU-中国サミットを開催した。EUと中国は「長期的に安定した建設的パートナーシップ関係」の確立に向けて、年一回の首脳会議開催に合意した。
  • その後、EU-中国サミットは毎年開催され、世界的な政治・経済・社会環境の変化とともに議題も年を追って変わってきた。2003年にEUと中国はEUと中国との関係についてそれぞれ政策白書を公表し、EUと中国との「全面的戦略パートナーシップ関係」を発展させることを表明した。この「全面的戦略パートナーシップ関係」は、2003年10月に開催された第6回サミットで確認された。
  • EU-中国サミットは、適時二国間・多国間のイシューについて対話を展開してきたが、分野別の議題を深めるために、様々なサブ対話チャンネルを確立して「全面的戦略パートナーシップ関係」の肉付けを行った。例えば、2003年の第6回サミットで確立されたEU-中国環境大臣対話、2005年の第8回サミットで確立されたEU-中国戦略対話(外交次官級)とEU-中国エネルギーと交通分野戦略対話、2006年の第9回サミットで確立されたEU-中国アフリカ問題対話など様々である。
  • 2005年前後からEUの対中貿易赤字が急増し、EU域内から中国の貿易政策への批判が高まった。欧州の保護主義の台頭を危惧した中国の提案により、2007年の第10回サミットで貿易・経済分野における対話チャンネルである「EU-中国ハイレベル経済貿易対話」(EU-China High-Level Economic and Trade Dialogue:HED)制度の創設に双方は合意した。

EU‐中国間の貿易状況

  • 現在、EUは中国にとって最大の貿易相手となっているが、中国はEUの第2位の貿易パートナーであり、最大の製品輸入国となっている。EU・中国間の貿易拡大に伴い、EUの対中貿易赤字は2001年の513億ユーロ(約457億ドル)から2008年の1,692億ユーロ(約2,487億ドル)に急増した。同時期に米国の対中貿易赤字は831億ドルから2,663億ドルに拡大したので、EU対中貿易赤字問題は米中間と同等な深刻さを有する。ただ、EUにとって中国は成長率のもっとも高い輸出市場となっており、2004年~08年の4年間で輸出は52%も伸びた。
  • 他方、高度な経済成長をしているにもかかわらず、EUの対中(人口13億人)輸出額は人口750万人しかないスイスにも及ばないので、対中輸出の潜在性は非常に大きいとEUは見ている。実際、EU委員会は、中国のEU製品に対する貿易障壁は210億ユーロに相当すると推定している。また、EUの強みであるサービス分野の対中貿易黒字(2007年)は39億ユーロしか獲得しておらず、貿易赤字の1/43しかなかったので、中国のサービス分野の市場開拓も極めて重要な意味を持つと見られている。
  • さらに、中国で活動しているEU企業の10社中7社は自社の知財に対する侵害を受けており、その知財侵害総額は、中国におけるEU製造業の潜在的な収入の20%にも上っていると言われている。

「EU-中国ハイレベル経済貿易対話」(HED)の活動

  • 上述したように、EU-中国サミットで決定されたHED(副首相級、年一回開催)制度は、2008年4月に正式に設立された。EUは、HEDの役割をEU/米国大西洋経済委員会(EU-US Transatlantic Economic Council)と同等なものと見なしているが、中国側からはHEDを2006年12月に開始された米中戦略経済対話(US -China Strategic Economic Dialogue)及び2007年4月に開始された日中ハイレベル経済対話と同等の対話メカニズムを確立したと見ている。
  • HEDの最初の狙いは、貿易不均衡問題に影響を及ぼす市場アクセス、IPR、環境、ハイテク及びエネルギーなどについて協議し、バランスの取れた貿易発展の具体的な方策を見出すことにある。このようにHEDは、EU・中国間の貿易不均衡の是正(主にEU側の関心事項)に主眼を置かれたが、中国の市場経済地位(market economy status:MES)問題、EUにおける対中ハイテク製品輸出の規制緩和など、中国側の関心事項も含まれている。
  • 2008年4月に北京で開催されたHEDは、貿易と投資分野の協力、持続的な開発と環境、消費者保護と製品安全、開発援助など幅広い分野での討議が行われたが、特に1)エネルギー、2)ハイテク分野の貿易、3)IPR保護、4)貿易円滑化にフォーカスした深堀の議論が行われた。
  • 2009年5月にブリュッセルで開催された第2回HEDは、貿易と投資、中小企業協力、税関協力、持続可能な開発、貿易と消費者保護、貿易とイノベーション(IPR保護を含む)、交通輸送などの七つの議題について議論を交わした。金融危機の下でHEDが開催されたので、自由貿易の堅持が最優先課題とされた。また、貿易に関する課題解決よりも中小企業の協力やハイテク製品など貿易・投資の拡大に関する方策の協議に重点を置いた。また、対中ハイテク製品輸出の規制緩和や中国のMESについても引き続き協議された。
  • このようにHEDは、EU-中国サミットによって設置されたが、サブ委員会のような性格を有しており、サミットで議論された政治的意思を具現化させる役割を持つような対話チャンネルとなっている。