米中首脳会談を読む:「米中戦略・経済対話」
発行日 2009年4月17日
主席研究員 金 堅敏
統合された「米中戦略・経済対話」
- 2009年4月1日にロンドンで行われた米中首脳会談は、統合された「米中戦略・経済対話」(U.S.-China Strategic and Economic Dialogue)枠組み の設立に合意した。この枠組みは、政治、安全、気候変動の議題を協議する「戦略対話」と経済、通商、金融の議題を協議する「経済対話」という二つの部分からなる。本国首脳の特別代表として、クリントン国務長官と戴秉国国務委員(副首相相当)が共同議長を務める戦略部門と、ガイトナー財務長官と王岐山副首相が担当する経済部門に分けて進める。米中持ち回りで年1回開催し、第1回目は今年夏にワシントンで開催される。
- 米中間には60以上の対話チャンネルがあると言われているが、もっとも重要な枠組みは、第2期ブッシュ政権の下で創設された「米中戦略対話」と「米中戦略経済対話」という二つのチャンネルである。次官級の「米中戦略対話」は、2005年8月の第1回目から08年12月の第6回目まで続けられ、2国間および世界や地域間の政治、外交、国防・軍事問題に及んだ。大臣級の「米中戦略経済対話」は、2006年12月の第1回目から08年12月の第5回目まで行われた。
- しかし、ブッシュ政権からオバマ政権への移行によりこれらの米中間の対話枠組み、特に「米中戦略経済対話」が継続されるかどうかは不確実となった。経済成長を最優先課題と掲げている中国は、安定した中米関係を維持したく「米中戦略対話」の継続かつ更なる進化を待ち望んでいたが、ブッシュ政権からの政策転換を大きく変える姿勢を見せているオバマ新政権が米中対話の枠組みを継続させるかどうかに不安を隠さなかった。
- 他方、米国内には「米中戦略対話」に賛否両論があった。継続賛成論者は、米中相互依存関係、対テロ作戦・温暖化対策・エネルギー問題・食糧安全などの地球規模のイシューでの協力関係、金融危機における中国からの協力などに米中対話枠組みが必要だと説いていた。また、経済イシューに限定することなく政治、経済、軍事、人権など広範囲にわたる対話枠組みを構築し、大臣レベルから副大統領・首相レベルで行う提言も見られた。逆に、否定論者は、「米中戦略経済対話」設立は経済政策の変更を中国に説得するためだと理解し、対話を通じて人民元の切上げなど若干の変化は見られたが、貿易赤字の解消や中国国内の金融サービス市場開放など米国が期待していた結果は得られていないと異論を展開していた。
- 結局、オバマ新政権は対話継続を選択した。「米中戦略対話」を大臣レベル(中国側は副首相級)に引き上げ、そして大臣レベル(中国側は副首相)の「米中経済対話」を第二のチャンネルとし、統合された「米中戦略・経済対話」枠組みを推進することとなった。戦略対話と経済対話を統合させたのは、米内部関係部門の協力によって整合性のあった対中政策を狙ったという。ただ、副大統領・首相レベルの枠組みという提言は採用されなかった。
対話の議題設定に「同床異夢」の可能性
- 米中対話の枠組み維持に積極的な中国はオバマ政権の構想に拍手を送ったが、これまで対話の枠組み設定の目的や具体的な議題の設定に米国との相違が見られた。統合された「米中戦略・経済対話」の下でも双方の思惑に「同床異夢」が生じる可能性はあろう。
- これまで中国が想定していた戦略対話の目的は米国と二国間問題とグローバルな共通課題についての対話にあったが、これまで米国側が提起したテーマは、為替問題、市場開放・投資保護、知的財産権保護、食品安全性問題、省エネルギー・環境保護問題、中国国内の経済政策など、専ら二国間問題に集中しており、グローバルな議題はまれであった。また、中国は、戦略対話枠組みの位置付けは戦略的、長期的な議題についての対話にあると理解していたが、米国の関心事の大部分は人民元切り上げ問題や貿易赤字問題、市場開放などのホットな話題に集中していた。
- 米国は戦略対話の中心は戦略的、長期的な議題にあるとは理解しているはずだが、目に見える成果を持って国内の要求(議会、業界、利益団体)に答えなければならないため短期でホットなテーマに目を向けざるを得ないという民主制度から来た制度的制約に対する中国の理解が欠けているように考えられる。ただし、金融危機の発生でグローバル金融システムの安定化や監督の在り方について2008年12月で行われた第5回米中戦略・経済対話で取り上げられたように中国の問題提起が取り上げられるようになった。
- また、「米中戦略・経済対話」の取り組みに関するクリントンとガイトナーから出された共同声明は、対話は主に米中の二国間、地域及びグローバルに存在する短期問題及び長期的な戦略課題について協議するとうたっている。米国の議題設定に二国間問題とグローバル問題のバランスや短期的課題と長期的問題のバランスを図る努力が見られ、中国の関心に答えようとしている。今年夏から始まる米中間の新たな戦略対話はより包括的なものとなるに違いなかろう。
