人民元国際化のロードマップ-「周辺化」、「地域化」、「国際化」
発行日 2009年2月12日
主席研究員 柯 隆
人民元へ注目が高まる背景
- こうした背景のなかで、人民元国際化の議論がにわか活発化している。
- 人民元への注目が集まる背景には、いくつかの要因がある。まず、過去30年間の年平均10%近い高成長により、中国経済のファンダメンタルズは急速に改善されている。そして、2001年の世界貿易機関(WTO)加盟をきっかけとする市場開放が国際社会における信頼を獲得している。さらに、「改革・開放」政策はすでに逆戻りのできない大きな流れとなり、外国企業は安心して中国に進出している。それに加え、中国が世界の工場から世界の市場に変身しつつあることも重要な要因の一つである。
- では、人民元はほんとうに国際化することができるのだろうか。
- 簡単なことではないが、方向性としては間違いなく国際化に向かっていくと思われる。ここで、人民元が国際通貨になる条件を整理しておく。第一に、流動性を供給するために、ある程度の国際収支赤字を認めることである。経常収支と資本収支がいずれも黒字の場合、中国は資本を輸出することができず、人民元の国際化は空論に過ぎない。第二に、資本市場や決済システムなどの金融インフラを整備することである。人民元の使い勝手を改善しなければ、人民元の使用が拒否される。人民元への信頼を高めるために、人民元の偽造などの取り締まりを強化する必要がある。第三に、為替政策として人民元の安定を鮮明にすることである。基本的に、為替相場のボラティリティの大きい通貨は国際化しない。ちなみに、輸出を促進するために、人民元の切り下げを誘導する必要があるかもしないが、過度な元安誘導は元の国際化を妨げることになる。
人民元国際化の条件へ
- 以上の考えを踏まえ、人民元の国際化を改めて検証してみると、上で述べた人民元国際化の条件を満たしていく前提で考えれば、いくつかの段階を踏んでいかなければならないと思われる。
- 現段階では、人民元が周辺諸国で流通しており、国際化の第一歩として「周辺化」の段階にある。とくに、中国と経済関係が密接なベトナムやラオスなどの周辺諸国で人民元はすでに流通している。これらの国では人民元はすでにハードカレンシーになっているといって過言ではない。
- そして、次のフェーズで人民元は地域通貨になる、いわば「地域化」(regionalize)していくということである。これは中国のアジア諸国との自由貿易協定の締結にあわせ、徐々に進展していくものと予想される。
- さらに、人民元はアジア域内でハードカレンシーになったあと、「国際化」に向かうと予想される。それを実現するには、少なくとも20年以上はかかるだろう。経済規模の拡大と金融インフラの整備に加え、民主主義の政治改革も求められる。
- したがって、人民元の国際化は一夜にして実現することはないが、中国経済の発展と同時に確実に進展している。何よりも中国政府はそれを意識して人民元の国際化を推進している。そのなかで、日中の金融協力の強化が求められているが、現状において不十分といわざるを得ない。
日中金融協力のあり方
- ここで、日中金融協力のあり方について検討してみる。
- 現状において、日中は国際収支の黒字で蓄積されている外貨準備の多くが米国債や金融債などドル建て資産として保有しており、米国の最大の債権国になっている。限られた外貨資産がアジア域内の経済発展に寄与しているのは問題である。
- 日中の金融協力について通貨スワップを軸に進められているが、限られた外貨資産を域内で有効利用しようとする努力は不十分である。近年、アジアボンドマーケット(ABM)構想が構築されようとしている。これは域内における資産運用の推進策として注目されている。しかし、域内の資本市場の連携が遅れ、ABM構想はそれほど進展していない。
- 今回の金融危機をきっかけに、日中の金融当局の間、金融協力に関わる有効な枠組み作りが求められている。具体的に、金融システムのリスク管理、金融資産運用の効率化と危機のアーリーウォーニングを中心に、枠組み作りを急ぐべきである。
