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国有企業救済に回った「国有資本経営予算」

発行日 2009年1月20日

主席研究員 金 堅敏


動き出した「国有資本経営予算」

  • 07年に中国は、金融など一部を除く国有企業を対象とした国有資本経営予算制度(国有企業の配当金徴収および支出に関する特別会計制度。94年以降中国の国有企業は利益を全部内部留保し、株主である国への配当金上納は停止されていた)を確立した。国レベル(地方政府の管轄下にある国有企業を含まない)では、07年末に中国煙草公司と国務院国有資産管理委員会管轄の「中央企業」150社あまりから06年度の純利益に対する配当金の徴収が試験的に開始され、08年5月には07年度分の配当金が正式に徴収された。
  • 中央企業に対して07年度からの純利益に対する配当金上納率は、1)中国煙草、中国石油、国家電網、中国移動などの独占的企業18社は10%、2)中国アルミ、宝山製鉄などの競争分野の企業99社は5%、3)石炭科学研究院や中国原子力工業集団等の研究型企業や航空・原子力・船舶などの32社は3年間免除、4)中国食糧備蓄と中国棉備蓄の2社は免除、となっている。
  • 中国財務省によると、06年度の純利益から139.9億元が上納されたが、07年度からは443.6億元(08年9月26日現在)が確定された。これまで企業による滞納はなかった。
  • 国有資本経営予算の支出は、1)資本性支出:新設企業への国有資本の注入、既存企業への国有資本の増資など、2)費用性支出:国有企業改革のコスト等の費用負担、3)その他の支出:社会保障等の分野への支出の三つを含む。
  • 07年の支出予算を組まなかったので、08年への繰り延べとなった。「国有資本経営予算」の規定により赤字予算は取らないとされているので、08年使える予算は2年分合計で583.5億元となった。
  • 08年9月時点で08年中央国有企業経営予算支出予算は、1)資本支出546.6億元(予算総額の93.6%)、2)費用性支出22億元(同3.8%)、3)その支出14.9億元(同2.6%)を組んだ。
  • 以上の支出予算は主に、1)四川大地震で破壊された中央企業への救済、2)国有企業の構造調整、3)中央企業の重要なR&D活動、4)中央企業の省エネルギー・排出削減、5)中央企業改革に伴うコスト負担、6)中央企業の社会保障ファンド強化への支出などとアナウンスされた。
  • 実際、07年5月に設立された「国家核電有限公司」(第三世代の原子力技術の導入、国産化、商業化のために設立された国有企業)への中央政府出資金24億元(シェア60%)は当時予定されていた「国有資本経営予算」から支出することを決めた。また、08年5月に設立された「中国商用飛行機有限公司」(中型・大型民間航空機の研究、製造、商業化を目的とする国有企業)への中央政府出資金60億元(シェア31.58%)も「国有資本経営予算」から支出された。さらに、08年5月28日に四川大地震で破壊された国有企業の再建資金として「国有資本経営予算」から5,000万元が緊急支出された。

方向転換を余儀なくされた「国有資本経営予算」の支出

  • 上述の三つのケースは、当初想定された「国有資本経営予算」の支出範囲であった。08年9月以降、中国経済は急速に鈍化し国有企業業績悪化の度合いが深まってきた。特に、中国政府は08年11月5日に4兆元投資に上る緊急経済対策を決定したが、第2の財政予算とも言える「国有資本経営予算」も国有経済の高度化・ハイテク化や企業改革の深化のための予算から既存国有企業の救済支出に再編成せざるを得なくなった。
  • 08年11月26日に公表された「2008年中央企業国有資本経営予算」では、予算総額が547.8億元(約8,200億円)で、1)資本支出270億元(シェア49%)、2)四川大地震復興などの支出196.3億元(同36%)、3)構造調整関連81.5億元(15%)からなる。
  • これまでに明らかにされた支出は、1) 11月27日に南方航空への資本注入30億元(資産負債率は83.26%から79.84%に低下)と2)12月29日に東方航空への資本注入70億元(同98.36%から90.13%に低下)、3)09年1月8日に桂冠電力への3,000万元資本注入(震災復興補助金か資本金かは不明)の三つである。ただし、1)と2)は経営不振で傷んだバランスシート改善への資本注入であるのに対して3)は四川大地震の損失を補填するための資金注入である。

国有企業救済のための資本注入とモラルハザード

  • 欧米の経済危機と違って、中国の金融機関は世界的な金融危機の影響をあまり受けていないが、輸出産業や航空業界、電力業界、鉄鋼業界、素材業界などは世界同時不況に大きな打撃を受けている。08年12月初めに中国で初めて設立された民間航空会社奥凱航空は市場低迷の影響で顧客輸送業務が無期限停止となった。同じように多くの民営企業は資本注入されることなく倒産や閉鎖の運命にあった。皮肉にも経済危機で中国経済は「国有拡大、民営縮小」という改革の目標と逆の方向に向かった。
  • もっとも、雇用など国民経済への影響が大きいという理由で国有企業への資本注入が正当化されるとしても、経営改革のコミットなしに無条件で行えば、モラルハザードが蔓延するに違いない。航空会社にとどまらず、電力、鉄鋼、船舶、自動車など次から次へと理由をつけて「国有資本経営予算」から資本注入を要求されるだろう。