中国の景気対策:「4兆元投資」の深層
発行日 2009年1月20日
主席研究員 金 堅敏
「4兆元投資」の真水問題
- 2008年11月5日に中国の国務院(内閣相当)は、内需拡大による経済成長促進の10項目にわたる政策を決定した。これらの景気対策実施に当たっては2010年まで4兆元(約60兆円)の投資がかかると概算された。08年11月~12月に中央財政から1,000億元(約1.5兆円)がすでに追加投資された。中国政府の巨大な景気対策に驚いた世界各国は大いに評価したが、「4兆元投資」の実態に内外から疑問視する声も聞かれた。
- まず、09年~10年の2年間の「4兆元投資」対策内容は、2010年までの通常投資計画をアナウンスしただけかそれとも通常計画以外の追加投資かが曖昧であることが挙げられている。日本で言う「真水」が問われるものである。実際、中国政府も新規追加投資かどうかを分けづらいと表明している。その背景には、1)国家財政予算の変更は中国国会に当たる全国人民代表大会での事前批准が必要であることや2)資金調達の方法について経済統括部門の国家発展改革委員会と財政部の間の意見の相違(前者は成長優先赤字拡大容認、後者は財政赤字拡大に警戒)があると言われている。例えば、08年末までに追加投資された1,000億元は「中央予算安定調節基金」や08年の財政収入超過の部分から賄われ、全人大の事前批准は免れたという。
- その「真水」については、国家発展改革委員会専門家の話を引用した報道によると、「4兆元投資」のうち、2兆元は通常の投資計画によるもので、残りの2兆元は新規追加投資であると明かされている。ただし、09年に通常よりも追加投資がどのぐらいになるかは、財政赤字の容認政策によると考えられる。09年3月初旬に開催される全人代で決定される。
資金調達問題
- 「4兆元投資」の今ひとつの問題は、投資主体とその資金調達能力である。中国の報道によると、「4兆元投資」のうち財政支出については中央財政からの増加支出額は1.18兆元(08年に1,000億元)で、地方政府の支出が1.25兆元(08年に1,300億元)と概算されている。つまり、中央財政と地方財政から09年にそれぞれ5,200億元、5,400億元、10年に5,600億元、5,800億元を追加支出する必要がある。
- 近年、黒字基調にある中国の中央財政にとって上述した09年、10年の赤字財政を負担する能力に問題はないが、地方財政には大きな問題が残る。なぜなら、中国の『予算法』により地方政府による地方債の起債が禁止されており、これまで頼ってきた土地使用権譲渡による収入や地方税収入は不動産バブルの崩壊や不景気により大幅に低下し、資金調達が困難になってしまったからである。因みに、地方財政の負担能力は、09年に3,000億元(不足資金2,400億元)、10年に3,200億元(不足資金2,600億元)と見込まれている。
- 地方財政の負担能力問題を解決するために、1)プロジェクトの必要に応じて中央財政の支出シェアを引上げ、地方財政の支出分の低減や免除によること、2)中央政府による「転貸」(中央政府による代理起債)或いは法改正による地方債起債を可能にすることを図っている。中国では、アジア通貨危機のときにも使われた「転貸」の手法が取られると報道されている。「転貸」によって調達される資金は中央の予算に編入せず、中央財政赤字にカウントされないで済むという。ただし、かつて行われた「転貸」で数多くの地方政府は事後債務の減免を要求したり、踏み倒したりする苦い経験があったので中国財務省は慎重な姿勢を崩していないようである。
- このように、中央政府の起債額は、地方財政の肩代わり分を合計すると、09年に7,600億元、10年に8,200億元となり、国全体の財政赤字対GDP比は約2.6%増加する計算になる。財政赤字対GDP比は、3%を超えていないので中国政府は容認するだろう。
財政支出による乗数効果の問題
- 「4兆元投資」の分野は主に、1)公共住宅整備関連、2)農村インフラ整備関連、3)重要なインフラ整備(道路、鉄道、空港など)、4)生態環境、5)文化・衛生、ハイテクなどに限定されるが、08年11月~12月に追加投資された1,000億元では、1)公共住宅整備等に100億元、2)農村メタンガス利用、飲用水、道路、通信、水利事業などに340億元、3)鉄道、高速道路、空港などのインフラに250億元、4)末端の衛生事業、学校校舎、文化事業などに130億元、5)都市汚水処理、ゴミ処理、省エネ・排出削減、生態環境整備に120億元、6)ハイテク研究・産業育成、産業構造調整に60億元を割り当てた。
- 以上の投資事業から今回の経済対策は、景気対策とともに格差解消などの社会政策、環境対策や構造調整政策などをも目指しているので、景気対策に絞った財政支出の乗数効果は期待できないといった批判の声も聞かれる。
- ただし、中国政府は「4兆元投資」対策によって2.0%~2.5%のGDP成長が引き上げられるのを目指しているので、現在の取組みは可能であると一般的に見られている。むしろ、今回の危機をバックに格差解消や省エネ・環境改善をもたらすことができれば、中国経済の中長期的な発展につなげるので評価されよう。
