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4兆元の景気対策の是非

発行日 2008年12月19日

主席研究員 柯 隆


景気減速の背景

  • 世界最高の成長率を続ける中国が突如として巨額の景気浮揚策を発表した背景にどのような事情があるのだろうか。
  • まず、グローバル金融危機による景気減速に対する懸念である。しかし、弱くなっているといわれる外需はまだ中国経済に深刻な影響を及ぼしていない。今年1-10月の貿易黒字は2,160億ドルであり、前年同期並み(2,124億ドル)の規模だった。
  • そして、五輪後遺症との指摘もある。しかし、経済成長の減速は五輪前からすでに始まった(第1四半期10.6%→第2四半期10.1%)。五輪開催期間中の第3四半期の成長率はさらに9.0%に落ち込んだ。とくに、1-10月の固定資本形成(設備投資)は27.2%伸びるなど、このトレンドを五輪後遺症と決め付けるには明らかに無理がある。
  • そもそも、08年の中国経済が大きくスローダウンする環境にない。48%に上る貯蓄率と依然続いている外資の流入は潤沢の流動性を供給している。にもかかわらず、中小企業を中心に資金繰りが難しくなっている。外需は前年並みのレベルで推移しており、同時に、国内の小売上高(内需)は徐々に拡大している(07年16.8%→08年1-9月22.0%)。
  • 結論を先取りすれば、経済成長が大きく減速したのは昨年来の行き過ぎた景気引締政策によるものである。中央銀行はインフレ抑制のために、98年に一旦撤廃した商業銀行に対する貸出総量規制を復活させた。この措置こそ景気後退をもたらす真犯人である。

4兆元の景気対策の是非

  • こうした文脈から4兆元もの景気対策がほんとうに必要かどうかを再検討する必要がある。11月はじめに人民銀行は商業銀行に対する貸出総量規制を解除したが、タイミングとして遅かった。それでもそれは景気がリバウンドする転換点となるはずだ。ただし、その効果は3ヶ月ないし6ヶ月のタイムラグで現れる。
  • 景気の緩やかな回復を待たずに、4兆元もの景気対策が発表された背景には雇用の悪化がある。今回の景気対策の中身をみると、交通インフラの整備、低所得層向けの住宅建設の強化、送電網や「南水北調」プロジェクトへの投資など、公共投資が大きなウェイトを占めており、出稼ぎ労働者の雇用対策としての色彩が強い。
  • 今回の景気減速によってすでに2,100万人もの出稼ぎ労働者は職を失ったといわれている。社会保障制度の整備が遅れている中国社会にとって失業問題の深刻化は社会安定を脅かす最大の要因となる。したがって、雇用の安定化を目指す意味において今回の景気対策は無意味なことではないと思われる。
  • しかし、玩具メイカーなど中小企業の破たんによって職を失った出稼ぎ労働者をどれほど建設現場に移すことができるかは明らかではない。実際に、鉄道などの巨大プロジェクトは着工するまで時間がかかり、緊急的な雇用対策として望めない。
  • それよりも、これだけの大規模の公共プロジェクトについて、その効率性が心配される。政府による資源配分の弊害は計画経済の時代に痛いほど経験している。現在の中国でやるべきことは中央政府と地方政府と国有企業の三位一体で取り組む公共工事ではなく、規制緩和による民間資本の活用である。
  • 最後に、産業構造の高度化(ハイテク化)によって経済成長の雇用創出効果は次第に低下していく。その代わりに、物流を中心とするサービス業の振興は必要不可欠である。しかし、今回の景気対策のなかでサービス業の振興はほとんどメンションされていない。