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環境保全の3つの制約

発行日 2008年12月19日

主席研究員 柯 隆


環境改善に向けた3つの制約

  • 一般的に、日本では環境保全についてその技術や設備を重んずる傾向がある。近年、排出権取引を中心に、環境ビジネスを強化すべきとの意見は少なくない。しかし、中国のような振興国では事情がすこし違う。
  • そもそも、歴史的な観点からみれば、ほとんどの国ではキャッチアップの段階において環境保全よりも成長に政策の軸足を置きがちである。そして、クリーンな環境が望ましいが、そのためにコストを払いたくないのも一般的な傾向である。
  • こうした大きな流れのなかで環境軽視から環境重視への政策転換の臨界点を見つけ出さなければならない。その前に、政策姿勢の転換を妨げる3つの制約があることを確認しておきたい。すなわち、(1)国民意識、(2)制度と(3)技術である。
  • この3つの制約のうち、環境保全に向けた第1歩は国民的コンセンサスを得ることである。かつて、日本でも環境問題が深刻だったが、それが改善されたのは環境保全に向けた国民のコンセンサスとそれをもとに市民運動が盛んになったからといわれている。現在の中国に照らし合わせると、環境保全に関する国民のコンセンサスがまだ得られていない。
  • そして、環境保全の意識が高まれば、その権利を保障するための制度作りが求められる。監督行政機関である環境保護局は企業の環境保全をモニタリングすることになる。しかし、市民の監視がなければ、行政と企業の癒着が始まる。同時に、市民による企業の環境保全への監視も重要な役割を果たす。この一連の行為を制度的に担保する必要がある。
  • さらに、国民の意識の転換と制度面の監視を背景に、企業も社会的責任として環境保全に向けて技術の開発に取り組むようになる。したがって、技術の開発は環境保全のスタートではなく、国民の意識転換と制度面の担保があってのことである。

持続可能な成長を目指す「科学的発展観」

  • 環境公害問題の深刻化は中国の指導部がまったく察知していないというわけではない。大気汚染と水質汚染はすでに目に見える形で表れている。また、経済成長していくうえで、現在のエネルギー効率のもとでは経済成長を支えるエネルギー資源の確保がいずれ難しくなり、成長がブレークされてしまう恐れがある。
  • 単位あたりGDPを作り出すのに、どれぐらいの1次エネルギーが使われているのかというエネルギー効率を計算してみると、中国は日本の9倍ものエネルギーを使っている(2006年)。06年に始まった第11次5ヵ年計画では、環境問題の改善とエネルギー効率の向上に向けて初めて明確な数値目標が発表された。これからの5年間のうち、エネルギー消費量を20%下げるということである。すなわち、毎年4%ずつ減少するという計算になる。
  • しかし、第11次5ヵ年計画はすでに2年余り経過したが、設定された数値目標は達成していない。拘束性の弱い数値目標を設定しても、ほとんど意味のないことが判明された。ここでも、国民の意識転換の遅れと制度面の担保のなさが指摘される。
  • 最近、中国の研究者に対するインタビューで、「産業構造の特性から目標の達成が不可能」との見解が示された。というのは、経済成長のエンジンは依然としてエネルギー多消費型の重工業に依存しているためである。
  • 確かに、エネルギーと環境公害は表裏一体の問題である。環境を改善するために、省エネを促す必要があるが、同時に、産業構造の転換が不可欠である。
  • 第1に、環境保全行政を改革し、その透明性を高めることである。現行の環境保全行政の問題点として縦割り組織作りのために責任の所在は不明確である。
  • 第2に、環境保全の法整備である。これまでのところ、環境保全の法整備は法の条文の制定に注力されてきたが、司法の独立性が確立されていないため、違法行為の取り締まりは不十分である。
  • 第3に、環境保全の予算の確保である。そのために、環境税の導入が検討されているが、それを有効に執行することも同時に考えておかなければならない。
  • かつて、イギリスや日本は経済のキャッチアップの段階において環境公害の問題が一時期深刻化した。経済が発展してから環境も再生している。しかし、13億人の中国はかつてイギリスや日本と同じような発展経路を辿ることができない。経済成長を図ると同時に、環境保全に全力で取り組まなければ、一旦破壊してしまった生態環境が元には戻れない。